今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは、「しらす干し」と「踊るちりめん」。どちらも茨城県大洗沖に広がる太平洋で獲れたいわし稚魚を原料に作られています。今でこそ大洗はしらすの名産地として知られていますが、どんな経緯でしらすが有名になったのでしょうか。初期からしらす漁を行っていたという、株式会社にんべんいちの代表取締役の坂本貴英氏に、取材陣が伺いました。
茨城県産大洗しらすと岩塩でつくる「しらす干し」と濃い口醤油でつくる「踊るちりめん」
2024/10/31
株式会社にんべんいち 代表取締役の坂本貴英氏
―貴社の沿革を教えてください。
坂本 当社は1963年に私の祖父が設立しました。祖父は戦時中、満州へ行き、日本に戻ってきてからいろいろと商売を始めたそうです。一時は船乗りや漁業をやっていて、のちに現在のような水産加工業を始めたと聞いています。
その後、私の父が跡を継いでから、現在の会長を務めている、父の弟が跡を継ぎました。現在、私が4代目となります。
―幼少期から家業を継ぐとお考えでしたか?
坂本 幼少期はまさか自分が家業を継ぐとは考えていなかったので、20代前半は自由に働いていましたが、20代後半に水戸の卸売市場へ修行に行き、そこでしらすのほかに鮭やいくら、数の子、干物などを扱いながら、3年間勉強させていただいて、30歳になる頃、当社に戻ってきました。
―貴社がしらすを扱うようになったきっかけは?
坂本 2代目と3代目が一緒に水産加工業をやっている中で、大洗の魚市場でしらすが漁れるようになったことから、しらすの買い付けを始めたのがきっかけでした。そこから、しらすを釜茹でする機械など、徐々に設備を増やしていったそうです。
しらすが漁れるシーズンは春から秋までだったので、今はもうやっていませんが、それ以外の時期は干物などを作っていました。当時、他の業者はどこもしらすを扱っていませんでしたが、当社が始めてからは徐々にしらすを扱うところが増えてきて、今では大洗の名産品の一つと言われています。
―しらす製品に力を入れ始めたのはいつ頃でしょうか?
坂本 30年ほど前です。それまでは大洗で水揚げされるいわしやにぼし、海外産のししゃもなどを扱っていました。今取り扱っているのは、100%しらすの製品です。
―しらすはどうやって仕入れているのでしょうか。
坂本 毎日市場に行き、せりで生しらすを仕入れ、工場に運んで作業しています。市場は車で5分くらいのところにあり、到着してからすぐに釜茹でしているので、鮮度を保つことができるんです。
―「しらす干し」はどんな工程で作られているのでしょうか。
坂本 まず、しらすを塩水で茹でます。4t釜を使用し、急激に沸騰させて茹でていくのですが、しらすを入れると水温が下がってしまうので、しっかりと温度を90度から100度くらいの高温に保ちながらふっくらと炊き上げています。この工程で塩味が決まるので、茹でる時間と温度にはこだわっています。
ここで使う塩はオーストラリア産の岩塩です。ミネラルが多く、少し癖があるものの、これを使うとすごくおいしくなります。
「しらす干し」は一つ一つがふっくらと炊き上がっている。
―釜揚げしてから乾燥させるそうですが、この工程でのこだわりは?
坂本 乾燥機を使って一定の温度で乾かしてから、遠赤外線を発生させる装置を使っているところがこだわりです。そうすると旨味を引き出せるので、仕上がりがだいぶ変わります。
―その後の選別には機械を導入しているそうですね。
坂本 原料のしらすには、小さなえびやかにが入っている時期もあるので、風力選別器などの機械を使って選別しているところも特徴です。最後は作業員がピンセットを使って何も異物が入っていないか抜かりなくチェックしています。
―貴社はプロトン冷凍という技術を使っているそうですが、「しらす干し」にも使われていますか?
