今回、編集長アッキーこと坂口明子の目に止まったのは、茨城県石岡市で醸されている「白菊 金賞受賞酒 大吟醸」。2024年5月に「令和6年 全国新酒鑑評会」において金賞に輝いたお酒です。このお酒を造っているのは、200年の歴史を持つ廣瀬商店。8代目蔵元の廣瀬慶之助氏に、取材陣がお話をうかがいました。
華やかな香りとふくよかな味わい常陸杜氏による酒造りの粋を極めた「白菊 金賞受賞酒 大吟醸」
2024/11/25
合同会社廣瀬商店八代目 廣瀬慶之助氏
―来年、創業220年を迎えられますね。これまでの歩みについて、お聞かせください。
廣瀬 実は、創業のきっかけについては、はっきりしません。廣瀬家の系譜を見ると1570年まで遡ることができますが、もともとは僧侶だったようです。それがどういう経緯でお酒を造るようになったのかは分かりません。
創業した1805年(文化2年)は江戸時代末期。当時、商人たちが元気で商売盛んだったようで、それで先祖も酒造りを始めたのだと思います。
―御社の蔵がある茨城県石岡市というのは、日本酒造りが盛んだったのでしょうか?
廣瀬 日本酒造りというと、多くの方が灘や伏見をイメージされるかもしれません。とくに灘は、六甲山の伏流水(宮水)でお酒を仕込み、酒蔵は大阪湾に面して建っていて、お酒を船で江戸まで運んだと言われています。
実は、石岡は「関東の灘」と呼ばれていた時代があるんです。寒冷な土地と、筑波山水系の良質な地下水に恵まれていることが日本酒造りに適していたこと、そして日本で2番目に大きい湖である霞ヶ浦から利根川ー江戸川ー新川という水運ルートがあることが、酒造りを後押ししてくれたのです。
明治初期は、石岡だけで14、15軒の酒蔵があったと聞いています。現在、実際に酒造りをしている蔵は3軒だけになってしまったのですが。
「白菊」の醸造元、廣瀬商店は霞ヶ浦に注ぐ恋瀬川のほとり、
西に筑波山を望む高浜の地にて創業。
清酒、焼酎、リキュールの製造・販売をしています。
―「白菊」という素敵な銘柄名の由来を教えてください。
廣瀬 お酒を飲むタイミングは、いろいろだと思いますが、とくに9月〜11月は「ひやおろし」といって、冬に搾った新酒を寝かせてひと夏越してから飲むお酒があります。その時期、ちょうど菊まつりがあったりお月見があったりするので、きれいな菊や月を愛でながら飲んでいただけたらと考えて、菊という字をつけたようです。
菊の色にもいろいろありますが、白には一番、最高という意味もあるということで「白菊」とした、と聞いています。
代表銘柄「白菊」。全量、契約農家栽培米使用。
―「白菊」はどのようなお酒なのでしょう。酒造りに関してのこだわりは?
廣瀬 「永きにわたり飲み続けてもらえる酒造り」をモットーにしています。何かにものすごくこだわっているというよりも、普段使いのお酒というか、毎日の晩酌の友として普段からみなさんに飲んでいただけるようなお酒、お手頃な値段でおいしく味わえるお酒をメインに造っています。
造り方としては、基本は昔ながらのやり方ですね。麴(米を蒸してコウジカビを生じさせたもの)造りや酒母(あらかじめ酵母を培養して増殖させたもの。日本酒を造る土台となる液体)造りの方法もとくに新しいことはしていません。ただ、よりおいしいお酒を造るために絶えず勉強して、研究して改良を重ねています。
日本酒造りの世界でも技術革新が進み、米や麴、酵母もどんどん新しいものが出てきています。大きな酒蔵さんはご自分のところで研究所を持っていて、そこで酵母の開発をされていたりします。そういうお蔵さんと連携して、学ばせていただき、新しい酵母や麴、を使ったりしながら試行錯誤する日々です。
―御社のホームページに「常陸杜氏造り」という言葉があります。常陸杜氏というのは?
廣瀬 杜氏とは、日本酒造り現場での製造責任者のこと。杜氏はもともと、日本酒造りが行われる冬から春にかけて酒蔵に住み込み、酒造りが終わるとふるさとに帰るという、いわば季節労働者でした。とくに冬の寒さが厳しい地域の農家の人たちにとっての農閑期と日本酒造りの時期が重なるため、その時期に酒蔵に出稼ぎに行ったんですね。それで、各地の農村に、杜氏を中心とする酒造りの技術者集団が生まれたんです。現在は、出稼ぎという形ではなく、杜氏を社員として雇用したり、蔵元自ら杜氏を務めたりなど、杜氏や蔵人たちの働き方は酒蔵によってさまざまです。
杜氏というと、越後杜氏や南部杜氏、能登杜氏などがよく知られていると思いますが、それ以外にも全国各地に存在します。
常陸杜氏は、茨城県酒造組合と茨城県産業技術イノベーションセンターによって立ち上げられた茨城県独自の認証制度で、2019年に誕生しました。「茨城に根ざした杜氏を育成したい」「茨城の地酒をもっともっと発展させたい」という地元の蔵元たちの強い思いから生まれた資格だけに、取得するのがむずかしいんです。国家資格である酒造技能士1級の取得、茨城県内の酒蔵で一定期間内酒造りに携わっていること、県産業技術イノベーションセンター主催の「杜氏育成コース」を受講していることに加え、きき酒、筆記試験、小論文、面接……と、関門がいくつもあります。
その難関をくぐって常陸杜氏となったのが、いま弊社の蔵で杜氏を務める久保田道生です。
久保田道生杜氏。
―今回、ご紹介させていただく「白菊 金賞受賞酒 大吟醸 720ml」も久保田杜氏のもとで醸されたのですね。どのようなお酒なのでしょう?
