牡蠣の養殖で100年の歴史を誇る有限会社佐藤養殖場。2022年には牡蠣づくし定食や牡蠣フライなどが楽しめる直営レストラン「的矢テラス」もオープンしました。今回、編集長アッキーこと坂口明子が気になった的矢かきの魅力について、5代目で代表取締役の濱地大規氏に商品開発のエピソードやこだわりなどを伺いました。
三重ブランドに認定!産地から直送される旨味たっぷりの新鮮プリプリな「的矢かき」
2024/04/15
有限会社佐藤養殖場 代表取締役の濱地大規氏
―御社の沿革についてお聞かせください。
濱地 創業者の佐藤忠勇はとても研究心・探究心が大きく、東北帝国大学や北海道大学でずっと水産学の分野で研究を重ねてきた人です。彼が北海道から三重県に移ってきたとき、その当時の国策であった真珠養殖にまずチャレンジします。
しかし、事業に失敗し失意のなか的矢湾を訪れた際に、良質な牡蠣が豊富にあることに注目しました。その後、牡蠣の養殖を始め、垂下式牡蠣養殖方法の確立や特許を取得した生食の浄化法も考案しました。
―5代目とのことですが、社長就任までの経緯は?
濱地 私自身は漁師の息子として生まれ、遠洋漁業、近海漁業、養殖業など漁業からキャリアをスタートしました。そんななか、漁業では魚を獲れば獲るほど単価が下がるといった市場原理に違和感を感じまして。水産業全般を勉強しようと思い立ち、それからは漁港で獲れた魚を運搬する活魚車のトラックだったり、市場の職員、仲買、ホテル・旅館など幅広く勉強しました。
その後、元々私が牡蠣が好きだったこともあり、的矢(まとや)という場所で、旅館事業の一環として、佐藤養殖場の隣に牡蠣の会社を立ち上げました。当時、その会社では民間養殖会社では日本で初めて水産庁から認可をいただき、1年中食べられる牡蠣をオーストラリアの養殖方法を持ち込んで、その開発に成功していました。
新鮮な牡蠣が産地直送で届くのはなんとも贅沢。出荷日を含む4日間まで生食で食べられる。
濱地 歴史のある尊敬できる会社だと思っていましたが、時代の流れやコロナ禍もあり、経営が立ちいかなくなったという話を聞き、私に再建依頼の声がかかったんです。
倒産寸前の状態だったのですが、歴史やストーリー、おいしい牡蠣をつくる従業員の姿を見たときに、なんとか継続できないかと思ってしまったんです。
なんとか的矢かきを残してほしいという佐藤養殖場の思いに、社会的な意味というんでしょうか、おいしい牡蠣を手間暇かけてつくっている会社をなんとか残したいと決心しました。
三重県志摩市磯部町にある年間を通して的矢かきを楽しめる「的矢テラス」。
生牡蠣や定番のカキフライなどがセットになった
「牡蠣づくし定食」は牡蠣を思う存分堪能したい方に人気。
―就任されてからのご苦労は多かったでしょうね。
濱地 2024年の10月で創業100年目を迎えるわけですが、地域にも佐藤養殖場に関係する人たちがたくさんいます。その人たちの100年分の思いを背負うことになるので、変えていいことと変えたらいけないことの選択が一番難しいです。「これやっていいですか」「これ変えていいですか」と心の中で初代に問いかけるなか、最近やっと歴史の中から答えを見つけられるようになった気がします。
―今回ご紹介いただく「清浄的矢かき」の特徴やこだわりの点などをお聞かせください。
濱地 的矢かきは、佐藤養殖場だけのブランドで、ほかではつくることができません。むき身にしても殻付きにしても、生食でしか提供していない珍しい会社です。
また、的矢かきは、大きい牡蠣イコール最上級とはしていません。小さくても甘みや旨み、塩みのバランスがとれた牡蠣を、職人が毎日1個1個丁寧に目利きしたものをお送りしています。「小さい」って言われることもありますが、大きくても身が整っていないものやしょっぱすぎるものはおいしくないわけです。
職人による工程がおいしさを保つ秘訣。
何人もの職人が1個1個音を聞き、目で見るなどの工程を踏んだものをお届けしているのがこだわりです。
松坂牛や伊勢えび、真珠などと共に三重ブランド第一号に認定された的矢かき。
全国的な知名度もあるブランドとして認知されている。
―具体的にどのような工程でつくられていますか?
