今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは、化学調味料などの添加物を極力使わずに作った「まぐろ昆布」とカツオのなまり節をほぐして作った「お魚キッチン ボニート塩麹とレモン」。この二つは愛知県にある株式会社小林つくだ煮の商品で、どちらも焼津産の魚を使っています。これらはどんな経緯で開発されたのでしょうか。株式会社小林つくだ煮の代表取締役社長の小林利生氏に、取材陣が伺いました。
静岡県焼津産の魚で手作り、おいしい佃煮「まぐろ昆布」と「ボニート塩麹とレモン」
2024/10/17
株式会社小林つくだ煮 代表取締役社長の小林利生氏
―小林社長は貴社に入る前は別業界で働いていたそうですね。
小林 大学卒業後はレコード会社へ入社し、制作や宣伝、販売促進などをやらせていただきました。その後、CS放送のスペースシャワーネットワークに転職し、経営企画をしていました。当時は衛星チャンネルの黎明期で、立ち上げの協力でお手伝いをしていたのですが、これがなかなかおもしろくて、仕事に熱中していたら、僕が退職する頃には初めての単年度黒字になったことを覚えています。
―そこから食品業界に進んだのはなぜですか?
小林 僕は妻の実家の婿養子なのですが、交際している頃から結婚したら家業を継ぐことになっていました。もともといた業界とは違いすぎるので、自分には無理だろうと思っていましたが、当時の工場長さんと話した時にとても興味深い話をしてくれて、やってみようかなという気持ちになったんです。
皆さんすごく実直に働いていて、作っているものは違うけど、音楽も食品も思いを形にしていくという点はそんなに変わらないんだなと思いました。
―入社後はまず何から取り組んだのでしょうか。
小林 37歳のときに入社して、まずは製造現場を経験しました。細かいところは基本的に教えてくれなくて、職人さんを見て学んでいった感じです。当時は従業員35人くらいの小さい会社だったので、製造の業務を経験した後に出荷業務をやりながら得意先を理解していき、会社が最も力を入れなければいけなかった営業面を積極的に行うようになりました。そうした日々を約7年過ごし、2004年に社長に就任しました。
―それまで最も力を入れて取り組んだことは何ですか?
小林 「佃煮天然堂」というシリーズの通年商品を作ったことが今の弊社の量販店向けのトレー商品の礎えとなりました。他の佃煮メーカーさんも同じようなことが言えると思いますが、弊社は年末商品に依存している度合いが非常に強く、毎年12月はおせちの佃煮が非常に売れるので、その1ヶ月で4ヶ月分くらい稼ぐようなイメージでした。
でも、だんだんおせちの佃煮も需要が減ってきていることから、季節を問わず販売できる商品が必要になったのです。
―「佃煮天然堂」はどんなシリーズですか?
小林 これは化学調味料などの添加物を極力使わずに作ったシリーズです。当時はOEMの仕事が中心でしたので、役員から従業員まで売価帯や値入率などのことなど全く勉強していなかったので、売るのにとても苦労した覚えがあります。
また、以前はトレイにラップして、適当なラベルを貼っていただけですが、このシリーズを開発するタイミングでラベルデザインも見直しました。
―「佃煮天然堂」シリーズの「まぐろ昆布」は、どうやって開発されましたか?
小林 「まぐろ昆布」は「佃煮天然堂」ができたタイミングで誕生したもので、保存料や着色料、いわゆる合成調味料みたいなものを使わずに炊き上げています。三河の佃煮は照りつやが特徴ですが、水あめと寒天だけで照りつやをつけていくのはなかなか大変で、増粘剤などを使った佃煮も多くあります。その水飴と寒天のバランスに苦労しました。
それと、まぐろの頭や尻尾の肉を使って角煮を作っていたのですが、たまにまぐろの骨の欠片が入ってしまうのが悩みでした。そこで、角煮の原料屋さんに相談し、僕らが目で見てわかるように、3ミリ程度まで薄くしてもらいました。それ以上薄くしてしまうと形も崩れるし、食べ応えもなくなってしまいそうだったのですが、この薄さにしたことで味が馴染みやすくなったと思います。
一般的な角煮よりもやや薄めで味がよく馴染んでいる。
―味の特徴は?
小林 甘さ控えめですっきりとした味になっています。「佃煮天然堂」の開発時に、醤油の旨味成分と砂糖の甘さのバランスを変えたのです。醤油はずっとお付き合いしているサンビシというメーカーさんのものを使っていて、弊社の近くにあるので生揚げの醤油を持ってこれるんですよ。少なくとも弊社に届いた時点では酵母が生きているので、旨味が強く出ています。
また、上白糖を使って甘さを出しているので、日本人に馴染みやすく、いやらしさのない甘さに仕上がっています。
―おすすめの食べ方は?
