福岡県で知らぬ人はいないという老舗和菓子店「如水庵(じょすいあん)」。今回編集長のアッキーが気になったのは、同店の素材・製法のこだわりが詰まった「筑紫もち」です。モンドセレクション最高金賞も受賞したこちらのお菓子は、地元はもちろん海外のファンも多いとか。株式会社如水庵 代表取締役社長の森正俊氏に、おいしさの秘密やおすすめの食べ方を取材陣が伺いました。
福岡県で愛され続ける「筑紫もち」は最高の素材と伝統の技法が光るこだわりの和菓子
2024/06/05
株式会社如水庵 代表取締役社長の森正俊氏
―御社の創業はいつ頃になるのでしょうか?
森 創業年については、公式には「不明」としております。と言いますのも、伝承では安土桃山時代、1580年代創業とされているのですが、そのはっきりしたエビデンスがないのです。その伝承では、1587年に豊臣秀吉が箱崎で茶会を開いた際、先代がお菓子をお出ししたとされています。
1845年にはお菓子の注文を承っていたエビデンスがあるので、その年を創業年にという話もあったのですが、言い伝えを無いことにするのも先祖に申し訳ないですから、公式サイトにも正直に「創業年不明」と書いています。
1845年に注文を受けた聖福寺「開山650年遠忌」の菓子木型がいまも残っている。
―家業をお継ぎになり、最もやりがいを感じることは?
森 お菓子屋というのは人に喜んでいただくのが前提の仕事なので、物づくりからおもてなしまでを誠実に真面目に行い、「どうやったら喜ばれるか」を追求できるのは幸せなことです。また経営者として、約300人の従業員やその家族をどう幸せにするか、それを背負わせてもらっていることに非常にやりがいを感じています。
―創業から大切にされていることを教えてください。
森 まずは「最高品質の素材を使う」ということです。例えば、今回紹介する「筑紫もち」のもち米は佐賀県・筑紫平野の「ヒヨク米」を使用しています。また、黄な粉には国産大豆のうち収穫量0.5%の品種「タマホマレ」を使用するのもこだわりです。本当においしいものを使うというのは、昔から弊社のDNAとなっています。
さらに、お客さまに対するおもてなしの気持ちも同様です。弊社には「お菓子は平和の文化、家庭の平和と世界の平和に貢献する」という理念があります。世界の平和は言い過ぎかもしれませんが、お菓子を通じて、安らぎの時間・空間をご提供することで「家庭」の平和に貢献したいという思いで、心を込めたおもてなしに努めています。
非常に希少な国産大豆「タマホマレ」など、最高級の素材を使うのもこだわり。
―御社ならではの「強み」について伺えますか?
森 一番の強みは「職人力」です。手前味噌ですが本当に優秀な職人が揃っていまして、代々の製法をしっかり受け継いでくれており、この物作りの職人力も弊社のDNAといえるでしょう。現在は若い職人を育てており、若い感性でまた素敵なお菓子を作ってもらいたいと思っています。
―今回紹介する看板商品「筑紫もち」。誕生のきっかけや魅力を教えて下さい。
森 1975年に博多駅に新幹線が開通するにあたり、博多・福岡を代表するような商品を作ろうとしたのがきっかけです。私の父が、父の祖母が作る黄な粉餅が大好きで、それを商品化しようと開発がスタートしました。先ほど触れたもち米の「ヒヨク米」を使う際も、もち米の配合だけで1,000回以上の試作を重ねています。もちは煉り方、煉り時間によって仕上がりが全く違うので、弊社の強みである「職人力」が試される場面です。
また、黄な粉に使う大豆「タマホマレ」は滋賀県の近江で収穫されるもので、普通の大豆よりも粒が小さく、かつ糖度が高い品種です。黄な粉の多くは大豆を皮ごと煎っているのですが、「筑紫もち」の黄な粉は、この小さな大豆の皮をむくというひと手間をかけてから煎っています。それにより粒子が細かくなるので、他の黄な粉と比べて香りと口どけが違うと好評です。
如水庵のこだわりが詰まったベストセラー「筑紫もち」。
「タマホマレ」の皮を剥いて煎った黄な粉は、繊細な食感と香りの強さが特徴。
―「筑紫もち」は黒蜜も驚くほどおいしいです。
森 黒蜜(黒砂糖の蜜)は、発売当初、沖縄の波照間島の黒砂糖を使用していました。いまは波照間島から黒砂糖が安定供給できないため「タイブラウン」という黒砂糖を使っています。普通の黒蜜は甘くて濃厚なイメージですが、弊社の黒蜜は味わいが上品で色も薄いのです。甘さを抑えているので、黄な粉の香りがより引き立つことも魅力といえます。「筑紫もち」はもち・黄な粉・黒蜜全てにこだわりながら40数年間販売を続けている商品です。
―農家のご夫婦やお孫さんが出演されているCMも印象的ですね。
森 ご夫婦おふたりだけで出演されているバージョンは1999年に制作したもので、2023年に制作したバージョンではお孫さんも登場しています。農家の方が心を込めて「ヒヨク米」を作り続けて下さっており、それが「筑紫もち」のおいしさが続くことに繋がっている。それをお客さまにも知っていただきたいと作ったCMです。
当時40代でいらしたご夫婦に、20数年経ってお孫さんが登場するというあのCMは、当時と同じ服装、全く同じ場所のロケーションで出演していただきました。このCMは、懐かしい・心温まるなど、たくさんの反響をいただき、2024年のFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞において最高賞。福岡広告協会賞においては、金賞を受賞しました。
―公式サイトの「動画ギャラリー」では、「筑紫もち」のいろいろな食べ方が紹介されています。
森 「筑紫もち博多作法。」として「三段流」「別添流」「蜜ノ池流」「余韻流」の4つの食べ方を紹介しています。そのまま黒蜜をかけて普通に召し上がる方が多いのですが、私たちとしては、風呂敷包みを広げるなどの「食べる過程」も楽しんでいただきたいのです。そこで社員やお客さまから「こんな食べ方がある」と情報をいただき、「博多作法。」として表現しました。
中央のもちをそのまま味わい、
そこに黒蜜を注ぐ「蜜ノ池流」など4つの作法がある。
―「筑紫もち」について、お客さまからどのようなお声を頂きますか?
