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武蔵野の自然に育まれる世界に認められたジャパニーズクラフトジン「棘玉」

2024/10/24

作り手のこだわりが込められた「ジャパニーズクラフトジン」が、いま注目されています。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは、小規模な蒸留所から生み出され、世界的な評価を得た「ジャパニーズクラフトジン 棘玉」。生産・販売元である株式会社マツザキ代表取締役の松崎裕大氏に、開発の経緯や商品に対する思いを取材陣が伺いました。

株式会社マツザキ 代表取締役の松崎裕大氏
株式会社マツザキ 代表取締役の松崎裕大氏

―御社について教えてください。

松崎 わが社は1887年に、酒類や米穀を販売する商店として創業しました。私の父の代になって酒の専門店になり、2022年の11月から、私が代表取締役を任されています。

―造られているのはジンだけですか?

松崎 ジンだけです。販売しているほかの酒類は、蔵元さんから預かった商品を販売しています。

―なぜ、ジンを造ろうと思ったのでしょうか?

松崎 まず、私と父がジンを好きだったことがあります。また、我が家の所有地には私有林があり、その場所の活用方法として「ジンの木」が育つのではないかと考えたことが、きっかけになりました。

―私有林ですか?

松崎 川越市の中福という地区にあります。ビルがなく、今でも農地が多い地域です。我が家にも私有林が2,000坪ほどあり、古くから暮らしに欠かせない場所でした。しかし、私が入社したころには、荒れ放題で放置されていました。「これでは先祖に申し訳がない」と、私が父に進言し、社員全員で清掃し整備しました。

―自ら整えられたのですね。

松崎 何度も2トントラックで往復しなければいけないほど、ゴミの搬出が必要でした。でも、立ち枯れた木を取り除き、横に流れている不老川という1級河川を整備したら、古い武蔵野の面影が残る、とても気持ちのいい場所になりました。
せっかくだから、なにかに活用できないかと考えて、思いついたのが「ジンの木=ジュニパーベリー」を植える計画です。

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整備活動は現在でも行われている。

―それまで、酒造りには関わったことは?

松崎 入社する前に、数年間酒造りを学ぶために、いろいろな酒蔵で、下働きの仕事を経験しました。

―それは、ご自身の意志で?

松崎 最初は父に言われてです。なんで酒の販売に醸造が必要なんだろうかと嫌々行ってました。でも、学んでいるうち、酒販店として酒造りの心を伝えるには知識が不可欠なことがわかり、2年目からは自分から望んで学びに行きました。

―どんな醸造所に行かれたんですか?

松崎 もともと、酒を販売している関係で縁があった酒蔵さんです。主なところでは、宮崎の黒木本店さん、山梨の勝沼醸造さん、新潟の八海醸造株式会社さん、青森の西田酒造さん、山形の出羽桜酒造さんなどです。もちろん、無給で入りました。

―どちらも、一流どころですね。

松崎 はい。それぞれ、仕込みの時期に入らせてもらったのですが「おいしいお酒には理由がある」と実感しました。今でも働かせていただいた蔵の酒は、販売する時にも熱が入ります(笑)。ひとつの品質を造りこむ大変さを肌で感じた体験は、今でも役に立っています。

―林に植えたジュニパーベリーは、どこから持ってこられたのですか?

松崎 ジュニパーベリーは西洋ネズの木とも呼ばれ、日本にも自生しています。いろいろ調べているうちに、長野の方がジュニパーベリーの木を3本譲ってもいいというお話があり、移植しました。あまり暑いのは好きではない植物なので心配したのですが、林の風通しがよいせいか育ってくれています。現在約100本のジュニパーベリーを植えています。移植から14年経過して、やっと最初の3本は、私の背を追い越すほどに成長しました。

―背が高くならない木なのですね。

松崎 いえ。成長が遅いのです。まだ私の背を越すほどの高さにしかなっていません。今から、新しく育てようとしても時間がかかります。これから国産のジュニパーベリーを使ったジンを造ろうとしても、実がたくさんなるまでに時間がかかり、まだ100%国産にするには、しばらくかかりそうです。でも、必ず造れるときはきます。

―ブームに乗って始めた人たちとは違うと?

松崎 私たちは、ブームになるずっと前からジンを製造しようと頑張っていました。恐らく、最初に日本の西洋ネズの木から実を採取してクラフトジンを造ろうと思った、そう、私たちは自負しています。

―「ジャパニーズクラフトジン 棘玉(とげだま)」ですが、名前の由来はなんですか?

松崎 「棘玉(とげだま)」は、ジュニパーベリーを指した言葉です。もともと、ジュニパーベリーに「棘玉」という別名があったわけではなく、父が思いつきました。
ジュニパーベリーは、ヒノキの仲間でクリスマスツリーに使うモミの木に似ています。葉は、とげとげしていて、丸い実がなる、ですから「棘玉」です。私たちがジンを造るにあたって、ジュニパーベリーを大切にしたいと思っていた、その思いを込めました。キラキラした名前ではないのですが、逆にインパクトがあって覚えてもらいやすいようです。

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「棘玉」という名称はジンの木=ジュニパーベリーからとった。

―製造はどこで行なっていますか?

松崎 先祖が炭小屋として使っていた倉庫をリノベーションして「武蔵野蒸留所」という名称で使っています。恐らく、日本でも一番小さなマイクロブリュワリーです。偶然ですが、倉庫の横で井戸を掘ったら、秩父の雪解け水を水源とする伏流水にあたったので、その水を使って「棘玉」を製造しています。

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武蔵野蒸留所。

―すごい!偶然ですね。

松崎 井戸を掘る職人さんって、すごいです。そのうえ出た水は、軟水だけれど軟水過ぎない、ジンをつくるのにちょうどよい水でした。軟水でも、超軟水と呼ばれる水だと背骨がない感じの味になります。掘り当てた井戸の水で造ると、さらっとしているけれど、少し骨格を感じるおいしいジンができます。

―「棘玉」のジュニパーベリーは、すべて整備した林からとれたものですか?

