高知といえばカツオのたたきなどが浮かび、ブドウやワインのイメージではありませんが、ご当地ワインで地元を盛り上げようとワイナリーを始めた会社があると聞きつけ、編集長アッキーと取材班が伺いました。高知でブドウを作ろうと思ったきっかけや、地元農家さんとの絆など、地元愛溢れるお話を井上ワイナリーの代表取締役・井上孝志氏と梶原英正工場長に聞いてきました。
日本ワインコンテスト入賞も果たした高知のワイナリーから、地元愛溢れる「山北みかんワイン」が登場
2024/01/17
井上ワイナリー株式会社 代表取締役 井上孝志氏
―ワイナリーオープン1周年、おめでとうございます。御社のこれまでの歩みを教えてください。
井上 井上ワイナリーは、井上石灰工業という会社が母体となっています。井上石灰工業は来年で140周年になる会社です。高知では、質の良い石灰が出るということで、江戸時代から石灰を生かした産業が盛んでした。建設資材の漆喰とか農業用の肥料などを手掛けていましたが、どうしても高知は地の利が良くないため、高付加価値のものにする必要がありました。
そこで目をつけたのが農薬です。石灰に硫酸銅を混ぜたもので、「ボルドー液」というものがあります。その名の通り、フランスで140年ほど前にできた農薬で、天然由来の安心安全な農薬です。ただ、使いやすいかというとなかなか扱いづらく、農家さんに敬遠され下火になっていました。私たちは「ICボルドー」というものを開発しまして、使いやすい製剤にすることに成功し、現在も販売しております。
高知県香南市野市町大谷に立つ井上ワイナリー。
豊かな自然に包まれた、最新鋭のワイン醸造所。
―農薬の製造をしていた会社がワイナリーを始めたきっかけとは?
井上 このICボルドーのシェアはほとんど国内でした。なので、世界に進出したいという目論見があり、海外出張へ行くようになりました。ブドウ栽培及びワインの専門家である志村富男さんと一緒にタイやベトナムに行っては、ブドウの育て方やワイン作りの指導を行ったのです。そうしたら、あるとき空港で、志村さんに「教えるだけじゃなくて、自分で作ってみたら?」と言われまして、それもそうだな、と。
自前の安心安全な農薬はあるわけですし、ブドウの名産地であるフランスのブルゴーニュやボルドーという土地は石灰が多いということにも気がつき、「あ、高知でワイン、できるな」と思いました。
現在のワイナリーの様子。地元産のブドウでワインを醸造している。
―高知ワイン、どんなコンセプトで始まったのでしょうか?
井上 長野や山梨との差別化はなんだろう?と考えました。高知は、食材だと思いました。海、山、川の幸が揃った県です。量は多くはないにしても、それぞれに非常に美味しい食材があります。
カツオのたたきがその筆頭ですよね。格段に美味しいです。
あるとき、ソムリエの田崎さんに講演に来ていただいた時にも、「カツオには赤ワインが合う」と言われました。それで、「カツオのたたきに合う赤ワイン」、これを切り口にしよう、と決めました。
―それからすぐにブドウの栽培を始められたのですか?
井上 2012年、今から10年前ですね、試験的に5本ほどのブドウを植えてみました。それを栽培してサンプルにワインを作ったのですが、できたのは、たったのボトル5本でした。
それでもワイン好きの人に持って行ってみたら、「雑だけど、いけると思う」という声が少なくなかったんです。それで作り続けてみて、2016年に地元経済界の方に来ていただき、2015年ヴィンテージ・ワインでお披露目会を行いました。
―まずは地元にお披露目だったのですね。
井上 そもそも我々がこういったことをするのは、地元の活性化につなげるためなのです。地元の食材に合うワインを作るというストーリーが大切でした。
高知は元々7つの地域に分かれるのですが、それぞれの土地に畑を作り、それぞれの地名のラベルをつけ、高知の特産品である、赤牛や四万十ウナギ、金目鯛といった食材と相性の良いワインを作ろうというのが狙いです。まず、地元の人が喜んでくれるものを作ろう、ということですね。
畑のある地域名が明記されたワインのラベル。地元愛も深まりそう。
―畑の運営も地元との協力が欠かせないとか?
