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奈良の歴史と自然が育む「五感で感じる酒」

2024/07/26

日本清酒発祥の地といわれる奈良県で創業して300年余。今回、編集長のアッキーが注目したのは、酒蔵「油長酒造株式会社」が醸す非加熱の生酒「風の森」。「酒は歴史と大地の恵み、人の力が合わさって生み出されるもの」と言う13代目蔵主 山本長兵衛氏に、「風の森」の開発経緯や特徴について取材陣がお聞きしました。

油長酒造株式会社 13代目蔵主 山本長兵衛氏
油長酒造株式会社 13代目蔵主 山本長兵衛氏

―まずは会社の沿革をお教えください。

山本 慶長の頃に菜種油を絞って販売する製油業を営んでおり、油屋長兵衛と名乗っておりました。その後1719年(享保4年)に酒造りを始めたこともあり、屋号を前身からとった「油長(ゆちょう)」として創業しました。私達の御所市は、製油業、酒造業、製薬業のほか藍染などが盛んだった地域です。時代の移り変わりの中で、酒造業と製薬業が今も続けられています。

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300年余の歴史を誇る油長酒造株式会社。

―山本さまが社長に就任されたのはいつでしょう。

山本 2008年に入社し、2015年に社長に就任しました。その後、創業300年を機に、2019年に代々継がれる山本長兵衛を襲名いたしました。

―幼い頃から実家を継ぐお気持ちでしたか?

山本 長男でしたから。父の背中を見て育ち、「いつかは酒造りをするんだ」と、心のどこかでは思っていたんでしょうね。自宅も酒蔵の横で、幼い頃は蔵の中で鬼ごっこをしたりして遊んでいました。大学では、ぼんやりと家業の役に立つだろうと、食品工学や微生物学を学びました。おからを発酵させてアルコール発酵させる研究です。卒業後は「阪急百貨店」に入社し、最後はバレンタインチョコレートやクリスマスケーキといった洋菓子を担当させていただきました。結果的にですが、大学から百貨店勤務まで、食品に携わったということですね。

―百貨店時代の4年間でどのようなことを学ばれたのでしょう。

山本 いろんな方と接する仕事でしたので、コミュニケーション力を高めることができたのではないでしょうか。百貨店の仕事は非常に忙しくて、個々のマンパワーが必要。それも勉強になり、現在の仕事にも生かせています。

―現在の「油長酒造株式会社」様の事業内容は?

山本 事業の90%は日本酒の醸造です。ですが、2018年頃からクラフトジンも造るようになりました。クラフトジンはヨーロッパでは、薬的な役割で生まれてきた薬草酒です。奈良県御所市も奈良時代から製薬、つまり薬草やハーブ作りが盛んな場所でした。そういう地域性もあってクラフトジン造りを始めたんです。まだ全体の5%ぐらいですが。

―メインのご商品は日本酒ですね。

山本 「風の森」です。私の父が1998年に発案し商品化しました。搾ったままで加熱処理をしない生酒。その当時は加熱した清酒が一般的でしたので、生き生きとした生命感あふれる日本酒はなかった。綺麗なレモンイエローで、口に含むといろんな味や香り、テクスチャーを感じることができます。老若男女問わず好まれるお酒だと思います。酒蔵のスタッフは搾りたてを飲めますが一般には流通しない。それを販売し始めたことで、少しずつ口コミで広がり、今では売り上げの90%を占めるようになりました。

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生き生きとした生命感があふれる生酒を醸す。

―「風の森」以前は、加熱が常識だったのでしょうか?

山本 今もそうですが、酒販店などで販売されている日本酒の9割は加熱殺菌されたお酒です。生酒は要冷蔵酒ですから、販売店さまも品質管理が必要ですし、お客様にもそれをお伝えしなければいけません。問屋さんを介した大きな拡販路線というよりは、町の酒屋さんを介した丁寧な販売が求められるお酒なんです。

―御社の酒造りの一番の特徴ですね。

山本 はい。加えて、地元の水と米を使っていることも酒造りの大きな特徴です。酒造工程のなかで、お米を蒸すときや、その後も仕込み水を加えます。その水がお酒のベースになるので、どのような水を使うかで、お酒の味や表情が大きく変わるのです。私どもの仕込み水は、マグネシウムやカルシウムなどミネラル分をたくさん含んだ葛城山系の深層地下水。硬度250前後の超硬水です。それを100mの地下から汲み上げ、仕込み水として酒造りに使っています。もうひとつは、奈良県内の契約農家さん30軒だけが作る「秋津穂」という酒米です。この「秋津穂」は、「風の森」以外では使われていません。

