奈良県桜井市の大神神社(おおみわじんじゃ)を発祥とする三輪そうめん。伝統の技から生まれる繊細な麺が特徴で、時には食卓を贅沢に演出してくれます。今回、編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは、鮮やかな5色の手延べそうめんがセットになった「色撫子」。株式会社池利の6代目であり、代表取締役社長の池田利秀氏に取材陣が伺いました。
食卓をカラフルに!業界の常識を変えた老舗が贈る5色の三輪そうめん「色撫子」
2024/06/10
株式会社池利 代表取締役社長の池田利秀氏
―御社の歴史を教えてください。
池田 奈良県三輪山のふもとで、創業は江戸末期の1850年です。最初はあくまでも農家として、畑仕事ができない冬場にそうめんを作っていたそうです。1888年に大阪へ進出し、奈良県外でもそうめんを販売するようになりました。1924年に三越様とお取引が始まり、池利が全国へ広まったことが法人化への転換期となりました。余談ですが、昔は束にしたそうめんを大きな箱で運び、お客様が購入したい数をお渡ししていました。ところが外部の販売員さんはそうめんを折ってしまうため、弊社が袋入りで販売を始めた流れが現代も続いています。
創業から174年。そうめん一筋に代々伝わる手延べの技を受け継いでいる。
―三輪はそうめん発祥の地で、三大産地の一つなのですね。
池田 夏の暑いときでもクーラーや冷蔵庫がない時代に、水で冷やして食べるそうめんを知って「これはおいしい!」となった人は多いと思います。名古屋や東京までそうめんが広まるのには時間がかかったかもしれません。三輪そうめんは奈良県における地場産業として、弊社の本社がある桜井市でも地域のブランドとして認められています。行政やさまざまな企業様との取り組みについては、今でも父が窓口を担ってくれています。
―家業を継ぐのは必然でしたね?
池田 物心ついたときには会社を継ぐことを意識する環境があり、いわゆる「お坊ちゃん」として育ちました。しかし、自分のなかには家業を継ぐ実感がなく、一時期は将来の夢を自由に答えられず葛藤したものです。大学卒業後、父の紹介で株式会社ロック・フィールドへ入社しました。1年目以降は社長直轄の商品企画開発室で働くことができ、2年にわたる厳しくもやさしい指導があったからこそ今の私がいると思っています。
1998年に池利に入社。自分がみんなを引っ張るべきシーンでも先輩方についていくのに必死で、勉強不足を痛感しました。営業が大好きで最前線に立ち続けていた父は、弊社やそうめん業界にとって大きな存在です。僕が経営に携わるようになってからも「父に社長を続けてほしい」という思いを伝えていましたが、2013年に交代を決意しました。
―企業として大切にしていることは?
池田 企業の歴史に重きを置かず、いろいろな商品を作って、お客様にそうめんを楽しんでいただくことを大切にしています。実は、色のついたそうめんを初めて作ったのも弊社です。定番の白いそうめんだけでは飽きられてしまうので、少し変わったことをして「そうめんが忘れられないように」と願う会社があってもいいと思うのです。
夏場のそうめんは手抜き料理と言われることがありますよね。そんなときに弊社の色つきそうめんを食卓に出して、「今日のそうめんは面白いね」とお箸が動くようなシーンがあれば最高です。そうめんで日常を彩れることが私たちの幸せなのです。
―今回ご紹介する「色撫子」について教えてください。
池田 「色撫子(いろなでしこ)」は5色のそうめんがセットになった商品です。定番の白色をはじめ、赤色は梅、緑色は青しそ、黄色はかぼす、紫色は紫いもとなっています。そうめんは賞味期限が長いため、色飛びしないように自然由来のクチナシ色素なども加えています。さわやかな風味をしっかり感じる梅や、ほんのり苦みのあるかぼすなど、味わいの強さはそれぞれです。紫いもはやさしい甘みで、野菜が苦手な方も食べやすいでしょう。
食卓が華やかになる色とりどりのそうめん。盛り付けの時間も楽しい。
―開発秘話はありますか?
池田 ご縁のあったアパレル会社の社長から「ハイセンスなそうめん」というアイディアをいただき、弊社が製造していた色そうめんをセレクトしました。「しろ」に採用している白い帯は通常「安物のそうめん」に巻かれるものですが、そうした業界の常識を壊しつつ、アパレル感覚でデザインを作り込んだのです。販売を始めた2010年頃はまったく売れず、時代的には少し早すぎたようでした。マカロンなどカラフルな食べ物がブームになったあたりから、爆発的に売れゆきが伸びましたね。
―どのように作られるのでしょうか?
池田 そうめん作りは時間がかかるため、早い日は午前2時から始まります。そうめんに色や味をつけると伸びにくくなったり、切れやすくなったりするので、「色撫子」はより手間がかかっています。特にこだわっているのは、原料である小麦粉です。国や銘柄によって味が異なるほか、麺にコシが出る小麦粉やツルツル感が出る小麦粉などがあるので、ベストなブレンドを追求しています。原料の価格高騰は厳しいですが、「おいしいそうめん」であるためのこだわりは守らなければいけません。
人の目と手により、丁寧に検品される手延べそうめん。
―贈答品としても注目されています。
池田 結婚式の引き出物や出産祝いなどにもお選びいただけるようになりました。お客様がそうめんの用途やアレンジを自由に発想してくださることが喜ばしくて、社内でも「とても面白い商品が生まれた」と盛り上がっています。
いろいろなイベントに出店するなかで、そうめんをよく知らない方に「色撫子」を紹介すると大きな反応があります。年配の方は食べ慣れていることが多いですが、そうめんのおいしさがもっと幅広い世代に広まっていくとうれしいです。
―今後の展開について教えてください。
池田 会社をどうこうしたいというよりも、従業員の皆さんをどれだけ幸せにできるかを日々考えています。個人が集まって「会社」として動いているので、社員も僕も一人では大したことができないのです。そうめん業界の今後としては、にゅうめんブームにご注目ください。一部のおだし屋さんや飲食店で人気が出ていて、冬に食べる麺類の一つに加わるかもしれません。寒い日に温かいにゅうめんを食べると、ほっとしますよ。
―季節を問わず、そうめんを楽しんでみたいと思います。すばらしいお話をありがとうございました!
「色撫子(いろなでしこ)」(50g×5束 木箱入り)
価格:¥1,296(税込)
店名:三輪そうめん池利 本店
電話:0744-43-2421
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://ikerishop.com/SHOP/na-s.html
オンラインショップ:https://ikerishop.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
池田利秀(株式会社池利 代表取締役社長)
1972年、奈良県生まれ。芦屋大学卒業後、株式会社ロック・フィールドへ入社。3年の修業期間を経て1998年に株式会社池利へ入社。2022年、同社代表取締役社長に就任。
<文・撮影/マスダアヤノ MC/伊藤マヤ 画像協力/池利>