今回、編集長アッキーこと、坂口明子が注目したのは、小豆のおいしさとお餅のバランスが絶妙な和菓子「あも」と美しい梅のお菓子「標野」。ともに製造しているのは株式会社叶 匠壽庵(かのうしょうじゅあん)。雄大な琵琶湖を抱く滋賀県で1958年に創業、農園を所有し、「農工ひとつ」として素材にこだわり、作り手の思いが感じられるオリジナルの和菓子を次々と誕生させています。その取り組み、魅力について代表取締役社長の芝田冬樹氏に取材スタッフがお話を伺いました。
お菓子づくりは「農」から。農園を持つ和菓子店の思いが詰まった銘品を味わう
2024/06/21
株式会社 叶 匠寿庵 代表取締役社長の芝田冬樹氏
―代表の経歴を教えてください。
芝田 私は3代目ですが、もともとは社員出身です。菓子職人になりたくて20歳のときに入社しました。「叶 匠壽庵」は創業が1958年で、和菓子店としては新しいほうです。そのため「老舗には勝てないから、自分たちは世の中にないものを作っていこう」という意識が強く、クリエイティブな風土に心底惚れ、若い頃は一生懸命に修業をしました。
お菓子づくりや商品開発に携わり、生産畑ひと筋に歩んできましたが、先代の長女と一緒になったことでオーナー家に入ることになり、現在に至ります。現場を知っているだけに、社員からするとやりにくい面もあるかもしれませんが、諸先輩方や昔の上司も私を立ててくれて、盛り上げてくれています。
―初代と2代目はどんな方だったのでしょうか。
芝田 カリスマ的な経営者でした。初代はもともと大津市役所の観光課にいた公務員で、「滋賀県で京都に負けないお菓子を作りたい」と一念発起し、39歳のときに退職してまったくの素人から「叶 匠壽庵」を創業したという経緯があります。さらに和菓子と密接な関係がある茶道の文化を取り入れ、裏千家さんに監修していただいて京都にお茶室も建てました。
2代目は、原料を育てる「農」とお菓子づくりの「工」はひとつだと考え、大津市の丘陵地を開墾して農業を取り入れました。そうやって生まれたのが、自分たちで原料を育て、お客様の信頼に応えられるお菓子づくりをするための「寿長生の郷(すないのさと)」です。
さまざまな農作物を育む約6万3,000坪の「寿長生の郷」。
芝田 3代目の私としては、カリスマの2人には勝てませんので、「人」を大事に育て、人の力を引き出して創造性豊かにやっていきたいと考えています。ここ数年は、叶 匠壽庵で働く全スタッフが商品開発のアイデアを出せる機会を設け、商品化にもつなげています。
―今回ご紹介するお菓子のうち、「標野(しめの)」について教えてください。
芝田 「標野」は梅のゼリーで、爆発的な人気があるというわけではないのですが、当社の思想を一番表現しているお菓子だと思っています。最大の特徴は原料に「寿長生の郷」で収穫した梅の実を使っている点です。
使っている梅の品種は「城州白(じょうしゅうはく)」という、果肉が厚く香りもよい、お菓子にぴったりのものです。商品を初めて発表したのは1974年で、もともとは実を購入していたのですが、1985年に寿長生の郷へ本社・工場を移転する際に「自分たちで栽培しよう」ということになり、苗木を植えました。
「寿長生の郷」で丹精込めて育てられている梅の実。
芝田 梅は苗木から実を収穫できるようになるまでに、少なくとも5年はかかります。実を収穫したら蔵で最低1年はつけ込み、できあがった梅酒と寒天を合わせて「標野」を作ります。まさに「農工ひとつ」の思想を体現した、非常に思い入れのあるお菓子です。
「標野」という商品名の由来は、万葉集にある額田王の「茜さす 紫野ゆき 標野ゆき 野守は見ずや 君が袖振る」という短歌です。歌の内容は諸説ありますが、恋の歌であろうということで、甘酸っぱい香りと歌のイメージを表現したいと考えました。赤い色を付けるのには、「露茜(つゆあかね)」という中まで赤い梅を使っています。着色料は使用していません。
鮮やかな茜色が美しく、梅の香りと味がさわやかな「標野」。
―作り手の思いが込められているのですね。
芝田 原料を買うのではなく、自分たちで一から育て、責任あるお菓子づくりをしようという気持ちはどこにも負けません。
