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300余年の歴史を誇る酒蔵が発信する、新しい日本酒の形。

2023/10/19

兵庫県神戸市・西宮市の海岸沿いの地域は、「灘五郷」と呼ばれ、江戸時代から現在に至るまで日本一の酒どころとして有名です。「灘五郷」の中の酒造メーカーのひとつ、「沢の鶴」からサステナブルに配慮した新しいスタイルの商品が発売されていると聞いたアッキーこと坂口明子編集長は興味津々。本当においしい日本酒、新しい形の日本酒について沢の鶴株式会社、代表取締役社長の西村隆氏に取材スタッフがうかがいました。

沢の鶴株式会社 代表取締役社長 西村隆氏
沢の鶴株式会社 代表取締役社長 西村隆氏

―創業は江戸時代とか。

西村 1717年、元号だと江戸期、享保2年に創業、今年で創業306年になります。それまでは大阪で米屋を営んでおりまして、その副業として酒造りを始めました。
元々、米屋だったので、今でも商標として「米」の文字をかたどった「※」マークをシンボルとして使っています。また、日本酒の原料である米にこだわって酒造りをするという理念を300年以上も継承しています。私はその15代目で、創業300年を機に社長に就任しました。

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米を大事に酒造りを行ってきた300余年の歴史を象徴する※印の商標。

―御社のある灘五郷は日本一の酒どころですね。

西村 神戸市灘地区は江戸期から酒造りが盛んな地域です。これほどまでに酒造りが隆盛になったのにはいくつもの理由があります。
まず、原料の酒米の産地に近く、酒の品質を左右する良質の水に恵まれました。六甲山系の伏流水である「宮水」と呼ばれる水がこれです。また、酒造りをする人を杜氏といいますが、「丹波杜氏」として有名な丹波出身の杜氏、今でいうエンジニア集団ですね、その人材にも恵まれました。また、六甲おろしという冷たく乾燥した風が吹くなど酒造りに適した気候と、海に近いため日本各地に酒を運ぶ物流の利点もありました。
このような理由から日本一の生産地になったのが灘五郷(西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷)です。私たちはこの歴史を誇りに、さらに灘五郷について広く知っていただけたらと思っています。

―その中での御社の特徴は?

西村 灘五郷の酒造会社は現在30社ほどあります。当社は灘五郷の一番西、西郷(にしごう)にあります。先ほども述べたように元々米問屋で、酒の原料に直結するところから始まったというのが我々の特徴で、現在に至るまで原材料にこだわって酒造りをしています。
日本酒には造り方と原料によって、本醸造酒、吟醸酒、普通酒などいろいろな種類がありますが、中でも醸造アルコールを加えず、米と麴と水だけで作るのが純米酒で、米本来のうま味と甘みを味わうことができます。我々の商品の中核が純米酒で、当社は全国の蔵元の中で純米酒のトップブランドを目指しています。

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兵庫県三木市の契約農家の田に実る「山田錦」。
酒米を作る農家とは130年ほどのおつきあい。

―その酒米はどのように仕入れていますか。

西村 酒造りに適した品種が約80年前に開発された「山田錦」です。当社は兵庫県三木市吉川町実楽地区の農家さんと契約して「山田錦」の栽培米を買い取っています。当社の社員が頻繁に田んぼにうかがい、米の出来栄えなど情報交換をして一緒に米作りをする仲間としておつきあいいただいています。
明治時代から130年にわたっておつきあいしている農家さんたちがいらっしゃって、私も田んぼにうかがったり会合などでお目にかかると、お互いの親や祖父の話になったりします(笑)。

―酒造りの大変なところはどういうところでしょう。

西村 米作りは自然が相手なので、年によって暑かったり涼しかったりの気候の変動に左右されます。農家さんにはその環境に対応して水の量、田植えや稲刈りの時期を変えるなどしてより良質な米を作るノウハウが蓄積されています。
私たちはその米を受け取って酒造りをしますが、メーカーとしては商品を毎年安定的に同じ品質でお客様にお届けするという大切な使命があります。前回買ったお酒と今回買ったお酒で味が全然違うということはあってはなりません。製造について話し出すと長過ぎることになるので省略させていただきますが(笑)、洗米・蒸米から麴づくり、仕込みから火入れまで多くの工程の中で、たとえば今年のお米に対してどういう麴を作ればいいかなど、工夫しながら悩みながら醸造していますね。

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温かみを感じる「100人の唎酒師」のボトル。
包み紙には「沢の鶴」社員の100人の唎酒師を
イメージしたイラストが描かれ、日本酒の作り手を身近に感じることができる。

―日本酒が繊細な食品だということがわかりました。さて、今回、2つの商品を紹介くださいました。

西村 当社の新しい試みとして開発した商品です。1つ目が『100人の唎酒師(ききざけし)』で2020年に発売開始しています。「唎酒師」というのは日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)という団体が認定している日本酒をおいしく飲んでもらうための日本酒のソムリエともいうべき資格です。日本酒の歴史や造り方、提供方法を総合的にプレゼンテーションできる伝道師ですね。当社には延べ100名以上の唎酒師がおり、営業担当は全員、この資格を取得しています。そして、さらに上の資格である「日本酒学講師」を持っている者も12名います。もちろん、社長である私も唎酒師の資格を持っていますよ(笑)。
新商品開発にあたって、せっかく唎酒師の資格を持っている者が100名以上もいるのだから、100人の唎酒師が一番飲みたい酒を商品化したらいいのでは?ということになりました。唎酒師が集まって意見交換したところ、一番飲みたい日本酒は、「搾りたてのお酒」と全員の意見が一致したんですよ。

