今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは、素材にこだわって作られた「3種のべったら漬セット」と「奈良漬 瓜」。一般消費者だけでなく、多くの食品企業や飲食店からも愛されているというこの漬物は、東京築地に位置する株式会社吉岡屋が販売しています。創業95年の老舗企業ながらも、漬物の新しい食べ方を提案するなど進化し続けています。株式会社吉岡屋の代表取締役の吉川絵美子氏に、取材陣が伺いました。
食のプロも認める株式会社吉岡屋の「3種のべったら漬セット」と「奈良漬 瓜」の魅力
2024/06/26
株式会社吉岡屋 代表取締役 吉川絵美子氏
―貴社の沿革を教えてください。
吉川 弊社は私の祖父が1929年に創業したのが始まりです。板橋の工場で製造し、築地で販売していました。当時からべったら漬と奈良漬が主力商品で、今も変わっていないのが弊社の特徴かなと思います。
戦争中は若者が動員されていましたが、当時は漬物も食糧としての供給が重要だと認められていたようで、弊社の工場は戦争中も、ひたすら製造に励んでいたそうです。戦後も順調に商売が続き、昭和30年代後半から40年代、日本が著しく成長するタイミングに弊社もかなり規模を大きくしていったと聞いています。
百貨店などに売り場を展開していた時期も長くあったようで、多いときは45店舗ぐらい売店があったそうです。2015年に私が引き継いでからは百貨店の中の売店は全て撤退して、製造は長年おつきあいのあるメーカーさんにお願いし、今は築地と豊洲市場の中の店舗2拠点で営業しています。
―幼少期から家業を継ぐことをお考えでしたか?
吉川 私は兄と二人兄妹なので、幼少期から兄が継ぐのだろうと思っていましたが、高校生の頃にアルバイトとして家業を手伝っていたこともあり、後を継ぎたい気持ちがどこかあったと思います。
先代の父が急に病に倒れ、父は兄に継いでほしいと言えなかったようです。余命宣告をされて亡くなる一ヶ月くらい前に家族会議が開かれ、兄は自分の仕事を続けたいというので、私が後を継ぐことが決まりました。
―社長就任後、苦労されたことは?
吉川 私はもともと大学で既卒女性の再就職支援をしておりました。当時は別の大学に転職して新卒の就職支援に従事しておりましたので経営者としての実績もないですし、会社の財務状況もわからず苦労しました。弁護士さんや税理士さんも支えてくださいましたが、急に社長になって従業員との信頼関係も十分に築けている状態ではありませんでした。
また、父の急逝と同時に突然の社長就任で転職したばかりということもあり、勤めていた仕事をすぐにやめることができませんでした。上司に相談したら、「サポートするからいられるだけいてみてよ」と言われ、朝は築地でこちらの仕事をして、そこから大学に出勤していました。当時は必死でしたが、周りの方々に支えられありがたい環境だったと思います。
もう一つ、私が引き継いだ同じ時期に築地市場が豊洲に移転することが決まっていたタイミングでした。これは創業以来の一大事で、市場内の店舗移転に加え、市場のない築地でお客様からのご利用を維持していただけるのか大きな問題になりました。この時期に合わせて大学の仕事を辞めて、社長業に専念することになりました。
―企業として昔から大事にしていることは?
吉川 食品を扱っているので当然ですが、品質に注意を払い、お客様に喜んでいただける商品を提供することが昔からのモットーです。卸先のお客様にも、自信を持って弊社の商品をお出ししていただけるよう意識しています。
―「3種のべったら漬セット」の特徴は?
吉川 まずは、国産の厳選した素材を使っているところです。味は甘くなりすぎないようなレシピで作ってもらっています。さっぱりいただけるところは特徴かなと思います。あとは、切った時に綺麗に見えるように、綺麗な見た目をしている大根を選んでいます。
べったら漬には皮つきと皮なしのものがあるので、食べ比べするのもおすすめです。皮つきの方が歯ごたえがあり、皮にも栄養があるので、風味を丸ごと感じていただきたいと思います。
「ゆずべったら漬」は皮なしの大根に柚子のピールを散らしたもので、さわやかな味わいを楽しめます。大根とゆずは相性が良いので、女性のお客様から特に人気です。築地本願寺さんの朝食メニューの「18品の朝ご飯」の一つに採用されています。テレビでも紹介されたので、ご購入される方が増えてきました。
右上から時計回りに皮つきべったら、皮なしべったら、ゆずべったら。
―こちらの商品の販売で工夫したことは?
吉川 大根の品質を保つことです。天候に左右されるので、異常気象に見舞われると質が良い大根がとれません。見た目も含め質が悪いと商品として売れないので、お得意様には事情を説明してご理解いただくこともありますが、べったら漬は通年で売っていることが特徴の一つでもあるので、どうするか非常に悩みました。
そこで、「べったら漬とベーコンのエピ」というパンを売り出しました。これはアールベイカーの社長さんが漬物が好きということで、商品開発のお話がきたのがきっかけです。見た目の点で商品としては使えなかったべったら漬を、パンにしてみたところ、多くのお客様からご好評いただきました。
べったら市でも大人気の「べったら漬とベーコンのエピ」。(写真左)
―おすすめの食べ方やアレンジ方法は?
