プリッと引き締まった身は旨味たっぷり。今回、編集長アッキーが気になったのは、ブランド鯛「穂州鯛(ほしゅうだい)」を使ったお茶漬けとカルパッチョです。冷凍とは思えないほど鮮度抜群なこの鯛を生み出し、育てているのは、創業から50年を迎える有限会社渡邉水産。今回は代表取締役社長の渡邉美保子氏にお話を伺いました。
冷凍でも鮮度が抜群!贈り物にもぴったりなブランド鯛のお茶漬け&カルパッチョ
2024/04/19
有限会社渡邉水産 代表取締役社長の渡邉美保子氏
―社長のご経歴についてお聞かせください
渡邉 私はここ、佐賀県玄海町の出身です。とはいえ漁業はまったく知りません。高校卒業後は福岡で美容師を目指していたのですが、親同士がセッティングしたお見合いの席で夫と出会い、結婚してこの道に入りました。
当時、渡邉水産では養殖をしていたのですが、あるとき病気で魚が全滅してしまいました。そこで夫は養殖をやめ、魚を生きたまま運ぶ活魚の仕事を始めたのです。これがうまくいったので、先見の明があったのだと思います。
活魚の事業が拡大していった矢先、夫が亡くなりました。そのときは両親が健在で、娘が4人いて、従業員さんは5、6人。悲しむより前に、これからどうやっていこうという気持ちでいっぱいで。この仕事は女性ができる仕事ではない、と反対もされました。しかし夫が残した仕事です。従業員さんもやりたいという思いがあり、仕事を続けることにしたのです。
その後、市場の低迷により、活魚の仕事は縮小へ。そこで始めたのが養殖です。いかに健康な鯛を作るかを考え、餌を工夫し、どのようにブランド化するかを考えました。スタートまで5~6年はかかっています。
鯛のブランド名は「穂州鯛(ほしゅうだい)」。4姉妹が「お父さんの名前がついていれば頑張れるから」と言うので、夫の名前を付けました。
先代社長が亡くなったあと、渡邉社長と4姉妹の家族、
従業員が一丸となって作った穂州鯛。
―大切にしていることはなんですか?
渡邉 私は娘から「社長の仕事があるでしょ」と怒られるくらい現場が好きで、現場にばかり行ってしまいます。それは「常に現場目線でいきたい」という思いがあるからです。
たまに現場を見に行っても、気になるところや従業員の困りごとはわからない。それに口だけで指示を出しても、従業員さんは納得できません。だから従業員さんと同じ目線で仕事をしています。常に現場に立ち、従業員さんと同じ目線でいいところも悪いところも見ていきたいです。
―「穂州鯛」を育てる際の工夫とは?
渡邉 養殖はその魚の特性を生かした環境下で一番いい魚ができます。環境が一番。ここは、近くにミネラル豊富な川があり、山に囲まれています。入り江は潮の流れが早い。この環境が鯛の養殖に合っているようです。
もちろん稚魚の仕入れ元や高品質な餌も大切です。過去に養殖魚が全滅してしまった経験を踏まえ、餌は毎日水温に合わせて量を変え、手で与えています。そうすると「今日はあまり食べない」などの変化がわかる。変化があるときはすぐに試験場に持っていき、検査をしてもらいます。子どもを育てるように、毎日見に行くということが大切です。
健康でおいしい鯛を育てるために、無駄な成分をいれていない
栄養豊富な餌を毎日手作業で与えている。
―これまでで印象に残っているお客様の声はありますか?
渡邉 渡邉水産で加工を始めたばかりの頃に、熊本にお住まいのおばあちゃんが初めてお声を寄せてくれました。その頃は冷蔵で、野菜と一緒に商品を送っており、「こんなにおいしいものは食べたことない」と言ってくださって。
私たちは自分たちがおいしいと思っているものを提供していますが、その感想をいただいたときはあらためて「やはりおいしいんだ!」と思いました。お客様から言われたのが初めてだったので、もう嬉しくて。涙ぐみながら「ありがとうございます」とお伝えしたのを覚えています。
―「鯛茶漬けとカルパッチョセット」には特殊な冷凍技術を採用していると伺いました。
渡邉 私はもともと魚の冷凍には抵抗がありました。「冷凍するなら売らないほうがいい」と思っていたくらいです。しかし「今は瞬間冷凍の技術が進歩しているから、試してみては」と長女が提案してくれました。実際に4社の冷凍技術を比較してみると、1社、「刺身で食べられるくらい鮮度が高い!」とびっくりするものがあったのです。
これが3D冷凍です。普通の冷凍は一方向から冷気を当てるので、凍結の速度にムラが出てしまい、一部が劣化しやすくなります。それを解凍すると、旨味まで流出してしまいおいしくありません。3D冷凍はいろいろな方向から冷気が当たるようになっており、均一、かつ一気に冷凍できます。解凍してもドリップ(食品内部から流出する水分)が出にくいです。
この冷凍をすると、冷凍前よりも魚の旨味が凝縮されるのです。冷凍前にそのまま食べるよりおいしいという方も多いです。3D冷凍を取り入れてから、販路がかなり増えました。
育てた鯛は海から揚げたあと、その日に加工する。
家族、従業員一丸となって育てた穂州鯛の
「鯛茶漬けとカルパッチョセット」は、大切な人へのギフトにもぴったり。
―冷凍技術以外の工夫も教えてください。
渡邉 鯛茶漬け用でもカルパッチョ用でも、鯛はすべて朝、水揚げし、切ってすぐに味を付けて、すぐに冷凍にかける。とにかく時間を置かずに「すぐ」。そこが大事です。
3D冷凍の技術はもちろんすごいです。しかし、凍らせる食品がいいものだからこそ、力を発揮すると思っています。私たちの鯛だからこそ、3D冷凍の技術で、よりおいしいと評価いただけるようになったのだな、と。
―鯛茶漬けの味はどなたが考案されたのですか?