小林 生まぐろの山掛けのように、「まぐろ昆布」の上に山芋のとろろを乗せただけで、一品料理になります。簡単なのでおすすめです。おかずとしても、おつまみとしても召し上がっていただけます。
ごはんのお供にぴったり。この上にとろろを乗せるのもおすすめ。
―佃煮だけでなく、瓶詰め商品も展開している理由は?
小林 東京オリンピックの年の記念になるような商品開発をしようとしていたのがきっかけです。結果的にオリンピックのタイミングに商品を販売したのではありませんが、「ずっと佃煮に依存していていいのだろうか?」という意識は強くありました。
だから、佃煮としての新製品ではなく、自分たちの技術や、佃煮作りで使う原材料を生かし、新しい角度の商品を作ろうという流れになり、魚のほぐし身を使った「お魚キッチン」シリーズと「つくだ煮屋さんのまぜご飯」シリーズが誕生しました。
―「お魚キッチン ボニート塩麹とレモン」を開発した経緯は?
小林 「ボニート塩麹とレモン」はお魚キッチンシリーズの発売開始当初にはなく、一昨年初めて販売したのですが、若い方に食べていただくために、アクセントのある味を考えたところ、工場長が発案しました。レモン風味の何かを作りたいというところから始まったようです。
ただ、レモンは粉末と液体では長所が全く違うので、バランスをとるのに苦労していたように見えました。「南ヨーロッパの田舎町のお母さんの味をイメージした」と言っていたので、それをきっかけに僕がスペイン語でカツオという意味の「ボニート」という名前を付けました。
―味にはどんなこだわりが?
小林 レモン風味だとさっぱりしすぎてしまうので、コク出しとして隠し味に白味噌を入れています。だから「南ヨーロッパの田舎町のお母さんの味」を想定していましたが、日本人に親しみやすい味に仕上がったのだと思います。おかげさまで2023年にジャパン・フード・セレクションのグランプリを受賞することができました。
原料のカツオは、焼津で水揚げされカツオを加工したなまり節を使っています。ちなみに、「まぐろ昆布」のまぐろも同じく焼津で水揚げされたまぐろのなまり節が原料です。
カツオのほぐし身がたっぷり入っている。
―いろいろとアレンジできそうですね。
小林 このシリーズは、魚を使った料理の汎用性の高さをイメージして「お魚キッチン」というタイトルにしたので、いろいろな使い方ができるのが特徴です。
塩麹がきちんと効いてるので、混ぜごはんのもととしても使えるし、バゲットやクラッカーの上にクリームチーズと一緒に乗せて食べるのもおすすめです。野菜スティックのディップにも合います。
味変としても活躍するので、冷奴など淡白な味のものとは相性抜群です。ちょっと今日違う気分で食べたいなっていうときに使っていただきたいと思います。
パンに挟んだり、クラッカーに乗せたりとごはん以外の食品とも相性抜群。
―最後に、会社としての今後の展望を教えてください。
小林 最近はいろいろと価格が高騰していて難しいかもしれませんが、食事は基本的に1日3回しか食べれないので、若い世代の方にはせめて3回のうち1回はおいしいものを食べてほしいと思っています。食事は人生の楽しみの一つと言っても過言ではないと思いますが、食費が一番最初に削られてしまっているようで残念です。そんな中、おいしくてちょっと幸せになれるような商品を作っていきたいと思います。
―本日は、貴重なお話をありがとうございました。
「まぐろ昆布」(150g)
価格:¥400(税込)
店名:小林つくだ煮 オンラインショップ
電話:0532-55-1101
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kobatuku.com/p/item-detail/detail/i122.html
オンラインショップ:https://www.kobatuku.com/p/item-list/list/
「お魚キッチン ボニート塩麹とレモン」
価格:¥450(税込)
店名:小林つくだ煮 オンラインショップ
電話:0532-55-1101
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kobatuku.com/p/item-detail/detail/i119.html
オンラインショップ:https://www.kobatuku.com/p/item-list/list/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
小林利生(株式会社小林つくだ煮 代表取締役社長)
1961年愛知県生まれ。早稲田大学卒業後レコード会社に入社、その後CS放送の「スペースシャワーネットワーク」に入社。縁あって入社した株式会社小林つくだ煮は初めての食品会社での仕事となる。2004年に社長に就任、現在に至る。
<文・撮影/サカモトアヤ MC/油井直美 画像協力/小林つくだ煮>