フランス菓子から発想を得た日本生まれの「ブッセ」。表面をざっくりと焼き上げつつ、中はふんわりと仕上げた甘い洋菓子です。今回、編集長アッキ―こと坂口明子が注目したのは、福島県会津若松市に本店を持つ「太郎庵」の「会津米の天神さま」。和菓子屋のような名前のお店が作るブッセとは?株式会社太郎庵 代表取締役の目黒徳幸氏にスタッフがお話をうかがいました。
福島県民が誇りに思うお菓子を目指して。会津産米粉を使ったふわふわブッセ「会津米の天神さま」
2024/06/14
株式会社太郎庵 代表取締役の目黒徳幸氏
―会社の成り立ちを教えてください。
目黒 前身は1949年に私の祖父が創業した「目黒菓子店」です。会津坂下町の裏通りにある、町で一番小さな店だったと聞いています。一生懸命に働く祖父母を見ていた父は「表通りに店を出して親孝行したい」と相談したものの、祖母は「安定した会社に勤めてほしい」と願ったそうです。それでも「お菓子屋はいいぞ」という祖父の一言が決め手となり「太郎庵」を開きました。私は2代目社長であり、家業としては3代目です。
―家業を継いだきっかけは?
目黒 私は人に喜ばれるものを「考えて・作る」ことが得意です。自分の好きなことを生かせて、家族の期待にも重なる道がお菓子屋の仕事でした。家業を継ぐ気持ちは幼少期からぼんやりとあり、父から創業時の話を聞いた瞬間に決心しました。
経済的に厳しい環境にある祖父が言った「お菓子屋はいいぞ」という言葉の意味を模索したいと思ったのです。大学卒業後はお菓子の専門学校へ行き、洋菓子店で6年ほど修行してから家業に入りました。私に後継者ができたときには、自分の言葉で祖父の真意を証明できる会社を目指しています。
―受け継がれてきたDNAはありますか?
目黒 「太郎庵の始まりは親孝行」という価値観を社内全体で大事にしています。太郎庵は芦ノ牧温泉などでお菓子を売り歩く卸に始まり、昔は店舗がありませんでした。私は「自分の子どもが継ぎたがる店」を意識して売上を伸ばし、今では県内に15店舗となっています。
父に聞いた「本日開店の心」も経営理念として引き継いでいきます。「明日もお客様が来てくれるかわからない」という緊張感は、どうしても薄れがちです。昔と変わらぬ志を胸に秘め、仕事の意味を考えて動くことでおもてなしの伝わり方は変わるでしょう。
―会社の強みを教えてください。
目黒 ご要望への個別対応と商品開発、現場の変化におけるスピード感が強みです。私自身が作り手で社員の対応力もあるので、試作からテスト販売までがスピーディーです。お菓子は香りと鮮度が大切で、そこに味覚・食感・見た目がそろい、おいしさに繋がると思っています。工場に近接した直営店では、出来立てのお菓子が食べられますよ。
―創業時からの人気商品「会津の天神さま」について。
目黒 戦国武将の蒲生氏郷(がもう うじさと)公が会津領主の時代、京都から張子職人やお茶文化が持ち込まれました。「天神様」は張り子技術を使った玩具で、会津には男の子が生まれた家に天神様を贈る風習があります。会津の文化を表現する「会津の天神さま」は、ふんわりとした甘いブッセで、会津ブランド商品にも認定されています。
天神様をかたどったパッケージのイラストは、会津で有名な画家・横田新さんの作品です。怒ったような表情にも見えますが、味があって面白いですよね。会社のロゴも同氏によるもので、太郎庵の情熱とぬくもりをランプで表現したあたたかみのある絵です。
こだわりは、ふわふわのブッセ生地。きめの細かい生地にするために製法を工夫し、材料も厳選。
ロングセラー商品「会津の天神さま」。ほっこりとする天神様のイラストが目印。
包装紙は古き良き会津の歳時記を描いた温かいイラスト。
―「会津米の天神さま」の魅力は?
目黒 種類豊富な天神さまの中でも、人気No.1のチーズ味を採用しています。米粉で作ることで、小麦粉を使う「会津の天神さま」以上にふわふわな仕上がりです。もっちり感を残しつつ、米粉特有のぱさつきも抑えました。原料を福島県産の小麦粉と会津産の米粉とすることで、地産地消のお土産としての魅力も高まったと思います。どちらもバターとチーズは北海道産を使用し、食感に違いを持たせました。「会津の天神さま」は食べごたえがあり、濃厚なバタークリームとのマリアージュが絶妙です。グルテンフリーの「会津米の天神さま」は、しっとりとした生地がクリームと調和します。
会津産の米粉を使った特別な「天神さま」。
田園を思わせるパッケージにほっこり。
ふわふわ生地に、塩気のあるチーズ味クリームをたっぷりサンド。
―今後の展望について。
目黒 弊社は3つのビジョンを掲げていて、1つは社内での助けあい、2つ目は顧客の関係性向上としています。商品をお土産に購入してくださる人と、その人が喜んでほしい人、ふたりの関係性を応援することが仕事です。そして、3つ目が「福島県民の自慢となること」です。2011年の東日本大震災以降、福島県が受けた原発事故による風評被害は強烈でした。自分が生まれ育った土地について、自信を持って発言できなくなったのです。みんながふるさとを誇りに思えるように、「会津の太郎庵」として全国に明るいニュースを発信し、地域に貢献できる存在になれればと思います。
―貴重なお話をありがとうございました!
「会津米の天神さま」(5個入)
価格:¥1,170(税込)
店名:お菓子の蔵 太郎庵 オンラインショップ
電話:0242-83-3267(09:30~18:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://shop.cake-cake.net/taroan/select_item.phtml?CATE3_ID=242&tag_id=12&search_type=tag_search
オンラインショップ:https://shop.cake-cake.net/taroan/index.phtml
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
目黒徳幸(株式会社太郎庵 代表取締役)
1977年、福島県生まれ。大学卒業後、菓子専門学校で菓子作りについて学ぶ。その後、洋菓子店にて6年にわたり研鑽し、株式会社太郎庵へ入社。企画・開発・広報・人事などを経て42歳で社長就任。現在に至る。
<文・撮影/マスダアヤノ MC/石井みなみ 画像協力/太郎庵>