2022年に創業120周年を迎えた京漬物屋の大安。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは、一口サイズの漬物「ちいさなだいやすシリーズ」です。古くから愛される「千枚漬」を販売する一方、若者や単身世帯にも漬物を広めようと力を入れている、株式会社大安の代表取締役社長の大⻆安史氏に、取材陣がお話を伺いました。
創業120年超の大安がこだわりぬいて作る「千枚漬」と「ちいさなだいやす」
2024/04/19
株式会社大安 代表取締役社長の大⻆安史氏
―創業の経緯を教えてください。
大⻆ 弊社は私の曽祖父である創業者の大⻆安治郎が1902年に16歳で創業しました。当時は12歳になったら一人前と言われる時代で、尋常小学校を卒業し、13歳で漬物屋さんで働くことになりましたが、そこが廃業してしまったので、今まで学んだ漬物の技術をもとに独立開業したそうです。社名は頭文字をとり、大安吉日にも繋がるから、縁起のいい名前だということで「大安」となりました。
自分たちで野菜を作って漬物にして、自分で売りに行っていたと聞いています。当時は漬物は自宅で作って当たり前のものなので、漬物を買うのはズボラだと言われていました。漬物屋はある意味、ニッチな産業だったのです。
その後、近代化が進んで工場がたくさん出来始め、そこで多くの女性が働くようになったので、家で漬物を漬けられない家庭が増えました。その流れから、漬物は家で作るものから買うものに変化し、時代の後押しを受けて、わが社はここまで拡大してきました。
―幼少期はどんな生活を過ごしていましたか?
大⻆ 私が生まれた頃にはすでに父が社長に就任しており、小さい頃から盆正月に親戚が集まるときは「大きくなったら漬物屋さんの社長さんや」とプレッシャーをかけられてきました。当時は家も事務所も工場も全て同じ敷地内にあったので、幼稚園から帰ったら、お店で試食の漬物を食べていました。
株式会社大安の店舗外観。
私は名前が安史なので、苗字と名前の頭文字をとると、社名の「大安」になります。今ではそれを誇りに思っていますが、小学生の頃はそれをからかわれて恥ずかしい思いをしました。でも、漬物は大好きなので、将来は漬物屋の社長としてやっていきたいという思いが根底にはありました。
―学生時代は何を学ばれていましたか?
大⻆ 大学では経済学部でした。社長になるためには経済全般の知識が必要だと思ったからです。就職活動の際は父に相談し、金融の知識を身につけるために、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に就職しました。
バブルが弾けた1996年に入行したので、景気がどんどん悪くなっていき、営業活動もうまくいかず、ノルマに苦しんでいました。精神的にもつらかったですが、金融の総合的な知識が身に付き、社会の構造についてすごく勉強になりました。ここでの経験は今でも役に立っています。
―社長になったきっかけは?
大⻆ 2000年に実家に戻り、販売や製造など一通り現場を回らせていただきました。営業時代は平社員から課長、営業部長とステップアップし、2014年に社長に就任する前は1年間、副社長として社長になるための勉強をしました。
会社には自分よりも年上の方もたくさんいらっしゃいますし、この会社を支えてくださったのはそういった先輩の皆様のおかげです。だから、社長の息子だからといって、若造がいきなり社長になるのはよくない、人に認められる存在になってから社長になるべきだと考えていたので、段階を踏んでしっかり準備できたのはよかったと思います。
―企業理念は?
大⻆ 従業員の皆さんの物心両面の幸せを追求することと、おいしい漬物を通してお客様に幸せを提供することです。おいしいものを食べたら自然と幸せになって笑顔がこぼれると思うので、そんな温かい食生活のシーンを思い浮かべながら、漬物を作っています。
―貴社のこだわりは?
