小麦の産地から全国へ。コク深い特製つけ汁で味わう「埼玉名物 肉汁うどん」
2024/11/29
おいしい“うどん”を探し求めていた編集長アッキー。ついに出合ったのは、麺作り一筋70余年の株式会社岩崎食品工業が手掛ける「肉汁うどん」。古くから埼玉県で食されてきたという郷土の味の発信に情熱を注ぐ、代表取締役社長の神田広人氏に、そのおいしさの秘密や誕生秘話を伺ってきました。
株式会社岩崎食品工業 代表取締役社長の神田広人氏
―70余年の歴史を持つ岩崎食品工業さん。社長は何代目にあたるのでしょうか?
神田 私で3代目です。1951年に父が創業し、その3年後、前身となる「有限会社 岩崎製麺工場」を設立しました。私自身は大学卒業後、日本製粉(現・ニップン)で7年ほど営業職についていたのですが、そのあとこちらに帰ってきて製造から営業までひと通りの業務を経験。現会長である兄の代を経て、2018年に代表取締役社長に就任しました。
ー以前は小売店や飲食店への販売が中心だったそうですね。一般に販売するようになったきっかけは?
神田 これまで製麺会社として、さまざまな麺の製造販売をして参りました。市販品は大きなスーパーマーケットなどに、業務用は飲食店などに販売してきたわけですけれども、この業態だとどうしても相手に依存してしまうんです。我々がいくら頑張っても、販売先が閉店してしまってはどうしようもないですよね。それを打破するために始めたのが、お客様へダイレクトにお届けできる自分たちのブランド作りでした。
「オレンジマン神田」の名でYouTubeチャンネルも開設。
スポンサーを務めるJリーグ所属クラブ「RB大宮アルディージャ」を応援する活動や、自社の麺へのこだわり・魅力を発信中。
―「肉汁うどん」は社長の発案で商品化されたそうですね。
神田 「肉汁うどん」という食べ方自体はもともとあったのですが、それが珍しいものだということに誰も気がついていなかったというか。“埼玉名物”と謳って商品化したのは、うちが初めてだと思います。埼玉県民でも知らない人が多いのですが、実は埼玉はうどんの名産地で、生産量は香川に次いで全国第2位。うちのような製麺屋も多いし、うどん屋さんもたくさんあります。私たちはそれをもっとアピールしていかないといけないと思っていて。
県内のうどん食文化は「武蔵野うどん」「加須うどん」「熊谷うどん」をはじめ、地域によってさまざまな特色がありますが、共通して食べられるポピュラーな食べ方のひとつが、茹で上がった麺を冷水で締め、豚肉やネギなどを加えた温かいつけ汁で食べる「肉汁うどん」です。全国的に、冷たい麺は冷たいつゆで食べるのが一般的ですよね。でも、肉汁うどんの場合は“温かいつけ汁”なんです。そこに目をつけて売り出したのがこの商品です。
小麦栽培が盛んな埼玉県。
郷土料理「肉汁うどん」は、古くから地元に根付いている豊かな粉食文化の賜物。
―名物として広めるために、さまざまな試みを行われたとか。
神田 とにかくお客さんに食べてみてもらう、ということを地道に続けていました。6年ほど前から月に1度開催していた「麺バザール」もそのうちのひとつ。地元の方にもっとうちの商品を買って、食べてもらいたいという想いから企画した直売イベントです。
色々な商品をお求めやすい価格で提供して、肉汁うどんの試食も出して、ということを懲りずに続けていると、農協さんをはじめ、うち以外にも出店してくれる方々が集まってきて、テントの数も増加。お客さんが列をなすようになってきたんです。
その様子をSNSにあげていたらメディアで紹介されるようになり、テレビで放送されたときにはかなりの反響がありました。来場者数は5,000人にのぼり、売り切れ続出。その後も毎月、肉汁うどんを目当てにたくさんの方が来てくださるので、改めて肉汁うどんの可能性を実感し、埼玉名物としてどんどん売り出していきました。
「麺バザール」は現在休止中ですが、
毎月第一金・土・日曜に工場直売店「翁の郷」にて肉汁うどんの特売を開催。
都合により変更される場合もあるため、訪れる際は事前にSNSで確認を。
―それが人気に火がつくきっかけになったんですね。
神田 もうひとつターニングポイントになったのは、サービスエリアへの出店です。2019年、東北自動車道上り線の蓮田サービスエリアが拡張したタイミングで声をかけていただいて、肉汁うどんの専門店を出しました。
