今回は、編集長・アッキーが注目したのは、東京・巣鴨の地蔵通り商店街にある「八ツ目や にしむら」。大正時代に創業して以来、炭火で香ばしく焼き上げたうなぎのほか、国内でも珍しい“八ツ目うなぎ”を出す店として愛されてきました。その原点や、100年近く変わらぬ味わいについてを3代目・西村卓氏に伺ってきました。
創業以来100年近く守り続ける秘伝のタレと炭火の香ばしさがたまらない!ふっくらやわらか肉厚の「うなぎ蒲焼」
2024/03/22
有限会社西村商店 代表取締役の西村卓氏
―創業は1926年、社長で3代目だそうですね。
西村 そうです。登記上は1928年(昭和3年)になっていますが、1926年(大正15年)にはバラック小屋かリヤカーのどちらかで商いをやっていたと思います。初代・西村武次郎は私の祖父でして、東京で一旗揚げようと福岡から上京。ほかの人が扱っていない珍しいものを売ろうということで、目をつけたのが”八ツ目うなぎ”でした。当時は交通事情が良くなく、巣鴨から墨田区までリヤカーを引いて仕入れに出ていたようです。
―“八ツ目うなぎ”とは何ですか?
西村 最も原始的な脊椎動物で、円口類に分類されます。その誕生は3億年以上前と言われ「生きた化石」とも言われています。生態は未だ謎に包まれているのですが、丸い吸盤のような口にトゲトゲした歯があって、これでサケやマスといった魚の体表に吸着し、血液を吸って栄養を摂る生物です。うなぎに似た見た目と、目の後ろにエラ呼吸をするための穴が7つあることから、“八ツ目うなぎ”と呼ばれています。栄養価がとても高く、ビタミンAはうなぎの5倍、ビタミンB2は13倍も含まれています。江戸時代には夜盲症・眼病予防、風邪を引いたときの滋養強壮に食されていたようです。
「今、八ツ目うなぎが食べられる店はうちだけだと思います」と西村社長。
店内で提供されるメニューのほか、お取り寄せにも対応可。
―かつては商店街の縁日でも提供されていたそうですね。
西村 巣鴨地蔵通り商店街には「とげぬき地蔵」の名で知られる高岩寺というお寺があるのですが、その先々代の住職がもっとたくさんの方に巣鴨を訪れてほしいと、毎月4の付く日を縁日としたのです。数多くの露店が並び、我々も八ツ目うなぎの蒲焼などを立ち食いスタイルで提供していました。バブルのときは、もう大変な賑わいで。月3回の縁日があれば1ヶ月は暮らしていける、なんていう時代でした。今も縁日は続いていますけれど、商店街にあった昔ながらのお店はどんどん減っちゃって。うちは古い方だと思います。
―今も変わらず、八ツ目うなぎを扱っていらっしゃるのですか?
西村 コロナ前から全然入って来なくなっていたのですが、実はこの2月、8年ぶりくらいに入荷できたんです。アラスカ産ですけどね。20年程前までは、北海道や新潟、山形、秋田など日本海に注ぐ河川が主な産地で、そこから生きたものを仕入れていました。今は海外からの輸入品に頼り切りになってしまっているので、入荷したら時価でご提供するという形でやっています。
八ツ目うなぎは、鶏肉のような弾力のある食感。昔は寒干しにしたものを、
身欠きニシンのように甘辛く煮て食べたりもしていたのだとか。
―日本では獲れなくなったということですか?
西村 激減していますね。凍った川に穴を開けて魚籠をしかけ、数日後に取りに行くというのが昔ながらの漁法なのですが、今はその漁師さんがいないというのが理由のひとつ。それに加えて各地で河川工事が進んでしまって、生息地が少なくなっているのですよ。八ツ目うなぎは、遡上するサケやマスにくっついてくるので、今も少しは獲れているはずですが、商売として成り立たないのだと思います。うちに言ってくれれば、買い取りは、するのですけどね。
―うなぎのように蒲焼にして提供されるのですか?
