「ご飯のお供」といわれる各地の名産品の中でも、今回編集長アッキーが気になったのは、鮮度が際立つ「釜揚げしらす」。網元として、和歌山県熊野灘のしらすの漁、水揚げから加工までを一貫して行う株式会社王子水産 代表取締役の中村京美氏と、長男で後継者の中村竜彦氏に、新鮮なおいしさのひみつを取材陣がうかがいました。
水揚げ後すぐに網元で自社加工。鮮度抜群、熊野灘発「釜揚げしらす」
2024/05/10
株式会社王子水産 代表取締役の中村京美氏
―前社長とご夫婦で会社を設立されたのですね。
中村 私は子どもの頃から走るのが好きで中学・高校は陸上部、目の前のことに全力で頑張るタイプなんです。就職してすぐに結婚し、夫は漁師で早朝から漁に出て、私は工場で加工。男性と同じように一所懸命働きました。嫁ぎ先は網元ですから、漁師に来てもらったら保証をし、獲れたものは商品として売らないといけない。会社として運営するのがいいということで、夫と会社を立ち上げました。一つ一つ積み上げていった結果そうなったんです。
―経営するうえでのご苦労は?
中村 苦労といえば人材でしょうか。長くいてくださる方もあるのですが、やはり少なくて、新しい人にいかに定着してもらえるか、それが難しいです。朝9時から夕方5時までというような仕事ではないし、夜明けとともに出航して、しらすが獲れる日はなくなるまで獲りますから昼や夕方まで。数日で辞める人もありました。今はみんな15年以上のベテランです。30歳前後で自分でも何かやりたいと冒険する人もありますが、何人かは戻ってきてくれて、うれしかったです。
自社船である王子丸が朝一番に出航。
獲ったしらすは新鮮なまま水揚げ、加工へ。
―働く環境をよくするためにされていることは?
中村 社内はみんな仲がいいです。水産のほかに、建設、運送、警備の系列会社を営んでいて、4社合同の忘年会を催すこともありますし、水産だけでバーベキューをすることもあり、みんな交流しています。私たちは社員の顔を見て声をかけたり何かあれば相談にのったり。ひとつの家族だと思っているんです。
―創業から変わらないことは?
中村 漁師がお客様にそのまま届けること。漁師が獲ったものを直接届けるという、本当の産地直送はなかなかないと思います。しらすもふつうは仲買や魚屋さんなど流通が入ってきます。私たちは自分たちで今日獲ったものを食卓に届けるので、タイムラグやコストが削減でき、一番おいしいものが届けられるんです。古いお客様の中には「今獲れてるか~?」ときいてこられる方もあって「おいしいものが獲れたら送りますから待ってて」と答えることもあります。創業してすぐは、たくさん獲れた時はスーパーなどに卸すため、どうして販路を開くか模索しました。私も東京や名古屋、大阪などを回りました。
―商品を開発される時のこだわりは?
中村(竜彦) 鮮度がよいことです。鮮度がよければよいほど安心安全で、それはイコールおいしいものをつくる大前提になります。しらすの釜ゆでにはスピード感が大切で、ゆであげた後の加工からお届けまでをスピード化しないと劣化が進みます。漁師というと荒々しいイメージかもしれませんが、劣化を防ぐために工場にはきちっときまったシステムのレーンを作って生産しています。船上の鮮度保持も、父である前社長にたたきこまれました。こうすればおいしいというのをすべての段階でつきつめていけば、安全でおいしい食品になるんです。
鮮度抜群のしらすを天日干しした「上乾ちりめん」。
風味も食感もよく質の高さがわかる。
―お父様から教育を?
中村(竜彦) 父は小さい頃から船上での魚の締め方や処理の研究を重ねて、子どもや従業員に教えこみました。考えぬかれた技術ですから、加工場に着いたものは鮮度抜群、最高級です。ここまでつきつめる漁師はいないのではないかと思います。一般に、しらすの加工業者は、魚を獲る漁師とは別の会社で、うちのように自分のところの船から水揚げしたものを加工している会社は全国でも数社だけだと思います。われわれは、漁師の立場で管理できる、新鮮なまま加工できるのでそれが強みです。私たちもせりに行くことがありますが、漁師目線で見るので、きちんと処理ができているかすぐにわかりますし、できていないから輸送中にダメになるというのもわかります。
―お父様が鮮度に徹底的にこだわられたのですね。
中村(竜彦) 父は16歳から漁師をしていて、仕掛けや網の改良などとにかく研究に研究を重ねて、どうしたらたくさん獲れるか考えてきた人です。網が破れたら夜通しかけて直したり、魚を獲るすばらしいシステムを作り上げたり、まさにザ・漁師という人で尊敬しています。会社としても漁師と加工場、役割分担がしっかりできています。
網元から直接届く、本物の産地直送。安心安全がおいしさに。
網元で昔ながらの製法で仕上げた「ちりめん佃煮」。
―一般のしらすとの鮮度の違いは?