廣瀬 兵庫県産の山田錦特等米を全量使用し、米を6割まで磨き上げたお酒です。山田錦は日本酒の原料米として優れているとされていますが、なかでも兵庫県産山田錦は世界最高峰と言われています。十数年前、兵庫県加西市で米作りをされている名古屋敦さんとの出会いに恵まれまして、この「白菊 金賞受賞酒 大吟醸 720ml」は名古屋さんの山田錦を使用しています。
同じ山田錦でもこんなに違うものかと思わせてくれるのは、名古屋さんのお米なんです。お米の品質が安定すると、麴造りも酒母造りも非常にやりやすく、お酒の香りや味も格段に違います。手前味噌になりますが、この白菊大吟醸はお酒としてのレベルが非常に高く、誰が飲んでも「おいしい」と言っていただけるお酒だと、私は思っています。
特徴としては、まず華やかな香り。味は濃厚で上品なコクがあり、かつ、キレがあります。
「白菊 金賞受賞酒 大吟醸」720ml。
令和6年度の全国新酒鑑評会には全国から828点の日本酒が出品され、
392点が入賞、そのうち195点が金賞を受賞。
―おすすめの飲み方はありますか?
廣瀬 まずは香りを十分楽しんでいただきたいので、10〜15℃くらいの常温で、ワイングラスのように口がやや開き気味のおちょこやグラスで召し上がってみてください。
もちろん、冷たくしてもおいしいのですが、温度が低すぎるとお酒の香りや甘み、うまみが感じられにくくなってしまうんです。
実は、常温ですと渋みとか苦みなど、ネガティブな要素も感じやすくなるのですが、そうならないよう、杜氏が絶妙なバランスで仕上げていますので、ぜひ一度、常温を試してみてください。
香りがとても高いので、料理と合わせるのはむずかしいかもしれません。そのため、食前酒として召し上がっていただくことが多いのですが、あっさりめの前菜でしたら合うと思います。また、このお酒は濃厚でしっかりした味なので、ステーキの脂にも合うんですよ。
まずは、香りを楽しむために常温で。
うすはりの大吟醸グラスに注ぐと、ふわーっと花のような香りが立ちます。
口に含むと、とてもフルーティ。日本酒が苦手、という人にこそ飲んでみてほしい。
きっと日本酒観が変わるはず!
10℃くらいのところで、プチカプレーゼと。トマトのフルーツ感がよく合います。
意外や意外、社長がおっしゃるとおりステーキの脂との相性もなかなか。
―酒蔵を見学することもできるそうですね。
廣瀬 はい。「日本一詳しい酒蔵見学」「五感で感じる酒蔵見学」と銘打って、お客様をお迎えしています。実際に、麴や酵母を造っている様子や、もろみが発酵してプツプツ音を立てている様子など、できれば酒造りの工程、すべてを見ていただきたいです。タイミングが合えば、お酒を搾っているところを見て、搾りたてのお酒や搾った後の酒粕を舌で味わっていただけます。とくにできたての酒粕はいい香りがして、「スーパーに並んでいる酒粕と全然違う」と、みなさん驚かれるんですよ。
酒蔵によっては蔵見学ができなかったり、酒造りの期間はNGというところもありますが、私は、お酒をおいしく味わっていただくためにもすべての工程を見て、感じていただきたいんです。日本酒の世界は奥が深くて、私たちでもまだまだわからないこと、知らないことがたくさんあります。その奥深い世界を、みなさんと一緒に日々、体験したい。ぜひ、酒造りの期間に蔵にお越しいただけたらと思います。あらかじめご連絡をいただければ、私が2時間でも3時間でもご案内します。
―廣瀬社長の日本酒愛がひしひしと伝わってきます。では最後に、今後のビジョンをお聞かせいただけますか?
廣瀬 私のところは小さな酒蔵ですが、杜氏をはじめ蔵人たちは手間ひま惜しまず、ていねいに丹精込めてお酒を造っています。ぜひ、多くの方に「白菊」を知っていただきたい。日本酒というのは、地域の伝統的な行事や風習、食文化と密接に結びついています。ですから、「白菊」を飲んでくださった方に、ここ石岡の風景や人々の暮らしに思いを馳せていただけるような、そんなお酒を造っていきたいと思っています。
また、いまはインバウンドの方々をはじめ外国の方たちに関心を持っていただいていて、現時点では10か国に輸出しています。今後も、日本の国酒である日本酒を海外にもアピールしていきたいと考えています。
―外国にいても、「白菊」を飲んだら石岡の風景が目に浮かぶ……なんて素敵ですね。夢を感じます。素晴らしいお話をありがとうございました。
「白菊 金賞受賞酒 大吟醸」720ml
価格:¥5,500(税込)
店名:廣瀬商店
電話:0299-26-4131(平日8:00〜12:00/13:00-17:00)
定休日:土日祝祭日・8/13-16・12/30-1/4
オンラインでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://shiragiku-sake.jp/sake/shiragiku-gold-daiginjyo/
オンラインショップURL:https://shiragiku-sake.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
廣瀬慶之助(合同会社廣瀬商店 八代目)
1972年茨城県生まれ。1996年、廣瀬商店入社。1997年に国税庁醸造研究所(現独立行政法人酒類総合研究所)にて研修生として醸造の研究に従事。2007年にリキュール開発。2012年、海外進出。現在、10か国に日本酒、リキュールを輸出している。
<取材・文・撮影/鈴木裕子 MC/伊藤マヤ 画像協力/廣瀬商店>