森 「筑紫もち」を通じて思い出を語っていただけることがあります。小さい頃おばあちゃんの家に行くと必ず「筑紫もち」があり、こたつで家族団欒しながら食べたシーンが蘇ってくるそうです。思い出の中に、「筑紫もち」という存在が残っていて、大変嬉しく思います。
もちの食感と黄な粉の香り、黒蜜のコクがまろやかなアイスクリームと相性抜群。
―森社長は「筑紫もち」の食べ方についてお声を頂くことがありますか?
森 「こうやって食べるとおいしい」「私はこう食べる」など、食べ方についてのお声をよくいただきます。夏にソフトクリームの上に「筑紫もち」を乗せたり、パンの上に並べてトースターで焼いたりなどの食べ方を教えて下さる方もいます。私は、アイスクリームと「筑紫もち」にたっぷり黒蜜をかけるアレンジがおいしいと思います。
パンの上に乗せてトーストし、「筑紫もち」のトロトロ食感を楽しむのもおすすめ。
―「筑紫もち」の他にもおすすめの商品があるそうですが。
森 「筑紫もち」の次におすすめしたいのは、「季節の大福」です。1986年に私の祖母の発案で「いちご大福」を作ったのをきっかけに、今では、冬は「いちご大福」、春は「塩トマト大福」、夏は「ぶどう大福」、秋は「ひとつ栗大福」を販売しています。
季節ごとに旬のフルーツ大福を販売しているので、お客さまは「ぶどう大福が出たから夏が来たね」など、弊社のお菓子を通じて季節を感じてくださるようです。多くのお菓子屋さんは仕入れたあんこを使っているのですが、弊社ではあんこを一から作っています。フルーツ大福が生まれたのも、「筑紫もち」のもちと、このあんこの製法技術があったおかげと思っています。
旬のフルーツを使った四季折々の「フルーツ大福」。
―今後の展望についてお聞かせ下さい。
森 「お菓子を通じて幸せを届ける」が弊社の理念ですから、お店での買い物はもちろん、出来立てのお菓子を食べられるとか、ご家族やカップルで過ごしていただくなど、体験も含めて楽しめるお店作りができればと思っています。
福岡市の高島市長は2013年「世界No.1のおもてなし都市福岡」の実現目標を掲げました。おもてなし精神は如水庵も非常に大事にしていますので、世界No.1を目指す福岡のなかでの「おもてなしNo.1企業」を目指しています。福岡にいらした方に「福岡って最高だね」と感じていただきたいです。
―インターネットでのお取り組みについても伺えますか?
森 「大人のおやつ研究所」というオウンドメディアを運営しており、身近にある和菓子や日本文化との繋がりについて紹介しています。和菓子は日本独特の季節感など、日本文化を伝えるうえで重要な役割を果たすものです。四季を表現するお菓子や、ひな祭りなど日本の催事のお菓子を作り続けることで、家族が一緒の時間を過ごし、家族の輪を作っていくことのお役に立てればと思っています。
―貴重なお話をありがとうございました。
「筑紫もち」(9個入)
価格:¥1,701(税込)
店名:如水庵 公式オンラインショップ
電話:0120-39-0052(9:00~17:00 元日のみ休み)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://online.josuian.jp/collections/tsukushimochi/products/tsukushimochi-9
オンラインショップ:https://online.josuian.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
森正俊(もり・まさとし)(株式会社如水庵 代表取締役社長)
1976年2月13日生。福岡市博多区出身。現会長、森恍次郎の三男。福岡県立福岡高校、早稲田大学社会科学部卒。2000年4月 株式会社電通九州に入社。福岡本社、東京勤務を経て、2016年12月 株式会社如水庵に取締役副本部長として入社。2020年4月 代表取締役社長に就任。高校、大学でラグビー部に所属。現在も出身クラブにおいて後進の指導にあたる。
<文・撮影/ふるとりあやめ MC/白水斗馬 画像協力/如水庵>