今回編集長アッキーが注目したのは、鳥取県で150年以上の歴史を持つ造り酒屋の甘酒。地元の米や水を選び抜き、味を磨いてきた日本酒はもちろん、近年ではリキュールやスピリッツなど広く発酵食品を手掛けています。甘酒は健康や美容に効果があるのはもちろん、季節折々のフレーバー甘酒も人気です。製造販売する千代むすび酒造株式会社の代表取締役社長 岡空晴夫氏に、酒造りにかける思い、歴史、甘酒をはじめとした新たな発酵食品の展望について伺いました。
旨みの強さとスッキリした後味が自慢「千代むすび【星空舞】糀甘酒」
2024/11/14
千代むすび酒造株式会社 代表取締役社長の岡空晴夫氏
―千代むすび酒造は、創業から150年以上の老舗でいらっしゃいますね。
岡空 1865年に鳥取県境港市で創業しました。元々は地域の庄屋で、余った米をお酒にするところから酒造りをスタートさせたようです。境港の発展とともに歴史を重ね、私が5代目です。もともと岡空本店と名乗っていましたが、法人化するのに伴い、千代むすび酒造に改名しました。それまで「大和魂岡政宗」という名前の酒を売っていたのですが、祖父も少しいかめしいイメージだと感じていたようです。そこで法人化に際して改名を考え、私たちのお酒をお祝いの席で永く楽しんでもらう、千代に八千代にちぎりを結びたい、という思いをこめて「千代むすび」と名付けたそうです。
長い伝統を感じさせる店構え。
―社長が家業を継いでから、どのようなことに力を入れてきましたか。
岡空 私が会社に入った1976年が、国内における日本酒最大の出荷量でした。つまりそこから日本酒需要は減少していきます。ビールやウィスキーの台頭によって日本酒の地位が下がり、さらに大手メーカーの攻勢が地方にも及び、当社も追い詰められていきました。生き残るために当社は、純米や吟醸などの特定名称酒の製造販売に特化することとし、設備投資も行いました。より上質なお酒だけを届けることにしたんです。さらに足を使って県外に販路を広げ、全国の特約店で販売を開始しました。さらに現在ではウェブショップも開設しており、良いものを多くのお客様に届けようと、奮闘してきました。
おいしくて上質な純米大吟醸や吟醸酒を製造。
―お酒造りのこだわりを教えてください。
岡空 水、米、そして製造工程の各々でこだわりがあります。まず水は、島根県雲南市に専用タンクを置いて、そこから毎日汲み上げた水を使っています。境港周辺の井戸水は硬水で、上質な日本酒を作るのには向いていません。そこで先代の杜氏が方々を訪ねて、きれいな軟水を探し出しました。往復移動と汲み上げ作業で毎回3時間ほどかかるのですが、香りの良いすっきりとしたお酒作りにはこの水が欠かせません。
お米は山田錦、五百万石、玉栄、強力などの品種を使っています。なかでも強力は江戸時代から鳥取にあった米で、山田錦の先祖とも言われています。硬くて大きいので酒造りは難しいのですが、地元に古くから伝わる米を使った酒造りにこだわり続けたいんです。「強力を育む会」という保存組織もあって、出荷を県内に絞り、種子も出さないという取り組みを続けて品種を守っています。
製法については、お米を蒸す工程にこだわっています。乾燥蒸気が出る装置を使って103℃で蒸しあげることで、お米の味を濃く出しています。さらに炭素濾過をしないことで、濃醇旨口のお酒に仕上げます。東北や新潟あたりの日本酒では淡麗辛口が多いのですが、当社はずっとこのスタイル。特色を発揮できていると思います。さらに電気を通して熱を加えるジュール殺菌を行い、短い時間に均等に加熱しているので、味を損なわず品質も保っています。
外硬内軟に蒸された米は米麹作りに最適。
―糀甘酒はどんな商品ですか。
岡空 日本酒からスタートした当社ですが、リキュールやスピリッツ、ウィスキーへと商品を展開し、広く発酵食品全般を手がけていきたいという構想があります。糀甘酒もその一つ。栄養が豊富で腸活にも良い、健康や美容に効果があると言われる甘酒を商品ラインナップに加えました。こちらは「星空舞」という鳥取県の新品種米を使っており、地元の農業を盛り立てる思いもあります。甘みの強い米なので、甘酒にしても旨味が強く、後味はスッキリしています。
一方で今までのアルコール商品と違って、腐敗のリスクがあるので、品質管理には非常に気を配っています。甘酒工場を別棟で建設し、流通に関しても冷蔵を徹底しており、美味しくて安全な商品をお届けしたいと思っています。季節に合わせたフレーバーも展開していて、いちご、もも、ゆずなど毎月のように限定商品を出しています。境港は水木しげるの出生地であり、ゲゲゲの鬼太郎にちなんだ「輝太郎」という柿があるのですが、この柿を使った甘酒も販売し、好評でした。
“飲む点滴”とも呼ばれる甘酒は美味しくて栄養豊富。
―日本酒に限らず、幅広く発酵食品を手掛けていらっしゃるんですね。
岡空 日本酒の愛飲者の多くは、中高年。今後日本酒の消費量はさらに減少することが予想されます。需要減を乗り越えるためには、商品ラインナップの拡充が欠かせません。これまで当社が培った発酵の技術を生かして、さまざまな酒類や低アルコール酒、炭酸酒なども開発していきたいです。
素材の旨みを活かして糖類、保存料は無添加。
―幅広いラインナップの商品を揃えて、今後も楽しみですね。
岡空 商品の拡充とともに、販路も拡大したいと考えています。国内の日本酒ファンは減少傾向にあるとしても、海外はこれからが本番。これまでも欧米や韓国での販売をしてきたのですが、さらに力を入れていきます。近年は日本食ブームも高まっていますから、それと一緒に日本酒が飲まれる場面も増えるでしょう。冷蔵輸送や冷蔵販売の技術向上で、アリゾナの砂漠地帯で新鮮なお刺身を食べることも可能な時代です。日本酒だって世界中でもっと愛されるようになっていくと信じています。国際的な商売で有利になる有機JAS米の取得、その米を使ったお酒作りも進めて、環境に優しく安全な商品として差別化していきたいです。
もう一つは、コンパクトな商品の開発です。これからは一升瓶ではなく、小瓶で消費されるようになると思うんです。小さくなると瓶詰め工程でも輸送でも、効率は悪くなります。それを合理的に効率化するために、DXなども積極的に進めていきたいです。お酒づくりで培った知見を生かしながら、新しい試みを続けていきます。
―貴重なお話をありがとうございました!
「千代むすび【星空舞】糀甘酒」(194g)
価格:¥298(税込)+送料¥1,100
店名:千代むすび楽天市場店
電話:0859-42-3191(9:00~17:00 土日祝を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/chiyomusubi-shuzou/10859/
オンラインショップ:https://www.rakuten.co.jp/chiyomusubi-shuzou/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
岡空晴夫(千代むすび酒造株式会社 代表取締役社長)
広島大学発酵工学科卒業。
1976年(昭和51年)千代むすび酒造に入社。
1993年(平成5年)に第5代 代表取締役就任。
中国5県利き酒競技会で1984年(昭和59年)、1995年(平成7年)と2度個人優勝。
1991年(平成3年)利き酒師資格取得。
日本酒サービス研究会常務理事、鳥取県需要開発委員長、青醸会会長、中国5県品質管理委員、鳥取県酒造組合会長等々を歴任。
<文・撮影/鈴木満優子 MC/橋本小波 画像協力/千代むすび酒造>