富山のみりん干し専門店の挑戦 干物をお菓子に変化させた「UOGASHI流チーズケーキ」
2024/12/16
今回、編集長アッキーが気になったのは、みりん干しが入ったチーズケーキです。商品を製造・販売している有限会社中村海産 代表取締役の中村康紀氏に商品の魅力を取材陣が伺いました。
有限会社中村海産 代表取締役の中村康紀氏
―創業の経緯を教えてください。
中村 大正10年、1921年に創業して、今年で103年目です。当初は一夜干しや煮干し、みりん干し、魚の搾りかすから作る肥料を扱っていました。その後、化学肥料が主流になり、みりん干し、煮干し、一夜干しの製造・販売で生き残ってきました。先代社長の父親が2000年に工場を増改築して、みりん干しの製造に特化した専門工場を作り、みりん干し専門店として工場を立て直しました。生協の宅配の販路を少しずつ広げるなどして規模を拡大していきました。
イタリア産マスカルポーネチーズとみりん干しペーストが絶妙な
バランスで融合した唯一無二のチーズケーキ。
―社長に就任されたきっかけを教えてください。
中村 父親が60歳のときに「あと5年後にお前に譲るからそれまで準備をしておけ」と言われたのが2016年です。自分の代になる頃には、既存の取引先の売上げが下がると思っていたので、どう補填するか考えると新規取引先を探すしかありません。そのため、東京ビッグサイトで毎年行われている水産の展示会に出展し続けて、毎年1〜3社の新規取引先を見つけて、販路を拡大してきました。
2020年の4月に「明日から出社しないから会社のことは任せる」と言われ、とうとう自分だけでやるしかないという状況になりました。新規開拓による売上げもあり、なんとか1年間乗り切ることができ、父親の言葉どおり2021年に私が社長に就任しました。
―仕事をする上でのモットーを教えてください。
中村 若い頃からいろんな人に迷惑をかけながらよくここまで死なずに生きてきたなという感じです。20歳の頃、急性肝炎になって、26、7歳のときに縦隔腫瘍を患い、右肺の半分を摘出し、抗がん剤治療を受けました。その後、うつ病にもなったのですが、今は体調に問題がない状態です。死ぬこと以外の失敗はどうとでもなると思いながら、なにごとも楽しんで生きるようにしています。できないことを考えるよりできることを100個考えて、そのうちの1〜10個ぐらいを実践していけばいい。今回、UOGASHIというスイーツブランドを立ち上げたのもまあなんとかなるだろうと思ってスタートしました。
会社のこだわりの一つ目が食品添加物不使用です。自然な素材そのものの味を楽しんでもらえます。また食べたくなる、どこか懐かしい味が醍醐味です。二つ目は簡単手軽で便利に調理できることです。みりん干しは忙しい朝の一品として、夜のおつまみをサッと出したいときなどに重宝されています。三つ目は焼いた後、冷めても柔らかいのが特徴です。お弁当にもぴったりです。
みりん干しは甘くて魚嫌いの子どもでもおいしく食べられます。世界中の魚嫌いの子供たちをゼロにする、魚好きを増やすというミッションがあり、大事にしていきたいと思っています。
さまざまな魚のみりん干しを扱っている。
―UOGASHI流チーズケーキを開発されたきっかけを教えてください。
中村 うちはみりん干し専門店で、年間で170万パックほど製造していて、その中の6、7割がししゃもです。毎日300キロから500キロぐらい製造しているなかで、割れ欠けのみりん干しが毎日5キロ、10キロぐらい出てきます。おまけとして店頭小売りで出したり、生協宅配のウェブ限定品として販売したり、フードバンクさんや子供食堂さんへの寄付をしたりしているのですが、それでも余ってしまうものは、お金を払って廃棄せざるを得ません。もったいないのでなんとかならないかと考えていたときに、知り合いのシェフが短期で移住してくることになり、商品開発に携わってもらったのが始まりです。
「みりん干しは甘いからスイーツにできないか」「ペーストにしたらなんでもできる」というシェフの言葉から、ありとあらゆるスイーツが頭の中に浮かんできて、すごくワクワクしました。