坂本 鮮度の良い状態を保ちたいときに使うこともあります。プロトン冷凍とは、強力な電磁波と磁束を発生させて急速凍結する方法で、主に生しらすの凍結に使っています。−45℃ぐらいまで一気に下げることで、しらすの旨味を閉じ込めておくことができるんです。マグロなど他の魚に使っている業者さんもいらっしゃいます。
プロトン凍結によって鮮度の良い生しらすを提供し続けている。
―続いて、「踊るちりめん」が作られたきっかけは?
坂本 これは「いばらき心つつむ観光プロジェクト」という茨城の企業とのコラボレーションで作られた商品です。一般的には冷蔵や冷凍のしらすが多いですが、常温で持ち帰ることができる商品の開発を目標に作りました。
商品名に「ちりめん」と入っていますが、「しらす干し」を少し乾燥させたものを原料として使っています。そこに地元大洗の月の井酒造さんのお酒と黒澤醤油さんのお醤油、国産の山椒をブレンドして出来上がりました。
以前からちりめん山椒のような商品の構想は練っていたものの、これがきっかけで商品開発に至りました。
「踊るちりめん」のパッケージ(右)と中身(左)。
常温保存できるのが嬉しいポイント。
―開発時に苦労したことは?
坂本 色の出し方に苦労しました。ちりめん山椒は京都や大阪で売られていることが多いですが、関西は薄口醤油が多いので、明るい飴色に仕上がっているものが多いです。関東の醤油は黒いものが多いので、色が濃く出てしまう点についてどうするか悩みましたが、味はおいしいですし、色が濃いのは仕方ないだろうと話がまとまりました。
関西のちりめん山椒よりもやや色が濃いところが特徴。
―パッケージのデザインもかわいらしいですね。
坂本 これはちょうど東日本大震災の後にできた商品だったので、復興の祈りを込めて、すぐ起き上がるような縁起の良さを意識してデザインしていただいたものです。「いばらきデザインセレクション」というコンテストで選定賞を受賞しました。このデザインのおかげもあり、大変人気の商品となっています。
―おすすめの食べ方は?
坂本 いろいなレシピがありますが、やっぱりシンプルにごはんに乗せて食べるのが簡単でおいしいので、一番おすすめです。あとは、おにぎりやパスタに入れるのもおいしいと思います。
山椒の風味があり、ごはんと合わせて食べるだけでとてもおいしい。
―最後に、会社としての今後の展望を教えてください。
坂本 まずは、これからも味を変えず、常においしいしらす製品をお出しできるように努力し続けていきたいです。それと、今年5月に「浜いち」というしらすと海鮮丼のお店をオープンさせたので、多くのお客様に足を運んでいただきたいと思います。ここでは当社の商品も購入できるので、ぜひ大洗のしらすを堪能しにきてください。
今年5月にオープンした「浜いち」の外観(左)と
そこで食べられる料理の一例(右)。
―本日は、貴重なお話をありがとうございました!
「しらす干し」(130g)
価格:¥500(税込)
電話:029-266-2001(09:30~16:00)
FAX:029-264-8121
メール:ninben1@gmail.com
定休日:日曜、祝日、市場休の水曜日等
商品URL:https://ninben1.com/CCP028.html
※注文は電話、FAX、メールで受け付けます。
「踊るちりめん」
価格:¥600(税込)
電話:029-266-2001(09:30~16:00)
FAX:029-264-8121
メール:ninben1@gmail.com
定休日:日曜、祝日、市場休の水曜日等
商品URL:https://ninben1.com/CCP016.html
※注文は電話、FAX、メールで受け付けます。
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
坂本貴英(株式会社にんべんいち 代表取締役)
1974年8月生まれ。卸売市場などで修業をした後に、家業である水産加工に携わって20年余り。しらす工場経営の傍ら、2024年5月に飲食店(浜いち)をオープン。工場直売店や土産店、道の駅などで釜揚げしらすやしらす干しを販売し大洗ブランド認証品の大洗産しらす製品の普及に努めている。
<文・撮影/サカモトアヤ MC/石井みなみ 画像協力/にんべんいち>