200年の伝統が醸す「天狗舞 山廃仕込純米酒」加賀百万石の洗練された文化が生んだ芳醇な味わいを
2024/12/27
今回編集長アッキーが注目したのは、石川県を代表する日本酒銘柄「天狗舞」。天然の乳酸菌を活かした複雑な味わいで、国内外から高い評価を受ける銘酒です。そのつくり手は、石川県白山市にある創業200余年の酒蔵・株式会社車多酒造。9代目にあたる車多慶一郎氏に、これまでの歴史や酒づくりにかける想いを取材陣が伺ってきました。
株式会社車多酒造 専務経営企画室長の車多慶一郎氏
―2023年に創業200周年を迎えられたそうですね。その長い歴史について教えてください。
車多 1823年を創業の年としておりますが、実はそれ以前は菜種油の製造を生業としていました。あるとき初代が大阪を訪れ、そこで飲んだお酒がとてもおいしかったそうなんです。その味が忘れられず、自分でもつくりたいということで、加賀藩主である前田家に嘆願して酒づくりへと事業を転換しました。その後、1877年頃に「天狗舞」という銘柄が誕生したと伝わっています。
─車多酒造さんと言えば「天狗舞」。山廃仕込みの代名詞ともなっている銘柄ですね。
車多 今では「山廃仕込みといえば天狗舞」と、多くの方に知っていただけておりますが、大きな転換点となったのは1970年代。山廃仕込みは伝統的な製法の一つですが、車多酒造も含め、当時この製法を採用している蔵はほとんどありませんでした。これを再興させたのが、杜氏の中三郎と、7代目である私の祖父です。
─どんな製法なのですか?
車多 通常の2倍以上の時間をかけ、蔵独自の天然の乳酸菌を使って仕込みます。小さなタンクで発酵のスターターをつくり、じっくりと育てていく。時間も手間もかかるのですが、そうすることでより複雑な味わいをもたらし、蔵独自の味わいに仕上がります。
この製法を確立した中三郎は、のちに「現代の名工」や「黄綬褒章」を受賞。能登杜氏四天王の一人として知られるレジェンド的存在となりました。今年4月に引退しましたが、その技術は現在の杜氏・岡田謙治に確実に受け継がれています。
─看板商品「天狗舞 山廃仕込純米酒」の味わいの特徴を教えてください。
車多 山廃仕込みで醸した純米酒をさらに1年近く熟成させ、うまみと酸味の調和が取れた骨格のある味わいに仕上げています。金沢の郷土料理である治部煮やおでんはもちろん、お魚のポワレなどの洋食、さらにはバニラアイスやクレームブリュレなど、幅広い料理と相性が良いのが特徴です。
「天狗舞 山廃仕込純米酒」は、流行に左右されない普遍的な味わい。
山廃仕込み特有の酸味がもたらす奥行きと、
熟成による芳醇な香りと旨味の調和が取れた個性豊かなお酒。
―海外での評判はいかがですか?
車多 とくに欧米のワイン文化圏で高い評価をいただいています。フルボディで酸のある味わいはワインに通じる部分があり、かつワインにない旨味があることで、フレンチなどのペアリングに重宝されています。実際、フランスの日本酒コンクールでは、クラシック酛部門最高の審査員賞とアリアンス・ガストロノミー賞をW受賞しました。
─そういったお酒をつくる上で、御社が大切にしていることは何ですか?
車多 ひとつは「文化」「人」「土地」という3つの要素。それぞれすべてが重要だと考えています。金沢の加賀百万石文化——その洗練された華やかさと武家文化の品格、おもてなしの心が、当蔵の味わい深いフルボディな酒質を形作っています。また、杜氏の存在も欠かせません。というのも、酒づくりにはつくり手の人柄が表れますので。優しい人がつくれば優しい味、尖った人がつくれば尖った味といったように、面白いくらい如実に表れます。そして、私たちの蔵が霊峰・白山の麓にあるということ。神聖な土地と恵まれた水資源も、私たちが醸す日本酒の重要な要素となっています。
石川県特産の二俣和紙の柄を模したラベルです。
片隅には天狗をモチーフにしたアイコンがプリントされている。
車多 もうひとつ大切にしているのは、「原点回帰+」というスローガンのもと、伝統を守りながら新しい表現を追求する姿勢です。現代では発泡性のある日本酒など、様々な流行がありますが、私たちは金沢の食中酒としての伝統的なスタイルを重視しています。もちろん、新しい潮流にも目を向けますが、それらを車多酒造の伝統という枠組みの中で捉え、解釈するようにしています。
熟成によりお酒は濃い山吹色に。
冷やから熱燗まで好みの温度帯で楽しめるが、常温・ぬる燗がとくにおすすめ。
―若い世代の育成にも注力されているのだとか。
車多 現在、蔵人は13名おりますが、そのうちの半数が20代です。ベテランが体現する原点に、若手が新しさをプラスしていく。これもまさに「原点回帰+」です。自然と対話が生まれる風通しの良い環境づくりを心がけ、ベテランと若手が意見を交わしながら、酒づくりを行っています。
─「shu re」もそういった中から生まれた銘柄なのでしょうか?
車多 そうですね。日本酒の原料となる麹をつくる過程では「α-EG」という高い保湿性を持つ成分が生成されます。当蔵の麹づくりは、とくにα-EGが発生しやすい方法をとっていますので、それをいかして肌のためのお酒と美容クリームを販売しています。お酒のほうはたくさん飲んでしまうと逆効果かもしれませんが、毎日少しずつ、そのままストレートで飲んでいただいてもいいですし、カクテルっぽい感じでアレンジして飲んでいただくのもおすすめです。
丹念な酒づくりによって生み出された、肌のための日本酒「shu re 特別純米」。
α-EGを高含有する純米酒を配合し、ふっくらハリのある肌へと導く美容保湿クリームも展開。
―最後に、今後の展望をお聞かせください。
車多 2050年には現在の5〜6割まで飲酒人口が減少すると言われています。そんな中で私たちは、一杯の日本酒から感じていただける「幸福値」をどれだけ高められるか。そういったことを考え、取り組んでいかなければなりません。そのためにも天狗舞を深掘りし、さらに新しい価値を重ねていく「原点回帰+」で、次の世代、そのまた先の世代にも伝統を繋いでいきたいと考えています。
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
「天狗舞 山廃仕込純米酒」(720ml)
価格:¥1,650(税込)
店名:車多酒造オンラインショップ
電話:076-275-1165(9:00~17:00 土日祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://tengumai.jp/SHOP/TG-001.html
オンラインショップ:https://tengumai.jp/
「shu re 特別純米」(300ml)
価格:¥1,650(税込)
店名:車多酒造オンラインショップ
電話:076-275-1165(9:00~17:00 土日祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://tengumai.jp/SHOP/TG-006.html
オンラインショップ:https://tengumai.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
車多慶一郎 (株式会社車多酒造 専務経営企画室長)
1997年石川県白山市生まれ。県立金沢泉丘高校、早稲田大学商学部卒。少年期から家業を継ぐことを意識し、酒造りの勉強を開始。2020年に日本政策金融公庫に入社。3年間融資関連業務に携わる。2023年に車多酒造へ戻り、ワイン輸入卸や日本酒輸出を行う株式会社ヴァンパッシオンに出向。輸出入知識やブランディングに関して理解を深めた。2024年5月、専務経営企画室長就任。伝統を守りながら次の世代に繋ぐための日本酒造りに注力する。
<文・撮影/野村枝里奈 MC/田中香花 画像協力/車多酒造>