紀伊和歌山の知る人ぞ知る特産品。郷土料理を絶やしたくないと商品化した漬物がありました。今回編集長アッキーこと坂口明子が気になった熊野の里株式会社 代表取締役の宮崎誓悟氏に、取材陣が伺いました。
郷土料理を守るお漬物「熊野のめはり高菜」
2024/03/28
熊野の里株式会社 代表取締役の宮崎誓悟氏
―御社の起こりを教えてください。
宮崎 私は和歌山の梅干し農家に生まれました。大阪の大学を出て百貨店関係の会社に就職。4年ほどして、機械工具の商社に転職しました。7年ほど勤めたところで父が体調を崩し、帰ってくるように言われたことが転機に。梅干し農家を継ぐのであればいっそのこと、販売までしようと、1年の約束で漬物の勉強をさせてもらうことにしたのです。
ところが、1年の約束が、なんと11年にもなりました。その間に食品や農産物の知識や漬物の技術を学び、会社を起こそうと思ったのが47歳。1年後の2008年に熊野の里株式会社を創業しました。
―漬物製造ですか?
宮崎 和歌山ですから、一番手堅いところで梅干しから始めました。しかし、本当にやりたかったのは、めはり寿司。高菜の漬物でおにぎりを包んだ和歌山の郷土料理です。
高菜って、田んぼの裏作でできるんです。稲刈りが終わった10月くらいから苗を植え、12~翌3月ごろに収穫なので、声をかけたら協力してくれる稲作農家さんが大勢いて。JAさんの協力を得ながら2年目から早くも農家さんと取引をしながらめはり寿司用の高菜に着手できました。
―改めて、めはり寿司について教えてください。
宮崎 和歌山の漁師や農家の人が、お弁当代わりに持っていくようなものです。おにぎりは、白いごはんだったり、酢飯であったり、高菜漬けの茎を刻んで芯にしたり、おかかやシラスを混ぜたりと自由で、家庭によってバラバラです。シャキシャキとして破れにくい高菜で包むことで、型崩れがしにくくて持ち運びしやすくしたのかもしれません。
おにぎりを大きな高菜漬けで包む「めはり寿司」。
おにぎりはおかかやシラス、ゴマを混ぜたり、
刻んだ茎部分を芯にしたりと自由。
余談ですが、似たような郷土料理が山形にもあるんですよ。「弁慶めし」と呼ばれていて、味噌を塗ってさっと焼いたおにぎりが、青菜の漬物に包まれている。武蔵坊弁慶は、和歌山県田辺市で生まれて岩手県平泉で亡くなったとされていますから、私は、山形でめはり寿司を広めて岩手に流れたんじゃないかと想像を膨らませています。
少しずつ知る人が減ってしまうめはり寿司という和歌山の食文化を守りたくて、めはり寿司用の高菜漬けを商品化しました。「めはり高菜」という造語で販売しています。
―商品へのこだわりは?
宮崎 青い葉っぱにくるまれたおにぎりこそがめはり寿司。高菜の青色を保つために、漬け込む濃度や時間、重石の量、冷凍する温度など、いろいろ研究しました。そして、十分にご飯を包むことのできる大きさや、破れてないことも大切にしています。加工途中で破れてしまったものは、実は、全国コンビニエンスストアのおにぎりに使ってもらっています。
青々とした色と大きい葉の形状にこだわり、1パックの容量は300グラムとたっぷり。
―九州が有名ですが、和歌山も高菜の産地ですか?
宮崎 規模は圧倒的に九州が大きいです。ラーメンのトッピングやチャーハン、明太高菜などが有名でしょうか。ウコンと一緒に漬け込むのが一般的で、茶に近い色をしているあたりが和歌山の高菜漬けとは異なります。
父が小さなころからめはり寿司はあったと話してくれましたから、和歌山でも昔から作られていたのだと思います。ただそれは農家の軒先で自分の家で食べる分だけ作るというようなものだったのでしょう。
似ているものに、信州の野沢菜があり、同じアブラナ科ですが別物です。高菜はからし菜の一種で、ピリッとした辛み成分に抗菌作用があると言われています。ビタミンB群やCが豊富な緑黄色野菜で、栄養価は高いのです。
稲作農家さんや、梅やみかん農家さんも、多分に漏れず高齢化や跡取り問題を抱えています。高菜は日当たりが良くなくても育ちますし、一年生植物でチャレンジしやすく、米の裏作としての栽培も可能。高菜の生産が、地元の一次産業を守ることにつながるんじゃないかと期待しています。生産者がいなくなると、農産物の加工品業やお漬物製造という仕事までなくなってしまいますからね。
巻き寿司にして一口大に切る「めはり巻き」も。
漬物にすることで高菜独特の風味や旨みが際立ち、
想像以上にごはんとよく合う。
―ここまでのご苦労は?