吉川 そのまま召し上がっていただくのが一番おいしいですが、ご家庭でべったら漬が余ってしまったら、オリーブオイルを少しつけて食べていただくのがおすすめです。見た目も味わいも変わるので、漬物を食べ慣れていない方も食べやすいと思います。漬物は野菜なので、意外といろいろな食材に合うんですよ。
また、食品メーカーのハインツさんのパスタソースを使った企画で、「べったら漬の牛肉とイベリコ豚の粗挽きボロネーゼ」という料理を開発していただいたことがあります。ボロネーゼの赤とべったら漬の白のコントラストが綺麗で、柔らかいパスタの中にポリポリとした食感のべったら漬が加わったことで、食感にアクセントが出ておもしろいなと思いました。
とんかつきりしまさんという兵庫のとんかつ屋さんでは、べったら漬を使ったとんかつロールが販売されています。プロの方が注目してくださるのはありがたいです。店舗前の冷凍食品自販機でも販売していたほか、都内のラーメン店でも提供されているようです。
ほかにも、弊社の店舗内にはインターン生が考えたレシピがあるので、店舗にお越しの際はぜひご覧ください。
左から皮なしべったら、皮つきべったら。オリーブオイルをかけると風味が変わる。
べったら漬のほのかな甘さがボロネーゼにマッチしている。
とんかつきりしまさんのとんかつロールの試食会の様子。
―「奈良漬 瓜」の特徴は?
吉川 国産の瓜の中でも肉厚で形が良いものを使っているところが特徴です。そこが苦労している点でもありますが、飲食店のお客様にとって見栄えの良さは大事なので、アーチを描いたような形の瓜にこだわって選んでいます。
最大の特徴は、昔ながらの製法で作っていることです。奈良漬は塩漬けしてから酒粕で漬けていくのですが、この酒粕を漬ける工程を4回繰り返しています。これは時間も手間もかかるので、もっともグレードが高い商品です。
最近では調味液を使った簡単な製法もありますが、弊社の商品は昔ながらの製法で作っているので、歯ごたえもほどほどに柔らかいという特徴があります。
素材の味を生かし、甘すぎないところが特徴。
―おすすめの食べ方やアレンジ方法は?
吉川 そのままでもおいしいですが、乳製品と合うのでチーズと一緒に食べるのもおすすめです。また、インターン生が奈良漬を使ったレシピ開発をしていたのですが、アイスと細かく刻んだ奈良漬が意外と合いました。特にチョコレートアイスと相性がよくて、ドライフルーツのチョコレートがけのようなイメージです。
それと、奈良漬を薄く切ったものを盛り付けると、カルパッチョにも合うと料理研究家の方から教えていただきました。
甘すぎない奈良漬はアイスとも相性が良い。
―今後の展望は?
吉川 今、創業から95年目なので、まずは100年企業を目指して会社としての足腰を強化していきたいと思っています。近年は社会環境も大きく変わってきているので、いろいろな課題がありつつも、変化に対応できるように頑張っていきたいです。
また、会社としても個人としても、若年層への漬物の普及を目指しています。漬物は古臭いイメージがあるかもしれませんが、生の野菜よりも量的に摂取しやすく、塩漬けをされていることで栄養価が高まっているという魅力があるので、ぜひ多くの人に食べていただきたいと思います。
それと、弊社が商売している築地はまもなく再開発が始まります。ここを食の街として存続していけるように、築地の人間の一人として願っています。最近では海外からのお客様も増え、弊社の梅干しを買っていく様子がテレビで放送されました。日本の食の魅力が世界に認知されていくといいなと思っています。
―貴重なお話をありがとうございました!
「3種のべったら漬セット」
価格:¥3,300(税込)
店名:築地の漬物屋 吉岡屋
電話:03-3541-3541(6:00〜14:00、日・祝・市場休市日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://yoshiokaya.base.shop/items/52932021
オンラインショップ:https://yoshiokaya.base.shop/
「奈良漬 瓜」
価格:¥2,000(税込)
店名:築地の漬物屋 吉岡屋
電話:03-3541-3541(6:00〜14:00、日・祝・市場休市日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://yoshiokaya.base.shop/items/76912827
オンラインショップ:https://yoshiokaya.base.shop/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
吉川絵美子(株式会社吉岡屋 代表取締役)
1972年東京都生まれ。1994年日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)入行。その後、日本女子大学において既卒女性の再就職支援、立教大学で新卒の就職支援に従事。2015年株式会社吉岡屋代表取締役に就任。大学生のインターンシップ実習などを通して若年層への漬物普及にも注力。
<文・撮影/サカモトアヤ MC/木村彩織 画像協力/吉岡屋>