大⻆ まず、原料の野菜は旬の国産野菜を採用しています。例えば、千枚漬で使う聖護院かぶは、2kgぐらいある大きなかぶを使用しますが、市場ではほとんど流通しないので、全て契約農家さんに作ってもらっています。冬の野菜なので秋冬でないと育ちませんが、少しでも長く販売するために、気候の移り変わりとともに、産地を分けてずらして作ってもらっています。
ごまや唐辛子といった副原料も全て国産です。成分表示のルールとしては、内容量の5%未満であれば、表示する義務はないのですが、弊社は全て表示しています。国産のごまや唐辛子はほとんどないので、コストがかかりますが、自分が安心するものを売りたいので、国産にこだわっています。
素材は副原料まですべて国産に徹底している。
また、弊社の漬物はすべて下漬けをしてから本漬けしているのも特徴です。この2つの工程を踏まないと、漬物本来のコリコリとした歯ごたえが出せません。しかし、最近の漬物業界では、本漬けをしっかりしないものもあるようです。弊社はじっくり手間ひまかけているので、歯ごたえもありながら、出汁が野菜の中まで染み込んだおいしい漬物が出来上がります。
グルタミン酸ソーダなどのうま味調味料を使わないのも大きなこだわりです。これを使えば一発で味付けできますが、弊社は昆布や鰹節及びエキスなど自然合して味付けしています。これによって、野菜本来のうま味が引き出され、おいしい漬物が出来上がるのです。
―作る段階でもこだわりが?
大⻆ 皮むきなど、できるところは機械化していますが、漬ける段階は人の手でやっています。例えば、「千枚漬」のかぶは一つ一つ水分量が異なるので塩をふる量を変えないと、おいしくなりません。職人の経験と勘に頼って作っています。
また、穴があいたかぶは使えないので、今までは捨てていましたが、それを発酵させて発酵化粧品を作っています。捨てるはずのものから新たな価値を創造し、SDGsにも貢献していると自負しています。
昆布のうま味がじっくりとしみ込んだ「千枚漬」。
―「千枚漬」は皇居に献上されているそうですね。
大⻆ おかげさまで1963年から皇居に献上させていただいています。我々にとってすごく誇りであり、これからもしっかりと漬物を作ろうという意識が芽生えてくるので、職人のレベルアップにも繋がっているのかなと思っています。
―「ちいさなだいやすシリーズ」が誕生した経緯は?
大⻆ 女性を集めてモニタリングした際に、約8割の方が「漬物は好きだけど最近は食べていない」と回答されました。その理由は、市販の漬物は量が多くて核家族や単身世帯では食べきれないことや、漬物をまな板に出して刻んで器に盛るという手間がかかることなどがあげられました。
そういったお声をもとに作ったのが、「ちいさなだいやすシリーズ」です。食べきりサイズの漬物のシリーズなので、あらゆる層に支持されています。時代背景に押されてヒットした商品です。
食べきりサイズなので、ちょっとずついろいろな漬物を楽しめる。
―かわいらしいパッケージですね。
大⻆ 女性のデザイナーさんにデザインしていただきました。ご年配の方から若いOLさんまで、女性を中心にご購入いただいております。小分けにできるので、手土産に持って行かれる方も多いようです。
小分けできるのでギフトや手土産にもおすすめ。
―おすすめの食べ方を教えてください。
大⻆ 日常的に食べるのもいいですしお酒のおつまみにもいいと思います。お酒は日本酒か白ワインがおすすめです。もちろんお茶にも合うので、飲み物とのマリアージュを楽しんでいただけると幸いです。
―今後の展望は?
大⻆ 漬物には古臭いイメージがあったり、塩分が高くて食べすぎはよくないと思われたりするかもしれませんが、漬物は発酵食品なので腸をきれいにする作用があり、体調を整えてくれるといわれているので、若い人にもどんどん広めていきたいです。
また、海外展開も視野に入れています。海外のお客様は「ピクルス」という言葉に調味料のようなイメージを持ってらっしゃるかもしれませんが、一品として楽しめる総菜的なものだと打ち出していきたいと思います。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
「千枚漬」(110g入)
価格:¥756(税込)
店名:京つけもの大安
電話:0120-45-7172
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.daiyasu.co.jp/shopdetail/000000000074
「ちいさなだいやす YG-10」
価格:¥1,998(税込)
店名:京つけもの大安
電話:0120-45-7172
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.daiyasu.co.jp/shopdetail/000000000447/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
大⻆安史(株式会社大安 代表取締役社長)
1972年京都府生まれ。大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入社。4年の修業期間を経て2000年、曽祖父が1902年に創業した株式会社大安に入社。2014年に同社代表取締役社長に就任。一人一回食べきりサイズの「ちいさなだいやす」を開発し好評を得る。2023年には漬物製造時に出てしまう不可食部分をアップサイクルし化粧品に生まれ変わらせるなど、SDGsへの貢献意識が高い。商工会議所や業界団体、地域団体などで公職多数。
<文・撮影/サカモトアヤ MC/澤水拳太 画像協力/大安>