今回、編集長のアッキ―こと坂口明子が注目したのは、雄大な自然遺産から湧き出る伏流水を使用することで、さわやかな香りと深いコクを合わせ持つ特別純米酒。発売する酒蔵は、父と娘夫婦の親子で地元原料を駆使したお酒造りに取り組む島根県の一宮酒造有限会社。
造り手のていねいな仕事が伝わるお酒を製造する同社・代表取締役の浅野浩司氏と杜氏の浅野理可氏に、酒米や新しい挑戦などのお話を取材スタッフがうかがいました。
世界遺産の地で“復活した幻の酒米” を女性杜氏が仕上げた日本酒「石見銀山 特別純米」
2024/06/26
一宮酒造有限会社 杜氏の浅野理可氏(右)と副杜氏の浅野怜稀氏(左)
―はじめに会社の歩みを教えてください。
浅野 島根県の雄大な三瓶山の麓から伏流水が湧き出る好立地を利用し、初代が酒の製造業として1896年(明治29年)に創業しました。
昭和に入って1954年に法人組織に変更したのち、卸しの免許を取って卸業務も兼ね、私が継いだときは酒の製造と卸しの2つを手がけていました。現在は清酒だけでなくリキュールや焼酎の免許を取るなどし、幅広い種類のお酒を造っています。
水が決め手の日本酒に、カルデラの国立公園・三瓶山の麓から湧き出た豊かな水を使用。
―事業を継がれるまでの経緯をお聞かせください。
浅野 妻が創業家の娘で、私が仕事をしていた会計事務所にアルバイトに来ていたので知り合いました。その後に結婚して当酒蔵に1987年に入社したという経緯です。
結婚当時はサラリーマンで会計事務をしていたのでまったく別の職種ですが、もともと商売をしていた家庭の育ちです。酒蔵で働くことはむしろ会社員より違和感がなかったです。
私は1995年に4代目として弊社を引き継ぎました。現在は娘であり杜氏を務める5代目夫婦とともに切り盛りしています。
―会社を継いでから取り組まれたことは?
浅野 私が継いでからそれまでになかったことにも取り組んできたのですが、1つはアルコール度数8%の低アルコール酒です。そこから派生商品としてスパークリング日本酒(アルコール度数5%)も開発しています。
これはシャンパンと同じく瓶内で2次発酵する技術を用いるもので、当蔵は大手がスパークリング市場に参入する以前から着手してきました。
経営理念として「日々挑戦」を掲げています。現在でも「若い人にもっと飲んでほしい」との思いで、リキュールや低アルコール酒などさまざまな新しい商品の開発に取り組んでいます。
発泡清酒 雪香(YUKIKA)。日本酒スパークリングの分野にも他社に先駆けて取り組んできた。
―今回ご紹介の「石見銀山 特別純米」の特徴は?
浅野 最大の特徴は原料に「改良八反流」(かいりょうはったんながれ)という酒米を100%使用していることです。この酒米は島根県で過去に作られたものを、地元大田市で復活させたものです。
1996年に行政と酒米生産者とJA、さらに酒販店と私たちメーカーが地米酒を造ろうと協議を重ね、使用する酒米には、栽培が難しいことから姿を消していた幻の酒米「改良八反流」を使用したいと、最初はわずか150gしかなかった種もみを徐々に増やして生産してきました。地域一体となって“幻”を復活させた貴重な酒米といえます。
精米歩合60%。ひと口目にさわやかな香りが口に広がり、
米と水の良さを感じさせる透明感のある味わい。
―どんな方に、またどんな風に飲んでいただきたいですか?
浅野(杜氏) 私は30代ですが、できればたくさんの同世代の方に知ってもらって飲んでほしいです。特に私の周りにも女性で日本酒を飲む人は結構少ないので、私が造っていることで少しでも興味を持って手に取ってくれる人が増えたらいいなと思います。
私自身がお酒を飲むときほとんど食べながらで、お酒だけ飲むことは基本的にありません。それもあって料理とお酒を一緒に楽しむのを意識して造っています。特に当商品は食材を邪魔せずにオールラウンドに合わせやすいものに仕上がっています。
自然な甘みとコクをしっかり持ちながら後を引かずにスッキリ。
食材の種類を問わず広く合わせられ、冷からぬる燗で楽しみたいお酒。
―今後の目標をお聞かせください。
浅野 地元の大田市は世界遺産の石見銀山がありますので、これを観光拠点として私たち酒蔵ができることで地域に貢献していきたいと思います。
品質を高めることはもちろん、「日々挑戦」の精神で新しい商品開発にも積極的に取り組んでいく姿勢は崩しません。
浅野(杜氏) お酒に限らずたとえば野菜にしても生産者の顔が見えることがとても大事だと思います。私たちを知ってもらうことで「新しいものが出たら飲んでみよう」と思っていただいたり、今まで試したことない方も「こんな若い者が造っているのか、ちょっと飲んでみよう」といったご利用ケースもあるかもしれません。
そのためにSNSを使ったり、ちょっとしたことですがインターネットで購入してくださった方にできる限りお手紙を入れさせてもらったりしています。
まだまだ知名度が低いので、これからも地道な努力で認知度を上げていきたいと思います。
―本日は素敵なお話をありがとうございました。
「石見銀山 特別純米」(内容量:1,800ml、720ml、300ml)
価格:1800ml ¥3,080(税込)
720ml ¥1,650(税込)
300ml ¥638(税込)
店名:一宮酒造オンラインショップ
電話:0854-82-0057
定休日:日・祝日
不定休:土曜日
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.ichinomiya-s.jp/products/detail/1
オンラインショップ:https://www.ichinomiya-s.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
浅野浩司(一宮酒造有限会社 代表取締役)
1962年島根県生まれ。1982年、株式会社中央計算センターに入社、5年間の会計業務を経て1987年、一宮酒造有限会社に入社。1995年、代表取締役に就任。伝統酒はもちろんのこと、独自の瓶内2次発酵技術を用いた発泡清酒や地域特産物を活用したリキュールの開発に注力している。
<文・撮影/田中省二 MC/山口優花 画像協力/一宮酒造>