西村 そうですね。でも「蒸すか、蒸さないか」に違いがあって、八ツ目うなぎは蒸しません。タレも八ツ目うなぎのほうがちょっと甘め。クセが強いので、うなぎのように丸ごと1匹ではなく、短冊状にして串で提供しています。
「うなぎ蒲焼」も店内・お取り寄せで味わえる。
タレにドボンと浸けながら備長炭で手焼きして、
表面は香ばしく、中はふっくらやわらかに仕上げた逸品。
―現在はうなぎを中心としたメニュー構成になっていますね。「うなぎ蒲焼」へのこだわりを教えてください。
西村 毎日、新鮮なうなぎを仕入れています。それを職人が背開きにして、生のまま焼いて白焼きに。うちでは、そのあと一度流水に浸し、汚れを取って綺麗にしています。それを蒸したら、タレに浸けては炭火で焼くというのを繰り返します。蒲焼はすべて一枚一枚、手作業で丁寧に確認しながら作り上げていますし、他店よりもやわらかく蒸しているので、身がふっくらとしているのもうちの特徴ですね。
―タレは創業以来、継ぎ足しながら使っていらっしゃるそうですね。
西村 うなぎを浸けて焼くたびに、脂や旨みが溶け込んだ秘伝のタレです。継ぎ足すときには、醤油とザラメ、みりんをひと煮立ちさせ、数日は寝かせます。蒲焼用とは別に、うな重のごはんにかけるタレも用意していて、こちらはさらにひと手間かけて作っているのですよ。寝かせたタレのなかに、焼いたうなぎの頭を入れてひと煮立ちさせ、コクをプラスしています。
100年近く守り続ける奥深いタレが、うなぎの旨みを引き立ててくれる。
配達希望日がある場合は5日前までに注文を。
―仕入れへのこだわりは?
西村 信頼のおける問屋さんにお任せして、状態のいいものを仕入れています。産地は日によって違いますが、最近では三河や吉田のものが多いですね。昔、吉田の養殖場へ視察に行ったことがあるのですが、そこは井戸水ではなく富士山の湧き水でうなぎを飼育していました。おいしいうなぎを育てるためには、良質な水が欠かせませんからね。
―蒲焼を自宅で食べるときは、どうやって温め直すのが良いのでしょうか?
西村 お付けしているタレをかけて、電子レンジでチンしていただくのが手軽で良いと思います。熱が均等に入って、身がふっくらしますから。温めすぎると硬くなってしまうので、様子を見ながら30秒前後温めてください。真空パックでもお届けしているのですが、こちらは湯煎で温めるのが一番です。通常の蒲焼は届いてから2~3日、真空パックなら1週間以内がおいしく味わえる目安です。温めた蒲焼を刻んで、タレをかけたご飯に混ぜて召し上がっていただくのもおすすめですよ。
店内では「うなぎ重定食」をはじめとする定食や、
「う巻」「うざく」「肝吸い」などの一品料理を通して、
うなぎの旨みを存分に堪能できる。
―今後の展望をお聞かせください。
西村 これまで受け継がれてきたものを守りつつ、時代の流れに沿ったやり方を取り入れていかないといけないと考えています。最近の若い人はうなぎをあまり食べない人も多いですから、SNSなどを活用して、次の世代にも日本伝統の食文化を伝えていきたいです。
そして情報を発信することで、巣鴨に足を運んでくださる方が増えるといいなと思っています。このあたりには芥川龍之介や谷崎潤一郎をはじめとする著名な文豪が眠る霊園や旧古川庭園、六義園などもありますので、うちのうなぎ弁当を持ってまち歩きを楽しんでいただければ嬉しいですね。
―本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
「うなぎ蒲焼 大」(1枚)
価格:¥3,200(税込)
店名:八ツ目や にしむら
電話:03-3910-1071(10:30~19:00 不定休)
商品URL:https://www.yatumeya.com/delivery/unagi/499
オンラインショップ:https://www.yatumeya.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
西村卓(有限会社西村商店 代表取締役)
1962年9月生まれ。高校卒業後、専門学校で調理師の勉強をしたのち他店に勤める予定が、急遽職人が独立したため有限会社西村商店に入社。42~才の頃、代表取締役に就任、現在に至る。
<文・撮影/野村枝里奈 MC/三好彩子 画像協力/西村商店>