ご飯に合う自然の味が気になっているアッキーこと坂口編集長が、今回注目したのは、静岡県の駿河湾と山にはさまれた町、蒲原(かんばら)で作られている「いわし削り」。削り節とは、かつお節や干した魚を薄く削ったもので、いわしの煮干しを削ったこの一品はご飯にたっぷりかけたいおいしさと評判です。無添加で手間暇かけたものづくりについて、製造元の株式会社カネジョウ4代目、専務取締役の望月英幸氏に取材陣が伺いました。
無添加のおいしさをがばっとご飯に。 上品なコクがたまらない「いわし削り」
2024/10/10
株式会社カネジョウ 専務取締役の望月英幸氏
-創業から85年を超えておられるのですね。
望月 私は4代目で、現在は桜えびと削り節の専門店ですが、創業当初は船を持っていて、地曳き網で魚を取り、なまり節から本枯節、かまぼこまで作っていて、昭和40年代頃までは海に関わるあらゆることをしていたそうです。私の子ども時代は桜えび、削り節、しらす。手火山(てびやま)式のかつお節の燻製機もありました。駿河湾は世界一深い湾といわれるほど、いきなり深い場所があって、網を入れるだけでマグロやカツオが獲れる立地。鮮度のよいまま加工でき、それで品質にはこだわっていたようです。
-家業に入られる以前、大学ではどのようなことを?
望月 公共政策、組織政策を学んで、卒業後は研究室で働いていました。家業を継ぐとはまったく思っていなかったのですが、父が削り節をやめようかと言い出して実家から相談があり、少し考えてみようかと思ったんです。やめる理由としては、原料のカツオやイワシが高くなっているのに品質は落ちているということ。父は「良いものをより安く」という考えでしたが、私は良い原料を使いたければ価格を上げればいいし、それで売れなかったらやめればいいと思っていました。当時はECサイトもなくて、売れる売れないの問題以前に、人に知ってもらうための工夫もしていなかった。そんなこともあって2008年に入社し、最初にECサイトを整えるようにしました。また削り節がマーケットでどのように捉えられているのか、展示会に出て尋ねてまわったりもしました。
いわしの煮干しを細かく削った「削り節」。
混同されやすい「鰹節」はカツオを燻製にして乾燥させたもので、鰹節を削ると「かつお削り節」に。
-展示会での反応はいかがでしたか?
望月 前職で量的調査を専門にしていましたから、アンケート調査を行ないました。質問は、かつおの削り節といわしの削り節を食べ比べてどちらが好きですかということと、削り節をご飯にかけて食べたことがありますかの2問。弊社では削り節をご飯にかけて食べやすいように薄く、また生臭くないように作ってきた歴史があったからです。結果を見ると、女性の99%はカツオよりもいわしが好きということがわかり、理由としては「いわしのほうが生臭さがない」ということでした。そして、70~80%の人は削り節をご飯にかけて食べたことがないとわかりました。同業者でも「いわし削り節」を知らない人は多いことも驚きでした。
-そこから望月専務が新しいことを?
望月 入社してからすぐは実は新しいやり方というのはしてなくて、自分が実践したのはおもに製造ラインの見直しと品質を維持できるようにするための価格改定です。当時会社のメインは海外の桜エビや小エビを仕入れて販売することで、昔からのこだわりの桜えびや削り節は続けていましたが、今ほど無添加や手作りに注目されていなかった頃ですから、いわし削り節は手間がかかりすぎてメイン商材にするのは難しかった。でも、そういうものに少しずつ目が向けられるようになってきたこともあり、久しぶりに自分が食べてみてすごく美味しいという感動もあったので、私は父が見捨てようとしていた削り節のほうだけをやらせてもらうと宣言したのです。
手間暇かけて作られる「いわし削り」。1970年頃地元蒲原は日本一の削り節の産地となり、やがて生産者は減少したが、
自然のおいしさが再び注目され、現在は静岡の名産品として知名度もアップ。
–手作りの工程から携わられた?
望月 職人的なこともやっています。原材料の仕込みから鉋(かんな)の調整など製造から商品開発、営業、レシピ作り、ホームページを作るなど全部です。もともとホームページや会社案内もなく、それを作るために弊社の商品の素材や製造工程も学ぶことになったので、削り節についても原料の生産者や販売の現場に立っての試食販売を通じていろいろな人に話を聞いて裏付けを得るなど、もとの研究者気質を生かして商品知識を深めていきました。
–そもそもいわしの削り節というのはいつ頃からあるのですか?
望月 大正の初期に削り節の機械が誕生し、その時に最初に削られたのがいわしの煮干しだったそうです。もとは豊後水道や五島列島あたりでいわしがたくさんあがった時に、岡山で削って売ったらどうかということで生まれたのが削り節だったとか……。
–カネジョウさんでは現在どちらのいわしを使われているのですか?
望月 九州の2、3社のみです。こういう削り節を作りたいとか、こういう原料が欲しいということを理解してくださるメーカーは実はとても少ないんです。手間暇がかかって原価が高くなったとしても、間違いない品質の原材料を作り続けてくれる原料メーカーとの関係は大切にし続けたいと思っています。
–仕入れ先の原料のよい点は?
望月 無添加ということ、そして食べて美味しくて品質が良いという点です。他ではビタミンE、酸化防止剤を使っているところも多いのです。酸化防止剤を使うと煮干しの炊きが甘くても姿形だけはよく見えてしまい、品質的にごまかしがきくんですね。ですから、そういう原料を無添加という条件だけではなく味と品質にこだわる弊社が使うとリスクになるわけです。
–仕入れた煮干しを削るのですか?
