大阪・心斎橋の「庵月堂」の「栗蒸し羊羹」「花まめ羊羹」は栗、豆がこれでもかとばかりたっぷり入っていてアッキーこと坂口明子編集長はほくほく笑顔に。素材を厳選し、こだわりの製造法を守って作られる蒸し羊羹は自分用にしても贈り物にしても間違いのない逸品です。そのおいしさの秘密を有限会社庵月堂代表取締役社長の相田耕二さんに取材スタッフがうかがいました。
栗、豆がぎっしり詰まった蒸し羊羹でほっこりお茶時間。贈り物にしても間違いなし!
2024/09/30
有限会社庵月堂 代表取締役社長の相田耕二氏
―御社の歴史をお聞かせいただけますか。
相田 1868年(慶応4年)、神戸に初代内閣総理大臣の伊藤博文ゆかりの常盤花壇という料亭がありました。そこには「常盤堂」という和菓子部があり、その後独立して店を開きました。その店は今でも神戸市東灘区にあります。私の祖父はその「常盤堂」で修業し、分家として兵庫県芦屋市で店を開き、戦後すぐの1949年に現在の大阪市心斎橋に移転しました。
開店当時の店舗の様子。
大阪心斎橋にある現在の店舗。
―庵月というのは?
相田 当店の屋号です。大阪に出てきたときに近くに常盤堂という和菓子屋さんがあって、違う店名にしないといけないということになりました。「常盤堂」に「庵月」という最中がありそれを店名にしました。庵月というのは庵の窓から見る月という意味です。
―原材料にこだわっていることで有名ですね。
相田 ただ単に頑固なだけでしょう(笑)。私の父が素材、製造法にこだわりを持っていましたから、それを私が受け継いでいます。
若いころ、私が父からしつこく言われたのは、「お前は技がないねんから、原材料で勝負しろ。品質は落とすなよ」ということでした。その通りだと思い父の言ったことを守り続けています。小豆、砂糖、葛粉、わらび粉……ずっと同じ店から仕入れています。
―お父様のこだわりを引き継いだのですね。
相田 父は旅行が好きであちこち行くのですが、あるとき長野の八ヶ岳に旅行に行って見たこともない豆を持ち帰って「これを製品にしろ」って言うんですよ。「そんな急にできるかい」って言ったんですが、見たらええ品物でした。それが今の「花まめ羊羹」の材料のハナインゲンマメです。
山形の天童に旅行に行ったときも、農家に入ってそば粉を挽いてもらって持って帰ってきて「これ、使え」って。私、またかと怒ってケンカになったんですけどね(笑)。でも使ってみたらそれもいい品物でした。
海外旅行先でクレープを食べ、帰国してクレープを作れないかとも言われました。まだ誰もクレープというものを知らなかった時代です。私はふくさ包みのような和菓子はどうだろうかなどいろいろ考えましたが結局、商品にはなりませんでした。でもそのとき洋菓子の手法を取り入れる工夫は今、百貨店での催事で大好評の「和モンブラン」に生きています。そんな話はまだたくさんあります。「いい材料は手元から手放すな」と教わりました。
「ほかと同じものを作ったらあかん」とも言っていました。ですからうちの缶入り水ようかんは、詳しいことは企業秘密で言えませんが、ほかとは違うひと手間がかかっています。一味違うおいしさがあるのでぜひ食べてみてください。
―社長は進んでお店を継がれたのですか。
相田 私は高校時代から他店でアルバイトをしてそこで餡を炊く基本を覚えて、大学生になったらすぐにうちの店で餡を炊いていました。
学校を出て、親父の手助けをしようと入社しましたが、実は最初はいやいややっていました。ただ、だんだんこの仕事が好きになって、知らないうちに親と同じようになっていますね。
父は米造という名前で、店を造りました。私は耕二という名前ですから、耕して2倍にするという。嘘かほんまか知りませんけど(笑)。ちなみに私の息子の名前は勤で、これは正直に勤めろよという意味です。
商品はすべて店舗の上階にある工場で製造される。
―親から子への見事なリレーですね。製造もお店でなさっているのですね。
相田 店が1階で同じビルの5階が工場です。父は「和菓子は生き物やから」と言っていました。和菓子は生鮮品ではないので傷むことはありませんが、やはり作りたてがおいしいのは間違いありません。
私は入社したばかりのころは、餡の炊き方をマニュアル化しようと思って、温度は何度、何時間炊くなどを数値化しようと思ったのですが、何度挑戦してもできなかったですね。炊き加減は豆の具合とかその日の天候で違ってくるのです。
たとえば店を木造から鉄筋コンクリート製に立て替えたときのこと。今まで通りに炊いたら仕上がりが違うんです。建物の空気の流れとか湿度が前とは違うからだと思います。店を鉄筋に代えたら餡の炊き方も変えないといけませんでした。餡はルール通りに炊くのではなく、豆と相談しながら炊かないとおいしい餡はできません。