―開発にあたりご苦労はございましたか。
中村 最初はみりん干しジェラートを作ってみましたが、食品製造の営業許可において、アイスクリームなどの乳製品はハードルが高いことがわかり、あきらめました。次にチーズケーキを考えてスタートしたのが去年です。1年ほどかけて商品開発をしましたが、シェフが材料にこだわって作るとどんどんおいしくなります。100回以上の試作を重ね、最終的に原価が上がってしまいましたが、とびきりおいしいチーズケーキが完成しました。おいしくないものは作りたくないですし、自分が毎日食べても飽きない商品を世に広めていきたいなと思って作っています。
もともとはBtoB向けにも考えていたのですが、チョコレート、バターなどの原材料が不足しがちな昨今、希望の材料が手に入りにくいことがわかりました。材料仕入れが安定していないので、BtoCや直売、オンラインだけでやっていくつもりです。また、百貨店さんの催事やイベント出店で、UOGASHIを少しずつ広めていきたいなと思っています。
チーズケーキは製品化しましたが、シェフが味をアップデートし続けているので、まだまだおいしくなっていくと思います。
―UOGASHI流チーズケーキの美味しい食べ方はございますか。
中村 お酒やコーヒーとのペアリングはおすすめです。なかでもウィスキーのアードベッグとチーズケーキは時間とともに香りや、コク、味わいの変化を楽しめ相性が抜群です。冷蔵庫から出したチーズケーキ、グラスに注がれたアードベッグは時間が経つにつれ、それぞれが変化し、ペアリングの感覚、食感など感じ方も変わってくるので、ゆったりした時間の中で食べていただきたいと思います。濃い目のコーヒーはおいしいのですが、お水やお茶とは相性が良くないので、お気をつけ下さい。
お酒と合わせて大人向けのスイーツとしても楽しめる。
―今後の抱負をお聞かせください。
中村 20年後、30年後、50年後にこれから日本の人口が減り、魚を食べる習慣がなくなってきたとき、どうやったら会社が生き残っていけるかを考えています。将来のことを考えて、海外輸出にも力を入れており、現在はオーストラリアと香港に輸出しています。HACCPの認証を取得し、アメリカ向けの輸出もできるようになりました。ゆくゆくは、世界のいろんな地域にみりん干しを輸出していきたいです。
甘い味付けの魚は世界中にあまりなく、水産加工品というより、スナックだとよく言われます。栄養のあるスナックとして、名前と作り方と売り方を変えて、海外に出していくための活動をしているところです。
スイーツでは、次はかりんとうの販売を考えています。実はシェフがカフェも始めていて、直売ではかりんとうを販売しています。オンラインでの販売は年明けを予定しています。
また、「氷見ージョ」といういわしのアヒージョ缶詰も好評です。メインはあくまでもみりん干し事業なので、缶詰は1日50個ほどしか作れません。そのため富山県内の取引先限定で販売していますが、これからオンライン販売も検討中です。パスタや野菜炒め、カレー、うどん、そうめんなどにも合い、アレンジレシピもしやすい缶詰です。
新しい缶詰で富山の新名物を目指している。
―貴重なお話をありがとうございました。
「UOGASHI流チーズケーキ」
価格:¥3,200(税込)
店名:中村海産オンラインストア
電話:0766-72-0596(8:00~16:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://himi-ynk.co.jp/?pid=182609699
オンラインショップ:https://himi-ynk.co.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
中村康紀(有限会社中村海産 代表取締役)
1984年3月5日生まれ。2021年7月に有限会社中村海産代表取締役に就任。子供の頃から事故、病気、怪我があり、いつ死んでもおかしくないことを経験してきたからこそ、人生を楽しんで活動している。
<文/垣内栄 MC/田中香花 画像協力/中村海産>