今回編集長アッキーが注目したのは、三陸の海の幸をふんだんに使った海鮮漬とグラタンです。東日本大震災の被害を受けながら、被災1ヶ月後には事業を再開し、人気商品で地域を元気づけた株式会社川石水産 代表取締役社長の川石睦氏。「商売の本質は、震災が教えてくれた」と語る社長に、こだわりの商品について、そして地元山田町への思いについて取材陣が聞きました。
三陸の海の恵みをたっぷり味わう「ホタテ海童漬」と「ほたてグラタン」
2024/08/21
株式会社川石水産 代表取締役社長の川石睦氏
―岩手県山田町は水産業が盛んだそうですが、どんな場所ですか。
川石 岩手県の山田湾は波が穏やかで、ホタテや牡蠣の産地です。ホタテというと北海道を思い浮かべる方も多いと思いますが、岩手でも良質なものが取れるんですよ。当社は今年創立50周年。マグロ漁船を降りた父が、ホタテの加工を始めたのが当社のはじまりです。私は横浜の市場で水産業に携わっていましたが、父に呼ばれて戻り、家業を継ぐことになりました。
穏やかな岩手県、山田湾。
―ホタテがメインで苦労されたことがありましたか?
川石 場所は違えど水産業の世界で多少の経験は積んだつもりでしたが、ホタテは大変だと思いましたね。気候の変動や台風などで大きさにばらつきが出てしまい、あまりに製品のサイズ差があると、出荷できないものも多くなります。出荷できないホタテも活用していかなければ、会社の存続も難しいと思いました。そこでホタテを使った商品開発を始めたんです。
山田町は知られざるホタテの名産地。
―もともと不揃いのホタテを活用するために、ほたてグラタンが誕生したのですね。
川石 もとをたどると、苦し紛れと成り行きです(笑)。実は地元でピザ店を開業していたんですよ。そこでのメニューをもとに、ホタテグラタンを作ったら良いのではないかと、思いつきました。ちょうどオーブンなどの加熱設備もありましたし。
せっかくならホタテを全面に打ち出そうと、容器に貝殻を使い、中身もホタテの貝柱をたっぷり使いました。どこを食べても貝柱なんです。ボイルしたホタテをほぐして、自作のホワイトソースと混ぜて、チーズをかけて焼き上げています。急速冷凍と真空パックによって、家でもレンジで温めるだけで作りたてのおいしさを味わえます。
グラタン全体に貝柱がたっぷり。
―北海のホタテ海童漬は、どんな商品ですか。
川石 他社が作っているいわゆる海鮮漬けの商品を見て、「これできるんじゃないか?」と思ったんですよ。その会社はアワビを使っていて豪華な感じでしたが、当社ならホタテで作って、もっと気軽にご飯にかけてガツガツ食べてもらおうと思いました。つぶ貝やいくら、めかぶもたっぷり入っていますよ。
こちらも冷凍なので、長くストックできますし、解凍後は3〜5日食べられます。開けたら全体を調味液と混ぜてほしいですね。これで保存が効きます。
ご飯にたっぷりかけて食べてほしい。
―東日本大震災では大きな打撃を受けたそうですね。
川石 事務所、作業場は全損でした。大きな衝撃でしたが、社員や家族も誰も命を失わなかったことだけでもありがたいと思いましたね。その1ヶ月後、早くも会社の再開を決め、知り合いの青森や北海道の会社を間借りしながら、出荷も再開しました。
そこで「グラタンやんないの?」という声を頂いたんです。商売は金稼ぎである以上、“みんなを元気づける”なんて綺麗事だと思ってきましたし、今もそんな気持ちもあるんですが、その声には真剣に応えたいと思いました。炊き出しの現場で、小さな大根一切れしか入っていない汁物でも、みんなが「うまいね」って言っていたのを見て、「食べ物には人を元気にする力がある」と確信したんです。
それで国の事業で仮設工場が建設されると、そこで半分ボランティアのような形でグラタンや海童漬け作りを再開したんですが、人気がすごくて…。本格的に事業を起動させました。
被災地を元気づけるおいしさと人気。
―グラタンやホタテ海童漬は震災から立ち上がるきっかけになったんですね。
川石 そうですね。もともと震災前は、グラタンは道の駅などで売っていて、地元の百貨店にも卸すようになりました。その後、当時まだ黎明期だったネットでの販売も開始しました。とはいえECへのアクセスや販売データを分析すると、当初はほとんど山田町や岩手県内のお客様ばかりでしたね。地元では認知度が高まり、お使い物やクリスマスのごちそうにも選ばれるようになっていました。
その後、全国放送の番組から被災地応援視聴者プレゼントとしてご紹介いただき、一気に8,000人から問い合わせがあったりもしました。それまでグラタンを食べたことがなかったおばあさんから、電話で感動の声を伝えられたこともありました。少しずつ全国的な知名度を高めていきました。
震災後は大手百貨店が「被災地応援」の旗印を掲げて、販売してくれたんですよ。その後、大手通販と自社ECに販売の窓口を移し、現在は食にこだわりのあるたくさんの方にお買い求めいただいています。
おいしさにこだわる顧客からリピートされている。
―今後の展望をお聞かせください。
川石 ホタテといえば北海道と思われるかもしれませんが、岩手にもおいしいホタテがあると知ってもらいたいですね。ホワイトソースには、地元の田野畑村の牛乳を使っています。ちょっと高いんですが、格段においしいので、これしか使いません。岩手の原料にこだわって、最高のクオリティのものを届けたいですね。
先日展示会に出展したら、ハンガリーやポーランドといったヨーロッパの方から関心をいただきました。当社の蒸しウニが甘いといって、喜んでくださって。薬品を使っていない本来の味を気に入ってくれたようです。日本食は世界的な人気ですから、海外への展開もやっていきたいです。
商売の本質は、皮肉なことに震災が教えてくれたように感じます。本当においしければ売れる、嘘をつかずに正直にやれば売れる。値段に見合ったおいしさと品質を提供できるように、これからも力を尽くしたいです。
―貴重なお話をありがとうございました。
「ほたてグラタン3個・ホタテ海童漬(250g)セット」
価格:¥4,600(税込)
店名:株式会社 川石水産 陸中山田オンラインショップ
電話:0193-77-5701(8:30~15:30 土曜・祝日前日はお休み)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kawaishi-suisan.com/set.html
オンラインショップ:https://www.kawaishi-suisan.com/index.html
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
川石睦(株式会社川石水産 代表取締役社長)
1964年岩手県生まれ。1984年株式会社横浜平庄入社。1989年株式会社横須賀魚市入社。1995年川石水産入社。2006年株式会社川石水産設立。代表取締役社長に就任。
<文・撮影/鈴木満優子 MC/三好彩子 画像協力/川石水産>