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兵庫県播州産山田錦を100%使用し、
「灘の宮水」で仕込んだ純米生原酒「100人の唎酒師」はうま味、
コクがあり、ふくらみのある味わいと、キレのある後味が特徴。
ボディがしっかりしているので魚の煮付けなどによく合う。
大き目のグラスに氷を入れロックで飲むのがおすすめ。

―確かに搾りたてのお酒を一般の消費者が飲むのは難しいですね。

西村 そうです。たまたま酒蔵見学や試飲会などに参加くださって飲むことができたという方もいるかもしれませんが、発酵させた醪を搾ったばかりの酒は基本的には酒蔵で仕事をしている我々しか飲めません。極上のおいしさがある、この搾りたてのお酒をどうにかしてそのままお客様にお届けできないかを考え、いろんな技術を駆使しました。その結果、搾った後に酵素(たんぱく質)を極限まで取り除く「限外濾過(げんがいろか)」という高度な濾過技術を用いることで、一切の加熱処理をせず、また一切の加水をしない生原酒ができ、常温で小売店様など全国に流通することが可能になりました。
新製品というと米とか製造法のお酒の特徴を訴えるアプローチが多かったのですが、「唎酒師がおすすめする」という従来とは違った新しい視点からの商品開発でした。おいしいお酒をみなさんにおすすめするのが唎酒師の使命ですので、満足しています。
発売と同時にとても反響があり、多くの方に飲んでいただいています。

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ガラスに塗装を施したスタイリッシュなボトルは
従来の日本酒のイメージを変えた。

―もう1つの「NADA88」の開発のきっかけは?

西村 こちらは農業機械などの産業機械メーカーであるヤンマーさんとの異業種間のコラボレーションから生まれた商品です。
ヤンマーさんは農業機械を製造する中で、日本の農業の問題についての課題を解決したいと思っていらっしゃいました。農家は重労働の上に高齢化し後継者不足にも悩んでおられます。このままでは日本の農業が衰退していくと問題意識を持たれていたのです。
また私たちも、山田錦に匹敵するような酒米を作りたいと思っていました。山田錦はいいお米ですが背が高くて台風などで倒れやすいというデメリットがあります。背の低い品種の酒米があれば農家の方も育てやすく収益も上がりやすい。我々も安定的に酒米を仕入れることができます。
ヤンマーさんと我々の、「日本の農業を盛り上げたい」という思いが一致して、より良い酒米を開発しようとプロジェクトが立ち上がったのが2016年です。2021年の秋、OR2271という新しい酒米ができました。6年間の集大成として2022年に発売した日本酒が「NADA88」です。
当社が得意とする純米酒の良さが生きた純米大吟醸酒で、華やかな香りがあり、飲むとしっかりしたコクと甘みが感じられます。

―ボトルもスタイリッシュですね。

西村 これはヤンマーさんのデザイン部門が手がけました。我々の発想ですとどうしても一升瓶に代表される酒瓶のイメージから抜け出せませんので、ヤンマーさんにお任せしたのですが、普段、ボートやトラクターなどの産業機械をデザインされているので、やはり我々の発想とは違い、最初、見たときは正直、ちょっと飛びすぎちゃうかと(笑)。衝撃的でした(笑)。やはり我々の視点とは違う感覚のボトルになり、貴重な体験になりました。

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「NADA88」は甘口の純米大吟醸酒。
グラスから立ち上る果実香と、
米本来の品格ある甘味とコクが感じられる滑らかな味わいが特徴。
ワイングラスで飲むと果実香をより感じることができる。

―日本酒の今後についてどうお考えですか。

西村 今、海外で日本酒が人気です。日本の文化や食文化も含めて興味を持たれている方が多く、コロナ禍が終息し旅行客も来られているので、それを自国に持ち帰られて、日本酒や和食を楽しみたいという方が増えていますね。我々もメイドインジャパンの蔵元として、日本酒を海外に広めていきたいと強く思っています。
対して、国内では若い方などで日本酒の良さ、おいしさをまだ知らない方がたくさんいらっしゃいます。そんな方たちに日本酒を知っていただく機会を作りたいですね。「100人の唎酒師」「NADA88」など新しいコンセプトでの商品開発を続けていきたいと思います。
ご自宅にぐい飲みを持っておられなくても、ワイングラスならあるという方はぜひワイングラスで楽しんでいただけたらと思います。おいしいお酒をおいしい料理とともに楽しんでいただければ、と思います。

―本日はありがとうございました。

100人の唎酒師

「100人の唎酒師」
価格:¥1,375(720ml・税込)
店名:沢の鶴オンラインショップ
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.sawanotsuru.co.jp/c/nihonshu/tokubetu-junmai/10000287
オンラインショップ:https://www.sawanotsuru.co.jp/

沢の鶴 NADA88

「沢の鶴 NADA88」
価格:¥2,000(180ml・税込)
店名:沢の鶴オンラインショップ
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.sawanotsuru.co.jp/c/nihonshu/junmai-daiginjou/10000308
オンラインショップ:https://www.sawanotsuru.co.jp/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
西村隆(沢の鶴株式会社代表取締役社長)

1977年兵庫県生まれ。甲南大学経営学部を卒業後、1999年雪印乳業株式会社(現:雪印メグミルク株式会社)に入社。2003年に沢の鶴株式会社に入社し、創業300年となる2017年に代表取締役社長就任。沢の鶴は米屋が原点であり、「米を生かし、米を吟味し、米にこだわる。」をモットーに純米酒を中核とした酒造りを行っている。

<取材・文・撮影/今津朋子 画像協力/沢の鶴>

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