幼い頃や人生の節目に親しんだお菓子を、その土地を離れても時々思い出して食べられるのも「お取り寄せ」の良いところ。今回編集長アッキーが気になったのは、創業130年を迎える長崎の和洋菓子店「梅月堂」。同店が昭和30年代に日本で初めて販売した「シースクリーム」は、素朴で懐かしい味わいが今も愛されています。代表取締役の本田時夫氏と副社長の本田典子氏にスタッフがお話をうかがいました。
創業130周年!長崎発、懐かしいおいしさが人気の昭和レトロな欧風菓子「シースクリーム」
2024/01/05
株式会社梅月堂 代表取締役の本田時夫氏
―約130年もの歴史がおありなのですね。
本田 1894(明治27)年に創業し、2024年に130周年を迎えました。当初は和菓子店として始まり、大正時代に洋菓子も製造するようになって、以降和洋両方を取り扱ってきました。現在は売り上げとしては洋菓子が7、8割を占めています。
―和洋それぞれどのようなものを?
本田 和菓子は伝統的なお菓子、また長崎古来のものとしてカステラと桃カステラも扱っています。洋菓子は、最初のうちはドイツの職人に習っていたので、ドイツ菓子が中心でしたが、現在はフランス菓子、ドイツ菓子などさまざまなお菓子があります。初期の頃は、自転車に和菓子のサンプルを積んでお客様のお宅にうかがってご注文を受けるいわゆる注文販売で、そのような売り方が当たり前だった時代です。現在は、長崎市内に9店舗を開いていて、それぞれの店で和洋菓子の販売と喫茶をしています。
―本田社長は何代目ですか?後を継ぐことはいつ頃決心されたのでしょう?
本田 4代目です。大学を卒業する直前まで後を継ぐことは考えていなかったんです。就職活動を始めた頃に父が上京し、初めて将来のことについて話をしました。後を継げとははっきり言わなかったのですが、自分なりに考えた時に、家業は菓子屋であり、先々代から続いてお客様にご贔屓いただいている店だということを意識するようになりました。父からは「菓子屋をやるなら菓子屋で修業をしたらどうか」と言われていましたし、育った環境を考えると好きな部分もあり、お菓子が暮らしの一部になっていましたし、一つの道としてあるな、やってみるかと決心したんです。
1955(昭和30)年頃の梅月堂本店の様子と現在の本店。
―後を継がれてからも、変わらないお店のこだわりや、逆に新しくされたこととは?
本田 まず変わらないのは、製法。味はお客様が判断されるので、いいかげんなものは作らない。どのお菓子にも、もともとの作り方や材料のルーツは一つ一つあるわけですから、それは変えずに大切にしています。ただ、守るだけなら古いお菓子をずっと残すだけになるので、時代の流れというのか、お客様の味覚にどう対応しながら作るかというのは常に考えています。変化させることについては、積極的に必要なところは変えるというふうに考えてきました。「老舗の革新」という言葉のように、老舗になればなるほど大事なものを守りつつ、新しいものをアピールしなければいけない。守ると変える、両方を行って長く発展できればと思います。
―他社とのコラボレーションも進んでいます。
本田 副社長(本田典子氏)は入社する以前はチョコレートメーカーで商品開発に取り組んでいました。身につけた商品開発力を生かす意味でも新しいことに積極的にチャレンジしています。某チョコレートメーカーとシースクリームのコラボレーションのように、他の企業さんから当社に目を向けていただいたことには真摯に対応しようという姿勢ですし、そこで副社長の力を発揮してもらっています。
―人気ナンバーワンの「シースクリーム」は、先代がお作りになったものだとか。
本田 1955(昭和30)年頃に、当社のオリジナル商品として先代夫婦が製造販売を始めました。ちょうど生クリームが全国に行き渡ってきた頃で、おいしいという評判も広まって、これからは生クリームのお菓子が売れるのではないかということで作ったそうです。当時は、店舗に冷蔵ケースや冷凍庫の設備などはまだ普及していなくて、早く食べていただく生菓子として作ったと聞いています。他にも生クリームのお菓子は作りましたが、シースクリームの人気が一番。地方には生クリームのケーキはまだあまりなく、植物油脂のバタークリームが主流の時代でしたから、とろけるような口どけが衝撃的だったのか、おいしいと思っていただいて急激に売れたようですね。他のお店でも生クリームと黄桃・パイナップルを使った同じタイプのお菓子を作るようになって、「シース」と呼ばれて長崎のショートケーキとして定着しました。
1955年の発売から今日まで、長崎で長く愛される「シースクリーム」。
見た目が「豆のさや」に似ていることから英語の「さや」を名にしようとしたところ、
「刀のさや」と取り違えて「シース(sheath)」になったという。
間違いが発覚した時はすでに大人気となっていたため、誤解のないよう「ceece cream」というつづりに。
―どのようなお菓子ですか。形や構成は当初から変わらないのですか?