松崎 現在は、北マケドニアからの輸入品も使っています。ゆくゆくは、すべて私たちの林で収穫したものを使おうと計画しています。5年後ぐらいで、実現しそうです。

―その他の材料は、どうですか?

松崎 サトウキビ由来のニュートラルスピリッツは、購入しています。それ以外の香りをつける原料は、すべて林からとれたものを使おうと、頑張っています。今は、埼玉産のボタニカルを使っています。

―具体的には、どんなものを使っているんですか?

松崎 主に、ゆず、山椒、生姜、茶です。山椒は、自社で使用する十分な量がとれています。

―ボタニカルの組み合わせは、なにかお手本とされるものがあったのでしょうか?

松崎 実は、ジンを造り始める前はお手本も構想もあったのですが、うまくいきませんでした。ですから、トライアンドエラーを重ねて、自分たちが納得できる組み合わせをオリジナルで造り上げました。

―どんな味を目指していますか?

松崎 申請してから免許がおりるまで10年近くかかったんですが、父とどんなものを造りたいかという話を、よくしていました。
まず「ご当地ジン」と言われるような変わった材料を使ったものではなくて、世界の人たちが「ジンだ」と言ってくれるものが造りたい。そして、味わいや香りがあっても最後はきれいに抜けていくようなお酒。口の中にいつまでも残らず、さっぱりと、スーッと消えていくようなクリアで繊細なジンを造りたいと意見が一致しました。

―その味は実現していますか?

松崎 味わいにこだわって試行錯誤していますが、毎年少しずつおいしくなっていっていると思います。トニックウォーターやソーダ、ジュースなどにもよくあいます。
お客様には「緑を感じる、青々しい味だ」と、ご好評をいただいています。ジントニックにすると、違いがよくわかるそうです。

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さっぱりと、スーッと消えていくようなクリアで繊細なジン。

―こだわりの製造方法の一端を教えていただけますか?

松崎 たとえば、通常ジュニパーベリーをニュートラルスピリッツに漬け込んで風味を浸出する際には、品質を安定させるため1年中同じ温度で行います。このとき、夏の温度に合わせると1日で浸出できるのですが、冬の温度にすると1週間かかるんです。
でも、夏の温度に合わせて浸出したジンは、私たちには余計な味が出るように感じられた。ですから、わが社では、1年中冬の温度で1週間かけて浸出しています。
低温での製造は時間だけでなくそれにかかる冷却費も多くかかります。大量生産をしているジンではこのやり方は非常に非効率で難しいと思います。
でも、私たちはクリアな味わいにこだわりたいから時間をかけて浸出しています。

―世界でも認められたとか?

松崎 はい。2019年に「棘玉」を発売しましたが、ありがたいことに最初から評価をしていただいています。いろいろと賞はいただいているのですが、最近では、イギリス・ロンドンで開催された世界的なジンの品評会 Worlds Gin Awards(ワールド・ジン・アワーズ)2023で、「棘玉」が日本一のジン(ジャパン・カントリー・ウィナー)に選ばれました。

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「棘玉」の味は世界でも認められている。

―素晴らしいですね。

松崎 審査員からは「日本のボタニカルをよく感じられるジンらしいジン」だと評価されました。品評会をきっかけに、韓国・フランス・ドバイ・アブダビ・香港・マレーシアなどから引き合いをいただくようになっています。

―なかなか手に入らないのでは?

松崎 たしかに、一時期欠品になる場合もあるのですが、基本的には弊社のホームページでご購入いただけます。現在、年間で700ml換算で約10,000本生産していますが、これから生産量の1.2倍を目指しています。

―会社としての今後の展望は?

松崎 日本でも世界でももっと知名度を上げるために、品質を向上していきたいです。それは商売のこともありますけど、川越ならではの自然の存在を知っていただきたいからです。

―川越の自然は楽しめるのですか?

松崎 森はベンチも置いて開放しています。本当にきれいな土地です。土日には、東京から私たちの店や森にまで足を運んで、お昼を食べて過ごされている方もいらっしゃいます。併設している本店では選りすぐりのお酒を販売していますから、お土産もお買い求めいただけますとありがたいです。「棘玉」が循環のきっかけになればよいと思っています。

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整備された森は、ベンチも置かれくつろげる場所。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。

棘玉 クラフトジン スタンダード

「棘玉 クラフトジン スタンダード」47% 200ml
価格:¥2,050(税込)
店名:株式会社マツザキ
電話:049-243-4022(10時~19時)
定休日:定休日なし(年始のみ休ませていただきます)
商品URL:https://www.1887.co.jp/i/1001003
オンラインショップ:https://www.1887.co.jp/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
松崎裕大(株式会社マツザキ 代表取締役)

1987年埼玉県川越市生まれ。大学では経済を学び、卒業後は講師業を1年経験。その後、九州の焼酎蔵にて修業し、以降は1年ごとにワイン蔵や日本酒蔵を回り、酒造りを勉強する。約4年後に株式会社マツザキに本格的に入社し、配送から仕事を覚える。2022年11月に同社代表取締役に就任。現在では酒屋業だけでなく、飲食や農業も視野にいれて活動を行なっている。

<文・撮影/桜会ふみ子 MC/三好彩子 画像協力/マツザキ>

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