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「風の森」の原料となる酒米・秋津穂の稲。

―風の森シリーズをご紹介ください。

山本 大きく分けると2種類です。「風の森 秋津穂」から始まる一般的な「風の森」のシリーズと「風の森 ALPHA」シリーズ。「風の森」は、26年前に生まれましたが、その後も、毎年毎年ブラッシュアップし進化し続けています。
「風の森」のシリーズは酒米の種類や精米度を変えて風味の違いを実現したものです。精米歩合65%の「秋津穂657」、50%磨いた「秋津穂507」をはじめ、「露葉風」、「山田錦」、「雄町」、「愛山」など違う酒米を精米歩合80%で醸したボリューム感ある生酒などです。お米を磨くことで出てくる魅力もありますが、磨かない事も個性のひとつ。今だからこそ、磨かずエネルギッシュなお酒を造ることも面白いと思っています。お米の種類や精米度による味の違いを楽しんでいただけます。

一方、ALPHAシリーズはチャレンジ的な要素を備えたお酒です。「菩提酛」という昔ながらの伝統的な技法も使いながら新しい技法を加えたお酒。玄米で造ったもの、アルコール度数が低いもの、温めて飲むためのお酒、搾り方が違うものといった新たな技法を加えた風味のバリエーションがあるラインナップ。シリーズ1から8まであります。

―「風の森」づくりのご苦労は?

山本 毎年、作り手の思いや考えを重ねながら工夫を続けています。そんななか、新しい挑戦やチャレンジを行うとうまくいかなかいこともあります。それに懲りず、たゆまぬ努力と挑戦を続けなければいけません。

―「風の森」の名前の由来は?

山本 御所市に風の森峠という場所があり、その名をつけました。風の森峠近くの生産農家さんが作ってくださった酒米「秋津穂」で醸造を始めたからです。風の森峠にはいつも風が吹いていて、昔の人はそこに「風の神様」がいらっしゃると崇めていたそうです。

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御所市にある風の森峠。ここには1年中風が吹いているという。

―ラベルデザインのイメージは?

山本 26年前の発売時から書体などは大きくは変えていません。葛城山の風景の写真を背景に書家さんに書いていただいたようです。書体の大きさとか、色使いなどはブラッシュアップを重ね5年に1度はマイナーチェンジしています。同じ書体、色、同じ背景を使っているので、古くからのファンの方にも馴染みのあるものです。

―おいしい飲み方やお料理との相性をお教えください。

山本 冷蔵庫から出して召し上がっていただき、時間の経過とともに変化する味わいを楽しんでいただくのが良いかと。酸みや渋みがしっかりして、甘み旨みもあります。お刺身のようなすっきりした料理だけではなく、鴨肉などにも合う。フレッシュなモッツァレラチーズとの相性は抜群です。

―今でも心に残っているお客様の反響は?

山本 「風の森を飲んで日本酒にハマりました」と言っていただけると嬉しいですね。一人でも多くの方に日本酒を飲んでいただきたいですから。

―酒蔵として代々受け継がれ大切にされていることは?

山本 「私達の酒は、奈良の歴史と大地の力、人で造られている」と考えています。奈良県は日本における酒造りの発祥の地といわれています。お寺での酒造りがきっかけで現在のような清酒に発展していった。皆さんもよくご存知の興福寺や、日本清酒発祥の地として知られる菩提山正暦寺など大寺院では、戦で資金調達が難しくなった室町時代に、自ら資金を作るために酒造りを始めたと考えられます。私どもでも、「水端」というブランドで、室町時代の古文書を参考に、当時の製法・菩提酛造りを再現する酒造りを行っています。「故きを温ねて新しきを知る」。古の酒造りを学び、それを新しい酒造りに生かしていければと思います。

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風の森の里山コミュニティのメンバーで田植え。

―今後の目標やビジョンをお教えください。

山本 お酒造りを次の世代に繋ぐことは大切です。最近は、酒造りを志す若者も増えていますから、彼らが楽しく働ける会社にしたと思います。古い酒造りからも知識を得て、より良い酒造りをさらに深めていきたい。
また、農家の方々がいらっしゃらなければ良いお酒は醸せません。けれど、農家はいずれも高齢化が進み、跡継ぎ問題もあります。それらの問題解決を図るために「風の森の里山コミュニティ」を作っていきたいと思います。消費者さん、酒販店さんと私達メーカーが、農家に関わっていくコミュニティです。お酒を好きな人が農家を手伝い、農家の方も農閑期には酒造りを手伝う。そんな環境をつくって、ギブアンドテイクしながら酒造りと里山を守っていければと思います。

―貴重なお話をありがとうございました。

「風の森 秋津穂 657」720ml

「風の森 秋津穂 657」720ml
価格:¥1,397(税込)
電話:0745-62-2047
商品URL:https://www.yucho-sake.jp/
購入は全国の風の森正規販売店でお願いいたします。

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
山本長兵衛(油長酒造株式会社 代表取締役)

1981年、奈良県御所市生まれ。関西大学工学部生物工学科卒業、株式会社阪急百貨店に就職、2008年に家業である油長酒造株式会社に入社。2015年から同社の13代目として、代表取締役を務める。2019年創業300周年を機に長兵衛を襲名。

<文・撮影/中井シノブ MC/伊藤マヤ 画像協力/油長酒造>

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