一つひとつ柿の葉でくるまれた柿の葉すしは、奈良県が誇る郷土料理です。今回、編集長アッキーが注目したのが、柿千の「贅沢柿の葉すし」。従来よりも賞味期限を延ばせる新パッケージを採用し、より多くの人に本場の味を楽しんでもらえるようになったという開発の理由や工夫を、製造元の株式会社あじみ屋の代表取締役社長を務める清水幸隆氏に取材スタッフが伺いました。
おいしさと鮮度を保つ独自のパッケージを開発!満足感たっぷりの「贅沢柿の葉すし」
2024/06/06
株式会社あじみ屋 代表取締役社長の清水幸隆氏
――創業したきっかけは?
清水 柿の葉すしを多くの方に召し上がっていただきたいと考え、1978年に創業しました。柿の葉すしは今でこそ、百貨店や駅の売店、空港、高速道路のサービスエリアなどで広く販売されています。しかし当時は認知度が低く、奈良県の一部で夏祭りなどのときに食べられているのみで、ほとんど知られていませんでした。試食販売をして、お客様と「これ何ですか?」「おすしです、一度召し上がってみてください」というやりとりをしながら、認知度を上げていったという経緯があります。
梅田の阪急本店をはじめ、関西のデパ地下に出店中。
―今回ご紹介する、新しいパッケージの柿の葉すしについて教えてください。
清水 食品業界には、充填豆腐やコンビニのお惣菜などに使われる「MAP包装(まっぷほうそう)」という技術があります。これは、食品パッケージの中に含まれる空気の構成を変えて保存性を高める技術で、ヨーロッパには昔からありました。たとえば、牛乳のパッケージの中に含まれている空気を抜いて二酸化炭素を入れると、菌が生存できなくなり、長持ちします。
当社でも柿の葉すしにMAP包装を取り入れたいと考え、開発に取り組んできました。その過程で問題になったのが、時間が経つとご飯がパリパリになってしまうことです。消費期限を延ばすことができても食味がよくないということで、研究に研究を重ねました。そうやってできあがったのが、「舎利旨MAP(しゃりうままっぷ)」というパッケージです。
新開発のパッケージ「舎利旨MAP」。
清水 これにより、以前は1日から2日だった消費期限を、3日ないし4日に延ばすことに成功しました。水蒸気を通さないバリアフィルムで三重包装し、パッケージの中から酸素を抜いて二酸化炭素と窒素を入れ、酸素を好む細菌の活動を抑えています。
―シャリ(ご飯)がおいしいという意味があるんですね。なぜ、MAP包装を取り入れようと考えたのでしょうか?
清水 現代では、食品の廃棄によるロスが大きな問題になっています。日本国内だけでも、年間で数百万トンの食品が捨てられています。当社はコンビニも経営していましたが、お弁当などは消費期限が切れたら廃棄しなくてはなりません。食品を作るのには原材料が必要ですし、電気も使います。さまざまなコストがかかっているのに、販売できなかったものは1日で捨てられてしまう。当社としては、消費期限を延ばすことで商品ロスを減らしたいと以前から考えていました。2023年の12月にやっと「舎利旨MAP」が完成し、3日から4日保つ状態で販売できるようになったというわけです。
「舎利旨MAP」で届けられる柿の葉すしはジューシーな味わい。
―食品ロスという社会問題が背景にあったのですね。
清水 はい。少しずつですが食品ロスを減らしていこうと考えています。それが、こういった食品を扱っている会社の使命なのではないでしょうか。儲けることだけを考えていたら、いずれ下り坂になるでしょう。
「会社」は漢字で書いて後ろから読むと「社会」です。会社と社会は表裏一体で、営利だけのことを考えるのは片輪の車のようなものです。儲けることとそうでないこと、両方が一体となっていると考えながらやっていかなくてはなりません。半分は会社のために、残りの半分は世の中のためにと考えることが大事だと思います。
―舎利旨MAPで販売する「贅沢柿の葉すし」について教えてください。
清水 もともとは阪急うめだ本店でしか扱っていなかった商品です。当社では、30年ほど前から阪急うめだ本店で柿の葉すしを販売していまして、阪急のバイヤーさんから「梅田の本店でしか扱っていない、といえるような商品は作れないか」と言われて開発しました。現在はネット通販でも取り扱っています。
―どの辺りが「贅沢」なのでしょうか?
