アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2024年に行くべき52カ所」の一つに選ばれた山口県山口市。今回、編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは山口銘菓「月でひろった卵」です。メルヘンな名前を持つ商品の開発秘話やおいしさについて、あさひ製菓株式会社 代表取締役社長の坪野恒幸氏にお話をうかがいました。

あさひ製菓株式会社 代表取締役社長の坪野恒幸氏

―社長の経歴についてお聞かせください。

坪野　大学と製菓学校を卒業したのち、システムエンジニアとしてチョコレートメーカーへ就職しました。あさひ製菓株式会社へ入社してからもお菓子作りは父と息子に任せつつ、IT部門を担当してきました。分業によって、2000年頃からネット通販を始めるなど業界内で先進的な取り組みができたのだと思います。

―社長就任後にチャレンジしたことは？

坪野　私が社長に就任した2001年頃は「果子乃季（かしのき）」というブランド1本で勝負していたため、時代に合った商品展開が必要だと考えました。ワンランク上の洋菓子店「CHOU CHOU（シュシュ）」やベーカリー「Shuklevain（シュクルヴァン）」、大ヒット商品の「魅惑のザッハトルテ」はその頃に誕生したブランドです。「お店で働きたい」という人も増え、「みんなが憧れるブランドを作る」という夢を実現できました。

弊社は「誠意創意一歩先進、一歩先を進め」という社訓に沿って新しいことにチャレンジし続ける会社です。「おいしくなかったら返金します」という、食品ではめずらしい「無条件返金制度」も大きな話題となりました。

―企業が大切にしている信念は？

坪野　「地元で愛されるお店になりたい」という思いから県外へ進出していません。「果子乃季」のキャッチフレーズは「山口のしあわせの真ん中に」です。記念日やいいことがあった日にお菓子を食べる、そんな日常の真ん中に果子乃季がありたいと思うのです。山口県には「ふく」だけじゃなくて「果子乃季」や「シュシュ」がある、と地元の方に自慢してもらえるようなお菓子屋になりたいです。

―「果子乃季」を代表する「月でひろった卵」の魅力を教えてください。

坪野　山口県産の牛乳と地元の名水を使い、二度蒸しでふっくら仕上げたお菓子です。2023年末にリニューアルし、より高級感のあるデザインとなりました。個包装のうさぎの絵柄は数種類あり、1,500個に1個の割合でお菓子に焼印があるサプライズも加えました。生クリームを入れて旨みを出すなど、味わいは昔から少しずつ変化させています。今回はカスタードクリームに入った国産栗を食べにくくない程度に増量しました。

新パッケージには高級紙を使用。贈り物としても喜ばれる。

―お菓子に使われる「琴名水（きんめいすい）」とは？

坪野　「琴名水（きんめいすい）」と名付けた名水は、山の麓にある自社工場の敷地内から湧き出ています。蒸し焼きの工程で大量の水を使うにあたり、湧水スポットを探して工場を移転してから、パートさんが水を持ち帰るようになりました。厚生労働省が定める「おいしい水」の条件にほぼ該当することがわかり、地元のお客様向けに水道を作ってからは、毎日300人ほどの方が水を汲みにいらっしゃいます。実際にとても飲みやすい軟水で、ミネラル分が少ないので雑味のないおいしいお菓子が作れます。

―ブランド・商品名の由来についてお聞かせください。

坪野　約50年前に発売して以来、地元では「月卵（つきたま）」の愛称で親しまれています。これほどふわふわなお菓子は当時としては画期的で、刻んだ栗が入っていることも大きな特徴でした。「果子乃季」の「果」は、お菓子の「菓」に間違われることがありますが、由来は「お菓子の始まりは木の実や果物」という日本書紀の記述です。そこから「木の実やフルーツが入ったお菓子」というブランドコンセプトが決まりました。

商品名は、お菓子の見た目から「月」や「卵」をイメージしました。「月の卵」という案もあり、お茶菓子を納品していた全日空様（現ANA）のCAさんにアンケートをとったところ、全員一致で夢のある「月でひろった卵」が選ばれました。

栗のコロコロした食感がアクセント。デザインの「月」モチーフも印象的。

―その他のアピールポイントは？

坪野　いいことがあった日はもちろん、つらいことがあった日に食べると笑顔が戻るようなお菓子を目指しています。山口県を出た方が故郷を思い出すきっかけになるのも嬉しいです。フレーバーの豊富さも面白いところで、イチゴ味などの定番から、チョコミント・きなこ・スイカなど変わり種もあります。山口県の観光キャンペーンから生まれた姉妹商品「月でひろぅた卵」は、ユニークな山口土産をお探しの方におすすめです。

―今後の展開についてお聞かせください。

坪野　バウムクーヘンやバースデーケーキなど、原材料に卵を含まないお菓子を開発しています。アレルギーに対応した商品はどうしても味が今一つという問題があります。現在はネット通販限定ですが、誰もがおいしく感じるお菓子を全国にお届けしたいと思います。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。

「月でひろった卵 8個入り」（1個当たり：約45g）
価格：¥2,000（税込）
店名：果子乃季【公式】オンラインショップ
電話：0120-075-711（9:00～18:00）
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL：https://88191a.myshopify.com/products/tukitama?variant=47559461667106
オンラインショップ：https://88191a.myshopify.com/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

＜Guest’s profile＞
坪野恒幸（あさひ製菓株式会社 代表取締役社長）

1962年、山口県柳井市生まれ。中央大学を卒業後、1985年に株式会社メリーチョコレートカムパニーへ入社。1988年、あさひ製菓株式会社へ入社。2001年、代表取締役社長に就任。山口県菓子工業組合理事長も務める。

＜文・撮影／マスダアヤノ　MC／髙橋美羽　画像協力／あさひ製菓＞