宮崎 やはり食品メーカーなので、衛生管理には気を配ってきました。例えばノロウィルスやO157が流行すれば非加熱商材は疑いの目を向けられることもあると思います。根拠のある説明をしたいと思ってISO22000(食品安全マネジメントシステムに関する国際規格)を取得しました。それによって私自身が多くを学びましたし、従業員が職務の安全性に対する意識を高めることができました。得意先から会社自体が認めていただけたと感じることが増えましたし、さらに得意先に受けた指摘を改善したりしながら、ずいぶん成長できたように思います。
―和歌山県らしく冷凍みかんも出されていますね。
宮崎 和歌山は勾配のある土地で水はけがよく、みかん栽培に向いていると思います。そんな中でも、実は毎年気候によってものすごく味が変わりますし、収穫時季による違いも大きい。肥料をやりすぎるのも良くないなど、実は樹を植えっぱなしにすればいいものではないのです。お付き合いのあるすべてのみかん農家さんから、甘い温州みかんを買い取り、マイナス35℃で瞬間冷凍しています。みかん農家さんは見た目でおいしいかどうかわかるようですが、うちでは糖度を測る機械を入れて、数字で判別しています。
―選別基準は?
宮崎 糖度11以上のものだけです。みかんは、小さい方が甘い。さらに、霜が3回降りたくらいに収穫されたものがおいしいとされています。温州みかんの収穫期はだいたい11月の終わりから2月の初めですが、越冬して1月ごろからがおいしくなる。真冬に凍らないように自分で糖分を出すのです。糖度が高ければ凍りませんから。そのころのみかんは糖度が13、14、高いと16くらいになるものもあります。
―おすすめの食べ方はありますか?
宮崎 すべて糖度11以上ありますから、冷凍してもカチカチには凍りません。ですから冷凍庫から出して流水で解凍いただくのもよし、4時間くらいかけて完全に自然解凍するもよし。私自身は、その間の半解凍状態がシャーベットのようでおいしいと思います。お弁当のデザートにするのも喜ばれています。
皮をむいた状態で丸ごと冷凍、個包装されている。
―今後の展望は?
宮崎 高菜に関しては、お陰様で全国の生協で取り扱ってもらっていますし、これは自社商品とは関係ありませんが、大手回転すしチェーンが台湾の店でめはり寿司をメニューにしたと聞きました。先々を見越して、やはりどこかで海外を視野にいれるべきだと思っています。まずは日持ちのする梅干しからとなると思いますが、和歌山の高菜も海外展開をしたいです。この度完成した高菜キムチはとても好評で、キムチ味が好まれるアジア圏には受け入れられるのではないかと思っています。めはり寿司も、台湾で好評であるならば、可能性を感じます。
本社のある地は、熊野古道の入口に当たる場所。会社を始めるときに、入口に立ったという思いで熊野の里という社名にしました。今後は、食品ロスや食の安心安全という問題にも向き合いながら、前進していきたいと考えています。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「熊野のめはり高菜」(300g/冷凍)
価格:¥409(税込)
店名:熊野の里 にっこり堂Online Shop
電話:0120-947-525(9:00~17:00 平日)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.nikkorido.jp/item/KMT001H/
オンラインショップ:https://www.nikkorido.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
宮崎誓悟(熊野の里株式会社 代表取締役)
1959年10月1日生まれ。近畿大学法学部を卒業。1982年株式会社錫半(百貨店常勤)に、1986年にトラスコ中山に入社。1997年より堺共同漬物株式会社に11年間在籍。同社取締営業部長職を辞して2008年熊野の里株式会社を設立。趣味はテニス、卓球、野球、ジョギング。
<文・撮影/植松由紀子 MC/石井みなみ 画像協力/熊野の里>