今回、編集長アッキーが気になったのは、神奈川県茅ヶ崎の蔵元が造るクラフトジンです。熊澤酒造株式会社 代表取締役の熊澤茂吉氏に商品の魅力を取材陣が伺いました。
茅ヶ崎の蔵元が造る湘南の食文化に寄り添ったお酒「クラフトジン 白天狗/ノーマル」
2024/11/28
―創業の経緯を教えてください。
熊澤 1872年(明治5年)に茅ヶ崎で創業しました。創業当時の茅ヶ崎は海辺にはほとんど人が住んでいなくて、内陸の方では水田地域として田んぼが多かったんです。産業もほとんどなかったのですが、うちの家は大きな農家で田んぼをたくさん所有しており、明治になって造り酒屋に参入しました。
関東大震災のときはお酒がすべて流れ、第二次世界大戦のときに酒蔵を半分に減らさなければならなくなり、時代とともに危機はありましたが、乗り越えてきました。私で6代目になります。
天狗がモチーフのクラフトジン。
―家業を継がれるまでの経緯を教えてください。
熊澤 僕がバブルの最後の年の世代で、日本中がおかしくなっているような時に大学生活を送っていました。日本から一度離れて違う場所に身を置きたいという思いがあり、卒業後はいったんアメリカに留学しました。
当時、祖父から叔父が引き継いでおりましたが、父は継いでおらず違う事業をしていました。そのため自分が継ぐという意識はなく、父の事業にも興味がなく、自分が何をしたいのか模索しているところでした。父も「海外に行って視野を広げた方がいいんじゃないか」と留学には賛成してくれたのです。ただ3ヶ月くらいしか学校には行かず、旅をしながらいろんな経験をしました。
ただ、その頃、祖父がケネディ宇宙センターのスペースシャトルの発射を見たいと言って、アメリカに遊びに来たことがありました。具体的な話はなかったものの、僕にあとを継いでほしいという気配を感じたのです。
その後、父の会社が経営危機に陥り、熊澤酒造も赤字が続いていたので、廃業して敷地を全部売却して、一族が生き残れるようにしようという計画があると母から聞いて、帰国することにしたのです。
湘南地域には過去他にも酒蔵がありましたが、今では酒蔵はうちの1軒しか残っていませんでした。最後の酒蔵であるということに使命感を感じ、次の世代に残していきたいと思ったのがあとを継ぐことになったきっかけです。
―社長に就任されてから力を入れられたのはどんなことでしょうか。
熊澤 入社したときは造り酒屋として継続が非常に苦しい状態だったので、まずはお酒を売ることを一生懸命にやっていました。どうしたらお酒が売れるのか考えたとき、安い酒が中心で、地元の人たちが欲しいと思う銘柄になっていないことに気づき、お酒造りを根本から見直しました。いい酒造りをした時に今度はどう販売するかが課題で、問屋に流すのではなく、自分たちで販売する力をつけようということで、飲食店兼直売所の運営が始まりました。
また、地ビールが解禁された時期で、湘南という土地柄、ビールとは非常に親話性が高かったので、酒造りの醸造技術を活用してビール造りも始めました。冬は日本酒、夏はビールと2本柱にして、生き残りをかけてきました。
―地元との関わりはどうされてきましたか。
熊澤 自分たちがビールを造っている敷地に来てもらって飲んでもらい、気に入ってもらいたいと考えていたので、場所づくりが肝心でした。最初はビアレストラン1店舗から始まったのですが、ダイニングレストランとして食事を充実させ、ビールの副産物としてパンを作り始めました。酒蔵の方には和食のお店も作り、地元の人たちが楽しめる場所を作っていきました。
―今回ご紹介するクラフトジンを作られたきっかけを教えてください。
熊澤 建物もそうですが、古くても良いものなのにどんどん消えていき、昔の習慣がなくなっていくのをすごく危惧しています。酒粕はもともと日本では栄養分も味わいも重宝されていたのですが、食材が増えて、忘れられた存在になり、流通しなくなって廃棄する比率が増えていました。
当社ではレストランの料理やベーカリーで活用をしていましたが、もっと活用できないか考えていました。もともと冬にお酒を造ってそこでとれた酒粕を使って、夏の間に焼酎を造る文化があったので、焼酎を造る設備を導入したのですが、「粕取り焼酎」は匂いが特徴的で、今の湘南の食文化には合わなかったのです。
しかし、ジュニパーベリーというセイヨウネズの実を入れると、ジンという名前に変わることがわかり、一度酒粕を再醗酵させてから蒸留して焼酎を作り、その中にジュニパーベリーを漬け込み再蒸留するという手法で作ることにしました。
ちょうどコロナ禍が始まった時期で、醸造スタッフも少し手が空いたので、一気に商品化に突き進んだという感じです。