それまで作っていた生麺は提供までに時間がかかりすぎ、サービスエリアで使うには不向きだったので、短時間で提供できて保存もきく冷凍うどんを開発しました。すると爆発的に人気が出て、サービスエリアの顔のような存在に。それでお土産として買って帰っていただける商品も作ろうということになって完成したのが乾麺タイプです。
2021年に行われた「第1回 Made in SAITAMA 優良加工食品大賞」では、この乾麺の肉汁うどんが大賞を受賞しました。
常温で3ヵ月保存できるので、お土産や自宅用の買い置きにも◎! 手軽に本格的な肉汁うどんが味わえる“特製つゆ”付き。
―乾麺の原料は、塩と水と小麦だけと非常にシンプルですね。
神田 我々が大切にしているのは、つきたてのお餅のような食感や味わいのあるうどん作りです。県内ではさまざまな種類の小麦が栽培されていますが、肉汁うどんに使用しているのは、もち性小麦「あやひかり」を使用した小麦粉。どんな小麦粉でもタピオカでんぷんなどを加えるとモチモチした食感を出すことはできるのですが、混ぜものをしている分、小麦の味が希薄になるというか、噛んでいった時にめんの甘みが出てこないんです。だから余計なものは加えずに、塩と水、小麦だけで作っています。
ー製法へのこだわりをお聞かせください。
神田 手打ちうどんって、生地を休ませたり、少しずつ綿棒で縦横に伸ばしたりして作られていますよね。食感の良いうどんに仕上げるためには、それらの工程が必要なんです。それをどこまで機械に置き換えられるかということに心を砕いています。機械による生産技術が向上しても、手打ちのほうが絶対おいしいんですよ。だけど、人の手で生産できる量には限りがあるじゃないですか。それでは皆さんに商品をお届けできませんので。限りなく手打ちに近い品質をいかに機械で再現するか、そこにこだわっています。
寒い季節には冷水で締めた麺をお湯で再度温め、“あつ盛り”にして食べるのもおすすめ。
―つゆにも特徴があるのでしょうか?
神田 肉汁うどんは、豚肉やネギなどを煮込んだつゆにつけて食べるのが一般的です。商品に具材は入っていないのですが、少し加えるだけで一段と味わいに深みが出るのでぜひご用意いただければと思います。でも、たくさん入れるとなるとその分お金もかかってしまうので、ほんの少しの具材でもおいしく召し上がっていただけるよう、あらかじめスープのなかに肉のエキスを加え、コクのある味わいに仕上げています。醤油にもこだわっていて、埼玉県日高市にある弓削多醤油さんの埼玉県産小麦・大豆を使用した醤油を使っています。このつゆだけ欲しいという人も多くて、家庭用にペットボトルタイプも発売しました。
肉のうまみが加わった甘めのつゆがコシのある麺によく絡む。
―最後に、今後の展望をお聞かせください。
神田 今後は海外にも対応していきたいと思っていて、プラントベースのつゆを添付した乾麺・冷凍うどんの商品化を進めています。ヨーロッパには動物性原料を含む食品を輸出できないので、きのこや野菜の旨みをいかした「つけ汁うどん」として、醤油味とカレー味を展開します。2月にフランスで行われる農業見本市にも出店する予定ですし、9月にはアメリカにも商品を持って行く予定です。そして、私は今60歳なんですけれど、65歳になったらヨーロッパでレストランをやろうと思っているんです。だから、それに向けて海外へ日本食を広めていく活動にも取り組んでいきたいですね。
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
「埼玉名物肉汁うどん(乾麺)」(3人前)
価格:¥1,050(税込)
店名:島田造りめん 翁の郷
電話:0120-8733-07(9:30~17:00 火・水休み)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/okina-sato/02-171/
オンラインショップ:https://www.rakuten.co.jp/okina-sato/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
神田広人(株式会社岩崎食品工業 代表取締役社長)
1963年埼玉県蓮田市生まれ。明治大学を卒業後、日本製粉株式会社(現・株式会社ニップン)に就職。1992年株式会社岩崎食品工業に入社、2018年に代表取締役社長に就任、現在に至る。
<文・撮影/野村枝里奈 MC/石井みなみ 画像協力/岩崎食品工業>