井上 今、畑は人手が足りないんです。それで、地元の老人クラブにご協力をいただいています。
ブドウ部会というのがありまして、30人くらいの方が週に1回、畑の作業をしてくださっています。老人クラブと言っても、農業のベテランですから、それはそれは手際がよくて助かっています。そして、収穫したブドウは全て弊社で買い取ってワインに醸造し、老人クラブの運営に充てていただいています。地域と一緒になって作ることが、とても大切なことです。
老人会ブドウ部の皆さん。地元の農作業のプロたちが参加してくれている。
―今回ご紹介いただいたのは、高知らしい、みかんのワインですね。
梶原 国内外のワイナリーでは、ブドウと一緒にりんごを栽培してシードルを作ったりしていますよね。高知では、地元のみかんがワインの材料になるのではないかと思いました。
高知は山北みかんが有名で、小ぶりで味がとてもいい産地です。農家さんの高齢化もあり、耕作面積が少なくなっているのですが、地域活性化をしたい地元商社さんの協力もあり、ワイナリーでワインにしてみようということになりました。
―山北みかんのワイン、どんな特長があるのでしょうか?
梶原 実はみかんのワインは愛媛や静岡にもあるのですが、高知らしさとして、コクのある甘さ、程よい酸味、濃厚な香りをもつ山北みかんを生かしたものにしたいと思いました。みかんの風味を出すことに注力しています。
1年目は、アルコール度数5%で、ワインと同様にフィルターをかけて漉してみたのですが、みかんの風味はほとんど失われてしまいました。次は、みかんの果汁を生かして、混ぜ物なく作ったのですが、3.5%の微アルになりまして。これはお客様から「酔えない」とクレームが来ました(笑)。4回目は、みかんはジュースでも濁っている方が美味しいし、透明ではなく濁っていて、苦味や香りも残っている、アルコール度数8%のものになりました。これがほぼ最終形態かなと思っています。
お土産としても大好評の「山北みかんワイン」。
見た目はジュースのようだが、飲んでみるとしっかりワイン。
見た目の鮮やかさ、程よい甘みと酸味、香りとコクに驚嘆する。
―どんな飲み方がおすすめですか?
梶原 ぜひスターターとして、スパークリングワインのように前菜と合わせて飲んでいただきたいです。柑橘類の入ったサラダやカルパッチョなどがおすすめです。
食後のデザートと一緒に飲んでいただくのもいいです。オレンジピールなど柑橘を使ったデザートには特にぴったりです。日本料理でも、ポン酢を使ったようなもの、ぶりしゃぶなどにも合うかと思います。
食後に、オレンジピールのチョコレートと共に。
大人の贅沢時間を味わうことができる。
チョコレートケーキ、オレンジソースのムースなどともよく合いそう。
―そのほかにも、ワイナリーおすすめの商品があれば教えてください。
梶原 畑は中山間地域にありますので、ジビエの商品がおすすめです。地元で採れた食材を加工して常温で賞味期限の長いものに加工しています。赤ワインで煮込んだ鹿肉や、四万十鶏のレバーパテもワインのお供としておすすめです。
「鹿肉の赤ワイン煮」。
地元食材とワインのペアリングも楽しむことができる。
通販サイトより取り寄せが可能。
―今後の展開についてお聞かせください。
井上 高知の未来を作るために力を尽くしたいと思っています。
高知にはさまざまな課題があります。例えば、若者の県外流出。農業の担い手がいなくなってきていますが、ワイナリーをやることで見方が変わり、若い人の農業への入り口になるかもしれないと思っています。
もっとすぐに打てる手とすれば、やはり観光です。高知には、美味しいものがたくさんある、美しい自然もある、そこにアルコールがあれば、旅はグッと面白くなります。
高知の地元活性化、それが一番の目標です。数年の内に、地元ワインのフェスができたらと考えています。毎年フェスがあるとなれば、地元の同級生で同窓会ができたりもするでしょう。地元のいいお土産にもなります。毎年みんなが楽しみにする、風物詩になるようなイベントになったら嬉しい。なにしろ、高知の人は地元愛が強いですからね。
ワインは日本ワインコンクールで2023年に入賞も果たしました。これから明るい未来しか見えません。地元の人たちと共に成長していきたいと思います。
―高知の皆さんの熱い地元愛を感じました!本日はありがとうございました。
「山北みかんワイン」
価格:¥1,980(税込)
店名:井上ワイナリー ONLINE SHOP
電話:0887-50-6694(10:00~18:00 月曜日を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.tosawine.com/products/detail/141
オンラインショップ:https://www.tosawine.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
井上孝志(井上ワイナリー株式会社 代表取締役)
1968年生まれ。日本ゼオン株式会社を経て1995年8月に井上石灰工業株式会社入社、2005年6月代表取締役に就任。2016年4月に井上ワイナリー株式会社を設立、代表取締役就任。
<文・撮影/尾崎真佐子 MC/木村彩織 画像協力/井上ワイナリー>