清水 一般的な柿の葉すしは、サバの切り身が上にのっているだけですが、贅沢柿の葉すしはシャリの中にもサバを入れました。サーモンも大きくカットし、シャリの上だけでなく側面まで覆う形で作っています。
シャリの中にもサバが入っている。
――確かに贅沢です。柿の葉すしを開発するうえでのこだわりは?
清水 添加物はできるだけ使っていません。これは当社の中心にある考え方ですから、今後も貫いていきます。添加物を使うと日持ちするようになりますし、楽なのですが、当社としては味や安全性の面からできるだけ使うべきではないと考えています。「舎利旨MAP」を開発したことで、添加物ではない方法で消費期限を延ばすこともできました。2018年には、食品安全マネジメントシステムの国際規格であるFSSC22000の認証も受けています。
――御社では冷凍の商品も扱っていますが、こちらはどのように展開していくのでしょうか。
清水 冷凍にすると保存がきくようになりますが、問題は解凍です。冷凍の柿の葉すしを常温の場所に置いて時間をかけて解凍をすると、ご飯がロウソクのように硬くなる「白蝋化(はくろうか)」が起きてしまいます。そのため、現在は電子レンジまたは湯せんで解凍してもらうようお願いしているのですが、上にのっているのが生のネタですので、これもなかなか難しい。そこで当社では今後、マイナス196℃で冷凍できる液体窒素の瞬間冷凍技術を取り入れようかと考えています。
冷凍タイプの柿の葉すし。
―なぜ液体窒素なのでしょうか?
清水 食品をマイナス50度ほどで凍らせると、常温で解凍したときにドリップ(水分)が出てしまいます。モーターを搭載した機械でゆっくりと凍らせる必要があり、電気代がかかるのもネックです。その点、マイナス196度の液体窒素で凍らせると常温で解凍してもドリップが出にくくなります。機械にモーターを使わないため電気代もかかりません。今後は環境とコストのことも考え、液体窒素の凍結機を取り入れていこうと考えています。
――会社のことについてもお聞きします。御社では障害者雇用に積極的に取り組んでいると伺いました。
清水 当社では障害を持つ方を「貴世満の子」と呼んでいます。世の中には、さまざまな要因で変調をきたしている方が大勢います。私も手が歪んでいたことから、昔は周囲にいろいろなことを言われました。そのときに「なにくそ」と奮起したことで今があります。
この会社を作るとき、「会社の中にいるのが五体満足な人間ばっかりだったらだめだろう」と考え、障害を持った方にも入ってもらいました。今の世の中は五体満足な人に合わせた基準になっているので、そうでない方たちは大変です。例えば、五体満足な方であれば1時間に箱を100個組み立てられるのに、手に障害がある方は10個しか作れない。しかしそういう方は、10個完成させるためにものすごいエネルギーを使って仕事をしているはずです。私はそこに価値があると考えています。
人間はいつどこでどうなるか、それは誰にも分かりません。交通事故に遭えば、明日にでも手足が動かなくなる可能性もあります。そういうことを常に考えていく必要があります。
―常に社会のことを考えた取り組みをされているのですね。本日はありがとうございました。
「贅沢柿の葉すし 2種8個入」(贅沢さば4個・金の華サーモン4個)
価格:¥2,500(税込)
店名:柿千オンラインショップ
電話:0120-41-3000(9:15~16:30 日祝休)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kakisen.jp/SHOP/5510.html
オンラインショップ:https://www.kakisen.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
清水幸隆(株式会社あじみ屋 代表取締役社長)
1951年生まれ。幼少期より奈良県吉野郡天川村大峯山上参りへ参加し、天川村と深い繋がりができる。その後、天川村村長との交流を経て、天川村発祥の柿の葉すしを製造しようと思い、1978年7月に柿千を創業。代表取締役社長に就任。
<文・撮影/坂見亜文子 MC/髙橋美羽 画像協力/あじみ屋>