―もうひとつの「あも」はどういったお菓子なのですか。
芝田 1971年に発売したロングセラーの看板商品で、あっさりと炊き上げた小豆を使ったシンプルなお菓子です。羊羹のように思われるかもしれませんが、羊羹ではありません。
商品名は、初代が滋賀や京都の歴史を調べた際、平安時代にお餅のことを「あも」と呼んでいたことを知り、そこから付けたという経緯があります。初代はお菓子づくりに関しては素人でしたので、そのぶん原料には最高のものを使うというポリシーを持っていました。小豆は丹波の「大納言」、餅には近江の「羽二重」というもち米を使用しています。甘さは控えめですので、普段は和菓子を食べないような方にも食べていただきたいと思っています。
上質な小豆の風味が生きている「あも」。
―「あも」のこだわりを教えてください。
芝田 職人が手で炊いたあんこを使っています。最近は手間と無駄を一緒にしてしまう人が多いのですが、手間を省いてしまってはよいものができません。おいしいお菓子を作るには、無駄を省いて手間をかけることが大切だと考えています。
―「あも」のおすすめの食べ方は?
芝田 1時間ほど冷蔵庫に入れて、少し冷やしていただくとおいしくなります。食べ切れないときは、おぜんざいにして召し上がってください。上質な原料を使っていますので、素材の味を楽しんでいただきたいと思います。
―今後の展望や取り組みたいことなどを教えてください。
芝田 社内に関することでは、働きやすい環境づくりです。自分たちが幸せになることによって、お客様にも心のこもったサービスができますし、よいものを作ろうという気持ちも起こってくるものですから。ハード面では、森の中にコンサートができるようなホールを作りたいと考えています。
それからネット通販も今の重点課題として考えています。我々は基本的に対面で販売させていただいていますし、顔の見える商売というのは絶対になくせない大事な要素ですが、「お店には行けないけれど食べたいな」と思われる方もいらっしゃいますから。とはいえ、お客様によいものを届けるにはむやみに在庫を持つのではなく、注文をどうやって生産体制に落とし込むかを考えていかなければなりません。このあたりが今後の研究課題だと考えています。
―お取り寄せで「叶 匠壽庵」の味を楽しみたい方には朗報ですね。ありがとうございました!
「標野」(5個入)
価格:¥1,242(税込)
店名:叶 匠壽庵 公式オンラインショップ
電話:0120-546-285(9:00~16:30 水日休)※お電話での注文は承っておりません
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://onlineshop.kanou.com/c/all-year/shimeno/detail-1310030-17
オンラインショップ:https://onlineshop.kanou.com/
「あも」(1本)
価格:¥1,296(税込)
店名:叶 匠壽庵 公式オンラインショップ
電話:0120-546-285(9:00~16:30 水日休)※お電話での注文は承っておりません
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://onlineshop.kanou.com/c/daihyoumeika/amo/detail-1110001-01
オンラインショップ:https://onlineshop.kanou.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
芝田冬樹(株式会社 叶 匠寿庵 代表取締役社長)
1964年滋賀県生まれ。1984年に入社し、生産部で菓子製造や商品企画に一貫して携わる。その後、執行役員生産本部長、副社長を経て3代目として2012年社長就任。「農工ひとつ」の菓子づくりを目指し大津市の里山に開郷された寿長生の郷で、菓子の原材料を自ら栽培することにより得られる素材のこだわりや、おもてなしの心を先代から受け継ぐ。社長就任後も新アイテム開発や時代に合わせた商品改良、新店舗展開を積極的に手掛けている。
<文/坂見亜文子 MC/白水斗馬 画像協力/叶 匠壽庵>