渡邉 これは私と娘4姉妹です。長女が仕切ってくれたのですが、何度も何度も試行錯誤して、やっとこの味にたどり着きました。
鯛の切り身を袋に入れ、ゴマと出汁を入れて真空にし、そのまま冷凍します。一度冷凍する前のものを食べましたが、冷凍後のほうがとてもおいしかった。冷凍技術で味が凝縮しているのです。
もともとお客様の声から考案した鯛茶漬けでしたが、実際に商品化するまでに1年程度かかりました。やっと最後に、全員一致で合格したときは「明日からもう試食しなくていいね」と言ってしまいました(笑)
すでに出汁が入っているので、いただくときは流水解凍後、お湯をかけるだけ。
引き締まった身からは噛みしめるほど旨味があふれる。
―カルパッチョはどなたが考案されたのですか?
渡邉 これも私と4姉妹で考えました。カルパッチョは魚を並べてドレッシングをかけるのが一般的ですが、それだと普通すぎて面白くない。だからうちでは、刺身をドレッシングに絡めて、瞬間冷凍しています。味が濃いから、野菜の上に乗せて一緒に食べるとものすごくおいしい、と。カルパッチョも発売まで1年近くかかったのではないかなと思います。
それと、鯛茶漬けにしてもカルパッチョにしても、発売後に1度、調味料の分量を変えているのです。当たり前に販売しているものでも、時間を空けて試食してみて、今よりもよい商品にできないかと日々試行錯誤しています。
―カルパッチョにおすすめの付け合わせは?
渡邉 柔らかい水菜やトマトはおいしいです。娘たちは、スイートバジルやルッコラなどのハーブがおいしいと言います。スーパーに香草の詰め合わせとして売っていて、それが最高に合います。サラダ用のほうれん草など、柔らかい野菜ならおいしく食べていただけると思います。
流水解凍後、そのままいただける真鯛のカルパッチョ。
さっぱりとしていながら味わい深いので、サラダはもちろん、お酒のおともにも。
―今後のビジョンをお聞かせください。
渡邉 私は、若い世代にもっと水産業に携わってもらうことで、玄海町を賑やかな街にしたい。これが一番の目標です。残念ながら、漁師の方や養殖業の方は、子どもへ「儲からないから跡を継がないほうがいい」といいます。中でも漁師は自然が相手。実際に獲れる魚は減っていますし、儲からないというのは親世代の方が実感しているのでしょう。
私は養殖を通して、魚を作り、付加価値を付けて売れば利益を出せる、というところを見せたかった。若い世代の従業員を入れて。コロナの流行でできなかった取り組みもありますが、今からは「次の世代のために動かなければいけない」としみじみ思います。
―保育園で生きた鯛をその場でさばく体験学習もされているのだとか?
渡邉 そうです。毎年続いています。やはり、子どもはかわいい。最近は子どもから「利益はあるのですか?」、「餌の調合は?」といった質問が出るので驚きます(笑)
そこで「私たちの町にはこんなにいい海があるから、あなたたちが大きくなったら水産業に関わって働いてほしい」という思いを伝えています。若い人たちの手で、この漁場をもう1度、賑やかな漁場にしてもらいたいと願っているので。
穂州鯛は玄界灘の豊かな自然によって育てられている、まさに自然の恵。
直近で考えている目標は、漁場のあるこの地域にお店を作ることです。今、私たちはふるさと納税などの通販が主流です。お客様が玄海町へ遊びにきたときに、商品を買ってもらえる場所がありません。だから、商品を置いた直売所や、鯛茶漬け、鯛めしなどを食べていただける場を作りたい。この美しい海を眺めながら食べていただけたら、と思っています。
―貴重なお話をありがとうございました。
「鯛茶漬けとカルパッチョセット」(鯛茶漬け:2食入り カルパッチョ:2食入り)
価格:¥5,290(税込)
店名:渡邉水産
電話:0955-52-6052(【月・水・木・金】9:00~16:00 【火】9:00~12:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://watanabesuisan.net/280/
オンラインショップ:https://watanabesuisan.net/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
渡邉美保子(有限会社渡邉水産 代表取締役社長)
1963年佐賀県生まれ。養殖真鯛を「穂州鯛(ほしゅうだい)」と命名し、ブランド化。亡くなった夫の名前から名付けた。養殖から加工、発送まで一貫生産。地域の保育所や学校で体験学習の活動なども行っている。
<文・撮影/西村初音 MC/伊藤マヤ 画像協力/渡邉水産>