お取り寄せや贈答品として人気の高い牛肉。特に、おいしいブランド和牛は、誰にでも喜んでいただける贅沢な一品です。今回、編集長アッキーこと坂口明子が見つけたのは、農林水産大臣賞をはじめ数多くの賞に輝いた「前沢牛オガタ」です。生産から精肉、販売まで、一貫して行っているこだわりのお肉について、代表取締役社長の小形守氏にお伺いしました。

有限会社前沢牛オガタ 代表取締役社長 小形守氏

―御社の成り立ちから教えてください。

小形　先代の父が、「馬喰（ばくろう）」という農耕馬や牛の取引をしていたのですが、私が中学生の頃でしょうか、前沢牛の飼育を本格的に始めました。
私も、幼少の頃から、いずれ牛を育てたい、育てるだけじゃなくて販売もしてみたいと、同級生などにも話していたくらいに牛が好きで、大学を出てから肉問屋で3年ほど修行し、小形畜産に肥育担当として入社しました。肉問屋での経験は、牛の生産と精肉の中間地点を見ることができ、今につながっています。

「牛匠 小形牧場」の黒毛和牛肥育のプロフェッショナルたち。
おいしい牛肉づくりのために、牛の気持ちを汲み取り、日々こつこつと地道な努力を積み重ねている。

―「前沢牛オガタ」の社長に就任されたきっかけは？

小形　1990年に小形畜産の牛が、栄誉賞をいただいたのですが、その時にお客さまが見学にいらして、「小形の肉はどこで売っているの？どこで食べられるの？」という質問を多数いただきました。それで、1993年に「前沢牛オガタ」を作り、精肉とレストランを始めました。私が37歳の時に社長になって、29年が経ちました。

精肉店「前沢牛 オガタ」。岩手県奥州市前沢に店舗を構える。
焼き肉やステーキがいただけるレストラン「牛匠 おがた」も展開している。

―肥育のお仕事から、いきなり精肉・販売、レストランのお仕事に？

小形　実は、店は私がやる予定ではなかったのですが、父がオープン2週間前に病に倒れてしまい、急遽、私がやることになりました。小売の経験はありませんでしたから、もうがむしゃらでした。
肉屋というのは12月が一番忙しいのですが、立ち上げは11月でした。オープンすぐに繁忙期になり、朝から晩までスライサーの前に立つことになりました。徹夜してカットしてもすぐに売り切れてしまう状態で、切っても切っても間に合わないような日々でした。
その後も運転資金が足りなくなったりと苦労の連続でしたが、周りの助けがあり、なんとかやってこられました。

―「前沢牛」はやはり人気なのですね。改めて、どんなお肉なのでしょうか？

小形　「前沢牛」というのは、地域のブランド牛です。旧前沢地域内で肥育し生産した牛で、岩手ふるさと農協協同組合を経由して販売された黒毛和牛のことです。肉質等級は「A4」以上であることを基準にしています。

全国的に有名なブランド牛「前沢牛」。最高級の証である霜降りは、しっかりとした甘みと濃厚な旨味が特徴。

―小形畜産では、飼料も自社で開発されているとか？

小形　飼料の会社「宝山」を作ったのは、東日本大震災の頃のことです。その前年にリーマンショックがあり、とうもろこしがバイオエタノールの原料として高騰し、輸入飼料に頼る畜産の将来が危ぶまれました。そのため、仲間と一緒に飼料工場を作ったのです。
震災前の1月に会社を作り、機械を発注したのですが、3.11に震災がありました。東北の飼料工場が軒並み津波被害に遭い、牛に食べさせる餌もない状態になりました。アメリカからの船も来ず、機械がやっと来たのが5月、餌作りが始まったのが7月でした。その時は、どうやって社員にお給料を払っていけば良いか、心労で入院してしまったほどです。

―ご苦労の末にできた飼料とはどんなものなのでしょうか？

小形　発酵飼料というもので、食品残渣を乳酸発酵させたものです。消化吸収がよい飼料で、牛の生育に非常によく、肉質に良い影響を与えます。
原料は、おからや、ウィスキーの搾りかす、ビールかすなど。夏は扇風機、冬は暖房で温度を厳重に管理しています。いい状態で発酵すると、とてもいい匂いがします。手数がかかるので大量にはできませんが、大手にはできない良質な飼料になっています。
この餌で育てた牛は「脂の質がくどくない」とはよく言われます。また、しゃぶしゃぶをしてもあくが少ない。あくというのは血液の汚れなのですが、それが少ないということは、それなりの餌をやっているからだと自負しています。