餡だけではなく、外に作っていただいているのは最中の皮ぐらいで、それ以外は原材料からうちで製造しています。
―贈り物としても喜ばれていますね。
相田 原材料にこだわって手作りしていると、どうしても価格は上がってしまいます。私、懇意にしているお客様が贈答にお使いになる際、冗談半分で「安くない商品ですからお金かかりますね」と申し上げたことがあったんです。そうしたらお客様が「ええねん。あちこち探してあれこれ選ぶよりも、ここのなら贈った方に必ず喜ばれる。間違いないから」とおっしゃいました。それはうれしかったですね。
頑固親父からの言い伝えを守って頑なにやってきただけで、大変ではありますが、長いことついていてくださるお客様もたくさんいらっしゃるので、今後もこのやり方を続けていきたいと思っています。
上は「栗蒸し羊羹」に使われる栗の甘露煮。
下は「花まめ羊羹」に使われるハナインゲンの甘露煮。
―素敵なお話ですね。さて、今回は「栗蒸し羊羹」と「花まめ羊羹」を紹介いただきました。
相田 どちらも当店の看板商品です。「栗蒸し羊羹」は例年9月から翌年2月までの販売。それと交代するように「花まめ羊羹」が2月~9月の季節限定で登場します。この2つは姉妹品と言っていいかと思います。販売時期は年によって違うのではっきりしたことは言えませんが、9月の約3週間ほどは2つの商品が同時に店頭に並ぶことがあります。
ほっこりおいしい栗がふんだんに詰まった「栗蒸し羊羹」。
―栗蒸し羊羹には栗がぎっしり入っていますね。
相田 その贅沢さがこの商品の特徴で、テレビで紹介されたときに、キャスターの方が「まるで親の仇のように入ってる」とおっしゃったのがおもしろかったです。
国内産の生栗を各地から厳選して仕入れ、剥いて丸ごと蜜漬けして甘露煮して、餡と合わせ、約4日かけて製造しています。栗は最初は機械で剥きますがどうしても渋皮が残るので、うちの家内が1つ1つ渋皮を除いて仕上げています。甘露煮も餡もザラメ糖を使っているので後をひかないあっさりした切れのいい甘さが味わえます。
あと、羊羹の生地になかなか手に入らない奈良・吉野産の葛粉を入れています。私は若いころ、価格を抑えようと思って違う葛粉を入れて試作したのですが、味が全然違いました。やはりいい原材料で作ることは大切です。
「花まめ羊羹」。一口食べると
花インゲンの柔らかな歯ごたえと品のよい羊羹の甘さが口中に広がる。
―本物の凄さがわかります。2~9月に出る「花まめ羊羹」の特徴は?
相田 ハナインゲンは味がとてもよく食物繊維などが豊富で豆の女王と呼ばれています。その中でも粒が大きく皮が柔らかな長野県・八ケ岳産のハナインゲンを甘露煮にして、蒸し羊羹に仕立てました。こちらも花まめがぎっしり入っています。
どこを切っても花まめがぎっしり。
―御社のこれからの目標などあればお聞かせください。
相田 今、餡が注目されるなど和菓子の人気が盛り上がっていると感じています。和菓子は体にやさしく、お子さんにも安心して食べていただけるお菓子だと思います。今後も地元のお客様を大切にしながら、本物の和菓子のよさを海外の方にも知っていただけたらと思っています。
―お話をうかがって本物のすごさを感じました。本日はありがとうございました。
「栗蒸し羊羹」(販売期間:9月ごろ~翌年2月ごろ)
価格:半棹 ¥2,808(税込)1棹 ¥5,292(税込)
店名:御菓子司庵月
電話:06-6211-0221(月~土10:00~20:00、祝10:00~18:00、日休み)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://angetsu.co.jp/item.php?id=126
オンラインョップ:https://angetsu.co.jp/
「花まめ羊羹」(販売期間:2月ごろ~9月ごろ)
価格:半棹 ¥2,160(税込)1棹 ¥3,888(税込)
店名:御菓子司庵月
電話:06-6211-0221(月~土10:00~20:00、祝10:00~18:00、日休み)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://angetsu.co.jp/item.php?id=138
オンラインョップ:https://angetsu.co.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
相田耕二(有限会社庵月 代表取締役社長)
1946年生まれ。追手門大学在学中から家業を手伝い、卒業後、有限会社庵月堂入社。2001年同社代表取締役社長に就任。
<文・撮影/今津朋子 MC/木村彩織 画像協力/庵月堂>