中村(竜彦) 朝6時に獲れたものを、われわれは6時半からゆでることができますが、一般にせりは8時からお昼頃までですし、半日は冷蔵庫に入ったままです。冷蔵庫の奥にあればゆで上げは最後ですからさらに遅くなり、劣化は進みます。鮮度のよいものに比べて苦みが出たり、食感が悪くなったりします。
―人気商品の「上乾ちりめん」はしらすを天日干しに?
中村(竜彦) 実は、以前は天日干しの衛生面が気になって、加工場でしらすをコンベアにのせて熱風を当てて乾かすなど、試行錯誤したことがありました。でも、表面は乾いているのに残った水分が出てきて傷みやすくなる。けっきょく、太陽を使った低温調理として天日干しをするのが、風味も質感もよいとわかり、今は昔ながらの天日干しの製法を用い、現代の技術や知識で管理しながら作るのが一番だと考えています。どこよりもおいしいので、ぜひ一度食べていただきたいです。
天日干しにより風味が増した「上乾ちりめん」。
DHAやカルシウムなど栄養豊富。
―「特選ちりめん佃煮」はどのような商品ですか?
中村(竜彦) 私の祖母が佃煮を作っていて、13歳から手伝っていた私は、14歳頃にはもうレシピを覚えて作れるようになりました。でも、まじめに作っていなかったのか、ある時食べてみると祖母の味とは違う。もっとまじめに、下処理もサボらないで、おばあちゃんの味をしっかり作ろうと思うきっかけになりました。今は私にしか出せない、おばあちゃんのやさしい味です。昔ながらの製法でちょっと甘いのが特徴。スーパーなどにある大量生産のものは、ベタッとしていて一匹一匹つかめませんが、うちのは一匹ずつつかめるざらっとした製法。ベタベタせず、ソフトふりかけのような感覚です。
「特選ちりめん佃煮」は甘くて懐かしい香り。
一匹一匹がぱらっとやわらかく、噛み心地がよい。
―おすすめの食べ方は?
中村(竜彦) 上乾ちりめんはご飯にのせたり醤油をかけたり、冷奴やサラダにも合います。佃煮はおにぎりの具材のほか、おかゆがおすすめです。おかゆに入れると噛めば噛むほどうまみや甘みが出てきて、味が深くなります。
上品にのせてもよし、たっぷりのせてもよし。
ご飯が何杯でも食べられそう。
―今後のビジョンをおきかせください。
中村(竜彦) 最近は魚が食べられない人も増えてきました。魚の入門ということでしらすを食べてもらえたらと思います。おにぎりやお弁当に使えるのでお子さんも食べやすく、そうして魚を食べる文化や昔ながらの味に戻っていただきたいと思います。そのために、より広くみなさんに知っていただけるよう、漁師が直接食卓に届けられる強みを生かして、日々よいものを作っていきたいと思いますし、ECサイトも広げたいです。インスタにも力を入れて、興味を持ってもらうことで漁業者が増えてほしいとも思います。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
「特選ちりめん佃煮 500g(箱入)」
価格:¥3,000(税込)
店名:株式会社 王子水産
電話:0735-23-1828(10:00~17:00 土日・祝日・年末年始除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://oujisuisan.shop-pro.jp/?pid=164679864
オンラインショップ:https://oujisuisan.shop-pro.jp
「上乾ちりめん 250g(箱入)」
価格:¥1,700(税込)
店名:株式会社 王子水産
電話:0735-23-1828(10:00~17:00 土日・祝日・年末年始除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://oujisuisan.shop-pro.jp/?pid=165693460
オンラインショップ:https://oujisuisan.shop-pro.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
中村京美(株式会社王子水産 代表取締役)
1961年12月9日和歌山県新宮市生まれ。前社長中村誠二郎と夫婦で株式会社王子水産を設立。2023年代表取締役就任、後継者である長男中村竜彦氏に技術指導も行う。水産業はじめ建設業等計4社の経営に携わる。
<文・撮影/大喜多明子 MC/矢口優衣 画像協力/王子水産>