発酵飼料は、「環境に優しい」「これからの資源循環型社会における一つのあるべき姿」としてエコフィード認証を受けている。

―オガタの肉が数々の賞に輝くのは、それも理由なのですね。

小形　牛を大事に、じんわり育てているのが一番の理由かと思います。牛が好きな人でないとできないです。いかに人が手数をかけるかにかかっています。
一番手がかかるのは、実は、敷物、牛の寝床です。寝ている姿を見てほしいのですが、満足した牛は必ずゆったり寝そべっていますし、食事以外では無駄に鳴くことはありません。牛は食べたら横になって消化する動物です。だから、ゆっくり寝転べるところをいかに作るか、寝転べる環境づくりがいい肉を作るのだと思います。

ゆったりとまどろむ牛たち。お腹いっぱいに食べたあと、寝ながら噛み返し（反芻）、リラックスして消化する。

―牛の寝床が大切なのですね。

小形　あと、稲わらです。本当にいいものが取れる地区は、岩手県南、宮城沿岸、福島沿岸。太平洋気候で冬に空気が乾いているため、良質な稲わらになります。地元の稲わらを使っている農場は珍しいと思います。日本人は稲の文化なので、それを食べている牛の肉は、日本人に合っているのではないでしょうか。

―今回ご紹介いただいた、ミスジステーキについて教えてください。

小形　ミスジステーキは、100gでもしっかりした厚みがあります。サーロインは大きいのでどうしても薄くなってしまうのですが、ミスジは厚みが取れます。ステーキに向いていて、霜降りに属する部位です。リピート率が高い人気の商品です。

しっかりとパックされて冷凍で届く。解凍しても、ドリップはほぼ0だった。牛脂も付属。

厚みのあるミスジステーキ。塩コショウして、牛脂で焼き目をつける。焼き方はホームページでも紹介している。

小形　焼き方のコツは、蒸らすのが大事。一番炎の強いところで焼いたら、少し馴染ませる。アルミホイルに包んで、焼いた時と同じくらいの時間蒸らしてカットして食べてみてください。

しっかり焼き目をつけたら、アルミホイルに包んで蒸らす。

小形　肉汁が安定しておいしいステーキになります。塩胡椒だけでも、お好みのソースをかけてもいいですし、お醤油にわさびでもいいですね。

ミディアムレアの焼き加減が自宅でも簡単にできた。繊細なサシが入っているので柔らかく、
口の中でとろける脂は、しっかりとした旨味と甘みがあるのにまったくくどさがない。

―ビーフカレーの方は、レトルトカレーで全国6位になったとか？

小形　NIKKEIプラス1「レトルトで楽しむご当地カレー」にて、約3,000種類の中より6位になりました。創業以来販売しているロングセラーです。お肉はどこの部位ということではなく、ほとんど全ての部位が入っています。肉屋のカレーだから肉をいっぱい入れよう、というのがコンセプトです。1袋に約100g（原料で）入っています。

レトルトの中に、大きなお肉の塊がゴロゴロと入っている。
こちらもとろけるほど柔らかいお肉。ビーフの旨味をダイレクトに感じる贅沢カレー。

―今後の展開について教えてください。

小形　お客様に「空気の衛生についてはどう考えているの？」と聞かれてから、衛生工場の「岩手ファーマーズミート」を設立しました。オゾン殺菌により、工場内は清潔に保たれています。

「岩手ファーマーズミート」の工場内。入場の際にはエアシャワー、パッキングの際には異物検出機を必ず通過すなど、
最新の設備と厳しい衛生基準のもと、製造・加工をしている。

小形　弊社は「プロトン凍結機」を業界で先駆けて導入しました。これは、牛肉の細胞を破壊せずに冷凍出来るため、解凍してもドリップがほとんど出ず、まるで生のような鮮度と美味しさを再現出来る、これまでの常識を覆した革新的な冷凍機械です。この工場から海外への輸出にも挑戦したいと考えています。

―日本の最高級和牛「前沢牛」が世界に羽ばたく日が楽しみです。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

「前沢牛ミスジステーキ･ビーフカレーセット」
価格：￥5,100（税込）
店名：前沢牛 オガタ
電話：0197-56-0298（10:00～18:00水曜日･年末年始を除く）
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL：https://maesawagyuogata.com/item-detail/1537735
オンラインショップ：https://maesawagyuogata.com/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

＜Guest’s profile＞
小形 守（有限会社前沢牛オガタ 代表取締役社長）
1979年 大学卒業後、東京都内の精肉仲卸業者に入社。1983年「株式会社小形畜産」（黒毛和牛肥育･繁殖）に入社。1995年「有限会社前沢牛オガタ」を設立し、代表取締役に就任。2011年「株式会社宝山」（飼料製造･販売）設立、代表取締役に就任。2014年「株式会社岩手ファーマーズミート」（精肉加工･卸）設立、代表取締役に就任。

＜文・撮影／尾崎真佐子　MC／澤水拳太　画像協力／前沢牛オガタ＞