本田 スポンジ生地でカスタードクリームをサンドし、上に生クリームを飾りフルーツをのせたもので、ショートケーキの典型です。カスタードクリームや缶詰のフルーツを使っているところが特徴。生地はジェノワーズ生地の製法で作っていますが、生クリーム、カスタードクリームとの相性を考えて、水分が少し多めの生地にしています。
―シンプルですが、おいしさがしみじみ伝わります。
本田 単純な組み合わせだからこそ、一つ一つがちゃんとしてないとおいしくなりません。カスタードクリームは、もともとシュークリームやエクレア用に作っていましたから、お客様には評価をいただいていました。フルーツは、発売当時は今ほど冷蔵保存の設備が整っていなかったので、生のフルーツは使えず、それでシロップ漬けのフルーツになったようです。
スポンジでカスタードクリームをサンドし、上には生クリームとフルーツを飾ったケーキ。
生クリームが珍しかった時代に誕生し、たちまち大人気に。
―発売当時から形や構成は変わらず?
本田 発売当初は丸くてブッセ生地だったのですが、工場からショーケースに移す前に売れきれるほど人気が出ました。たくさん作らないといけないということになって、シート状に焼いてカスタードをはさみ、後でカットするという工程に切り替えました。丸から四角になったんです。
形や工程を変えながら現在の形に。下は2代目の復刻版。
―今も売れ続け、長崎っこにとって大切なお菓子ですね。
本田 長崎はシュガーロードといって北九州方面への街道沿いにいろいろなお菓子が残っていることもあり、甘い物のレベルが高い土地です。その中でも有名なのがカステラ。長崎の方は生地について、おいしいカステラを基準にしてそれよりも硬いか柔らかいか、口どけはどうかなど評価されるので、生地に関してとくに神経を使ってきました。お客様からは、うちはスポンジがおいしいというお声をよくいただきます。クリームといっしょになって、口どけのよさが感じられるというのか、いっしょになった感触、独特のうまみも感じていただけるのかなと思っています。
―素朴さもあって、長崎出身の方がお取り寄せされるケースも多いそうですね。
本田(典) 私が長崎に戻ってきてよく言われるのは「なんだかんだシース買っちゃう」。いつも寄り添ってくれるのがシースだったと言っていただくことが多いんです。県外の友人からは「初めて食べたけど懐かしい味だった」とよく言われます。ほっとしたい時に召し上がっていただけたらと思いますね。
オンラインショップで注文すると、長崎市外の場合は冷凍(クール便)で届けられる。
冷蔵庫で6~8時間解凍して味わう。冷凍保存での賞味期限は30日間。常備しておもてなしにも。
―店内の喫茶で召し上がる方も?
本田(典) 喫茶で食べることを楽しみにしておられる方も多いですね。ここでプロポーズしたとか、おじいちゃんに連れて来てもらったとか、特別な思い出がおありの方もあって、私どももそんなお話を楽しくうかがっています。
店舗には喫茶もあり、ここで味わうのも楽しみという人が多い。
お菓子にまつわる幸せな思い出は尽きない。帰省や旅行の際にはぜひ訪れてみたい。
―今後の展望をお聞かせください。
本田(典) 長崎にはシースケーキという名前のお菓子がいくつかありますが、その元祖の味を大切にしていきたいです。地元はもちろん、県外、海外からもお客様が来てくださいますので、おいしかったと思っていただけるお菓子を作ることが今後も大事だと思っています。県外で催事をした時は「懐かしい」と買っていただくこともあります。みなさまの記憶に残るおかしを作っていけたらと思います。
本田 お菓子というのは、忘れられない思い出を作るものだと思います。創業130年を迎えましたが、これからも150年、200年とそれぞれの時代の方にとって「あの時のお菓子」と思い出になるようなものを作っていきたいと思います。おじいちゃんに連れて来てもらったとか、そういうことが続くことが、私たち菓子屋が続くことだと考えていますので、その気持ちを大切にしていきたいですね。まだシースを召し上がっておられない方にはぜひ味わってみていただきたいですし、長崎に来られた時はぜひ梅月堂に食べに来ていただきたいですね。
―ぜひうかがいたいです。貴重なお話をありがとうございました。
「シースクリーム」
価格:¥1,420(3個入・税込) ¥2,380(5個入・税込)
店名:梅月堂 本店
電話:095-825-3228 10:00~19:00(喫茶は11:00~17:30 L.O.17:00)
定休日:元旦 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://baigetsudo.com/item/203
オンラインショップ:https://baigetsudo.com/online-shop
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
本田時夫(株式会社梅月堂 代表取締役)
1953年長崎県生まれ。青山学院大学卒業後広島市のフランス菓子店にて修業。1979年梅月堂入社後フランス各地でパティシエとして修業後1982年帰国。1994年代表取締役就任。初代が和菓子屋として創業後2代目がドイツ菓子を習得し、以来長崎市内で和洋菓子の製造販売業を営む。2024年で創業130周年を迎える。
<文・撮影/大喜多明子 MC/木村彩織 画像協力/梅月堂>