望月 削るまでに手間をかけています。まず煮干しの頭と腹わたを取って半年以上寝かせます。それを水洗いし、蒸して天日干し、それから1週間以上低温貯蔵。さらに脂が少ないもののみを手作業で選別してから削ります。とにかく歩留まりが悪く手間暇もかかるので、大量生産はできません。
ご飯に“ふわっと”というより“がばっと”かけて食べたい「いわし削り」。
極薄に削るカネジョウの技術があるから、ご飯にのせて食べられるようになった。
–とても手間のかかる商品ですね。ご飯にのせて食べるのが地元では一般的ですか?
望月 地元で一般的というより、そもそもご飯にかけるようにいわしを薄く削ったのは弊社が最初となります。地元で最初に工場直売店を始めたのも弊社で、ご家庭で一番良い食べ方として、カルシウムなど栄養たっぷりないわしの煮干を、だしではなくて丸ごと食べてもらうために、脂が少なく極薄の削り節を作ったのです。いわしは柔らかくて脂が多いので薄削りはできないと思われていましたが、うちではそれができるように創意工夫を重ねてきました。薄く削るほど粉も出るのですが、粉は静岡おでんや富士宮焼きそばにも使われて地域の味づくりの一助になっています。
-ではご飯にかけるというのは、カネジョウさんの削り節が最初だったのですね。
望月 がばっとかけるとうまいんですよ。ご飯よりいわしが多いくらいに(笑)。そこに醤油をたらしたり、ごま油をかけたり。卵かけご飯やチャーハンにしてもおいしいですよ。最近いいなと思ったのは、卵を落としてオリーブオイルとバター、塩、ブラックペッパーを加えると、カルボナーラ風になるんです。そこにパルミジャーノを加えても…。
お好みで醤油やごま油を。ついおかわりしてしまいそう。
商品の袋には、いろいろな使い方が書かれている。ホームページやSNSでもレシピを公開。
-奥が深いですね。もう一つのおすすめ、「わかめごはんの素」についても教えてください。
望月 これは3年ほど前に開発したもので、小学校の時に人気No.1だった給食のわかめごはんをイメージしました。国内産のわかめを使っています。塩蔵のものを仕入れて、塩抜きしカットして乾燥させます。これも添加物は使用していません。
-ずっと無添加にはこだわりが?
望月 もともとうちでは化学調味料等の添加物を使ったことがなくて、家でも素材そのままの味を大事にしていたので、親元を離れた大学時代も友達と鍋をする時など、鍋つゆの素は使わず、かつおの厚削りと昆布でだしを取り、ポン酢も自分で作ってましたね(笑)
やわらかな国内産のわかめを使った「いその、わかめごはんの素」。
-これは炊きたてのご飯に混ぜて?
望月 弊社では作ったわかめを適度に細かくしているので、飯碗一杯のご飯でも混ぜやすく、味がまんべんなくまわります。ふやけ方もちょうどよい。細かくしているので、パスタをはじめ料理の調味料代りにも使えます。
「わかめごはんの素」は作ってからさらに細かく仕上げているので、少量のご飯にもなじむ。
小さなおにぎりにすると子どもも食べやすい。夜食にも。
-今後の展望をお聞かせください。
望月 今は、原料が動いていなくて、産地の冷凍庫がいっぱいのところがあると聞きます。産地の原料メーカーは次に買うためにも生産者から買い続けないといけないのですが、このように原料価格が急激に高騰してしまうと、加工メーカーは高いから買い控えもしてしまう。でも、これでは値上げリスクを産地に押し付けることになって、生産者と産地が厳しい状況になります。手間暇かけてやるところに限って大変になるのではないかと心配です。うちも小さい企業ですから全部を助けることはできませんが、原料を循環させてゆく努力はしていますし、今後もしていきたいと思います。そのぶん値上げなどの価格改定もしなくてはならないことになりますが、生産効率を見直すなど努力してゆくつもりです。
また、弊社のいわし削り節は、毎年同じものが作れるわけではありません。年によって原材料のイワシ煮干しの獲れる量も質も違いますから。ただ、なんとか手を加えて自分たちが考えるゴール地点には近づけることはできると思いますし、それでも「違う」とおっしゃるお客様には自然のものだからということをお伝えしていきます。
無添加については、無添加を謳うために無添加で作る方もありますが、私たちは無添加のほうがおいしいからそうするだけ。無添加のものには、おいしい米、醤油、調味料を楽しむというのが関わってくる、それが無添加の食文化だと思うんです。無添加食材をどう楽しむか。それさえあればいいというのではなく、それを使うことで味を補完したり調理をしたり、他の食品も使うので、幅広く経済波及効果や食文化の豊かさが生まれることになると考えています。
そして、そのような食品の「経済的多様性」を生み出すことを考えながら商品開発や情報発信をすることで、その大切さをできるだけ言葉にして多くの人にお伝えしていければと思っています。
-新しい視点ができ、とても勉強になりました。本日はありがとうございました。
「いわし削り」(45g)
価格:¥540(税込)
店名:カネジョウ
電話:054-385-6181(9:00~17:00 土日・祝日・年末年始除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kanejo.jp/SHOP/1-1.html
オンラインショップURL:https://www.kanejo.jp
「いその、わかめごはんの素」(50g)
価格:¥810(税込)
店名:カネジョウ
電話:054-385-6181(9:00~17:00 土日・祝日・年末年始除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kanejo.jp/SHOP/wgm50x1.html
オンラインショップURL:https://www.kanejo.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
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望月英幸(株式会社カネジョウ 専務取締役)
1978年静岡県生まれ。法政大学大学院修了後、同大学の研究センターで授業プログラムづくりに携わり、3年を経て2008年にカネジョウに入社。その後専務取締役に就任。現在、カネジョウの4代目として事業承継の準備を進めている。
<文・撮影/大喜多明子 MC/三好彩子 画像協力/カネジョウ>