濱地 まず的矢かきは一年牡蠣と呼ばれるもので、ホタテの貝殻に付着させた牡蠣を1年間海で養殖してから収穫します。一年牡蠣はそれほど大きくなりませんが、フレッシュな甘みが特徴で、エグ味が少ないのも特徴です。収穫した牡蠣を水揚げしたら一度きれいに掃除して、もう一度海に全部戻しています。
洗浄と海へ戻す作業を繰り返す。
―なぜ一度海へ戻されるのでしょう?
濱地 海の表面には牡蠣の餌になる植物性のプランクトンが集まっているので、それを食べることで身が大きくなります。一度海に戻すことでまた殻が汚れてしまうのですが、その手間は惜しまずにかけています。そして再度水揚げして掃除し、1個1個手で選別をします。身や味、サイズなどの出荷基準を満たしているものはまた掃除し、浄化滅菌水槽の中に入れ、生で食べられるようにしっかりと管理をする。基準を満たしていないものは、また海に戻すんです。そして良い状態になったら、選別・清掃・掃除の工程を繰り返す。多分、ほかの会社よりも3つ4つは工程が多いかもしれません。
―とても手間がかかっているのですね!昔から変わらず大切にしていることはどのようなことでしょうか?
濱地 とにかく養殖をしている海の環境を大切にする、海に負担をかけるような養殖方法はしないということです。私の考えでは、牡蠣が自然のプランクトンを食べて成長することをアシストするのが牡蠣養殖だと思っています。なので、0~60点までは海の力です。
そこからの60~100点までは私たちの手間暇で、人間が食べて安心安全でおいしいと感じる100点を目指しています。殻をきれいに掃除して海に一度戻す、1個1個の牡蠣を目利きする、浄化槽に入れて生食できるよう衛生的に管理するなどが手間暇です。高い品質を維持するために海を守るという工程、やるべき安全性の取り組みは変えてはいけないと思っています。
海の環境が大切。
―一番配慮していることは?
濱地 やっぱり、海の環境が変化していることです。水温の変化や黒潮の蛇行などによって、今までの常識が通用しなくなっています。環境の変化に対応するためにこれまでつくったことがない系統の牡蠣を使ったりなど、養殖方法を探ることも必要です。
―お客様の反響で印象的なものについてお聞かせください。
濱地 よく言われるのが「甘さを感じる」「臭み・えぐみがない」などです。「牡蠣が苦手でしたが的矢かきを食べて好きになった」と言われることも多く、「牡蠣が苦手な人が牡蠣好きになる牡蠣」とでもいいましょうか。卸先の飲食店さんからも「牡蠣に良いイメージを持っていないお客様におすすめするのは的矢かきです」と言われます。
―おすすめの食べ方はありますか?
濱地 まずはシンプルに、レモンでそのまま食べてもらえたら。牡蠣好きな方にはぜひ食べてほしいです。子どもはやっぱりカキフライが好きですけど。あとは牡蠣デビューや、お子さまに初めて食べさせる牡蠣としてもおすすめです。
なにはともあれ、レモンを絞ってつるりと生食でいただきたい。
プリッとした歯応えとミルキーな旨味。
臭みがないのでこれまで牡蠣が苦手だった人でもおいしく食べられる。
―今後の会社の展望をお聞かせください。
濱地 とにかく品質の良い牡蠣を一生懸命に増やしていくことです。日本国内のみならず、特にアジアを中心として海外にも出始めているので、世界の人に食べていただけるよう生産量や販売網などをしっかりとつくっていきたいと思っています。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「清浄 的矢かき(殻付き)」(15ケ入)
価格:¥4,300(税込)
店名:有限会社佐藤養殖場 オンラインストア
電話:0599-57-2611(8:00~17:00 定休日:火曜日)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://shop.seijyoumatoyakaki.com/products/matoyakaki-karatsuki
オンラインショップ:https://seijyoumatoyakaki.com
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
濱地大規(有限会社佐藤養殖場 代表取締役)
1980年三重県生まれ。中学卒業後カツオ一本釣り漁船に乗船後、さまざまな水産関連事業に従事。2021年有限会社佐藤養殖場代表取締役に就任。
<文・撮影/時田涼子 MC/木村彩織 画像協力/佐藤養殖場>