じつは2001年に、蔵を改修して和食レストランにするために整理をしていたら古い蒸留器が見つかったんです。そこで以前、当社も酒粕を使って蒸留していた歴史がある事を知りました。それが巡り巡って100年ぶりに復活したのです。
―商品の特徴や最もこだわった点はどういったところにありますか。
熊澤 うちはお酒もビールも食中酒ということをコンセプトにしていて、湘南の食文化に寄り添ったようなお酒を目指しています。ジンは香水のように香りを華やかにするのがウリになることが多いのですが、うちの場合は酒粕から誕生しているので、お米の味わいが感じられて、お食事とも合わせやすい穏やかな香りが特徴です。
ジンはジュニパーベリー以外にいろんなハーブやスパイスを入れますが、うちは一切入れずにジュニパーベリーと酒粕の味わいだけで作り、それが飲みやすさにつながっていると思います。
どんどん足していくのとは違って、引き算で素材の良さを表現するようなものにできたかなと思います。
―素材へのこだわりを教えてください。
熊澤 5年前から地元の水田が減ってきている現状を目にし、水田を残すためにも農業部門を作って、自社米を栽培し、地元で作った米をお酒にしていく活動をしています。今全体の35%が地元の米です。ジュニパーベリーも苗を植えているので、数年後には地元でとれたものでジンを造ることができると思います。地元の農家さんのレモングラスを使ったジンも誕生しました。
ロックで。
―商品名の天狗の由来を教えてください。
熊澤 神奈川県は天狗の伝説が多く、日本昔話でも、茅ヶ崎の河童の話は非常に有名です。もともと日本酒が河童のモチーフでしたが、水の妖怪に対し、山の妖怪として天狗に登場してもらい、ジンやウイスキーのモチーフにしました。
―おすすめの飲み方や合わせたい料理を教えてください。
熊澤 ストレートはもちろん、ロックにすると香りが広がり、良さが伝わると思います。
炭酸で割ったり、トニックで割るとカクテルとして非常に飲みやすくなります。割ってもジンの良さがしっかり残るので、おいしく飲めます。
料理は、トニックウォーターと合わせた場合は、食前にちょっと飲むと胃が活性化されて食欲が湧いてきます。ロックは寝る前に飲むと気持ちよく眠れるでしょう。
当社では日本酒を造っているチームでジンを造っているので、和の食材にも合わせやすいものに仕上がっていると思います。
炭酸水で割って。
レモンと蜂蜜のお湯割り。
―お客様からの反響はいかがでしょうか。
熊澤 ジン自体の味わいが楽しめるので、ジンがそれほど好きじゃなかった人がジン好きになったという声も聞きます。まずはロックで飲んで、味わいを確かめていただきたいですね。
―イベントにも力を入れていらっしゃいます。
熊澤 酒屋さんとかスーパーができる前は、酒蔵は地域の人たちが集まる場所でもありました。10月はオクトバーフェストというイベントを毎年行っており、常連さんが楽しみにしてくれています。
お客様には商品を買うだけではく、蔵に来ていただいたり、イベントに参加してもらったりして、当社の活動全体を応援していただけるような取り組みをしていきたいと思っています。
―今後の展望をお聞かせください。
熊澤 湘南という地で、すべて全量地元産で酒を造ることを達成するのが大きな目標になっています。
ウイスキー造りも行っていて、11月1日に4年かかってやっと発売ができます。これからは日本酒、ジン、ビール、ウイスキーの醸造と蒸留の取り組みが始まっていきます。ジンを気に入っていただいたら、次はウイスキーの方も興味持ってもらえるとうれしいです。
―貴重なお話をありがとうございました。
「クラフトジン 白天狗/ノーマル」
価格:¥4,950(税込)
店名:熊澤酒造
電話:0467-52-6118(8:00~17:00)
定休日:土日祝日 インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://store.kumazawa.jp/products/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88%E3%82%B8%E3%83%B3%E7%99%BD%E5%A4%A9%E7%8B%97
オンラインショップ:https://store.kumazawa.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
熊澤茂吉(熊澤酒造株式会社 代表取締役)
1969年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。アメリカ留学を経て1993年に熊澤酒造株式会社に入社。日本酒の新ブランド「天青」、地ビール「湘南ビール」などを開発。1997年代表取締役就任。6代目蔵元。
<文/垣内栄 撮影/坂口明子 MC/木村彩織 画像協力/熊澤酒造>