最高級の小豆で作った「あんこ」は真似のできないおいしさ。「函館 千秋庵総本家」のカステラ饅頭「函館散歩」
2025/01/27
今回、編集長アッキーこと坂口明子が見つけたのは、北海道・函館の和菓子店「株式会社千秋庵総本家」です。あんこ好きな方からの支持が熱い「どらやき」が看板商品ですが、その賞味期限を延ばし、お土産として進化させた商品があると聞き、取材陣がお話を伺いました。新代表取締役社長の橋淳央氏に聞きます。
株式会社千秋庵総本家 代表取締役社長 橋淳央氏
−2024年に社長就任されたとのことですが、ご経歴を教えてください。
橋 僕は1987年に大学を卒業後、デパートの伊勢丹に就職しました。海外の有名メゾンのバイヤーなどを経験したのち、千葉松戸店の店長を務めました。ここでは閉店を経験したのですが、390人の従業員が崩れ落ちた朝礼はいまだにトラウマです。「もう閉めたくない」「立て直したい」という思いが残り、「継続」が私の仕事のテーマになりました。
それからデパートは構造不況に陥り、不動産事業の関連会社社長なども務めました。ただ最後の仕事はやっぱりデパートがいいと思い、「函館 丸井今井」の代表取締役社長となり、3年ほどで定年を迎えました。すっかり函館が気に入ってしまって、こちらに残ることにしました。東京は暑いですしね(笑)。
創業160年の歴史を感じさせる店舗。観光客はもちろん、地元の人も日常的にお菓子を求めて通う。
―千秋庵総本家との出会いは?
橋 いくつかの企業とお話はしていたのですが、タイミングもあり、残念ながら東京に帰るしかないかなと思った矢先にお話をいただきました。不思議なご縁です。素晴らしいものを作っているのに伸び悩んでいる老舗企業。立て直す仕事をしたいと考えていた僕にはうってつけでした。甘いものが大好きという理由もあります。
―「千秋庵」について教えてください。
橋 創業は1860年で、秋田藩士だった初代・佐々木吉兵衛が日米和親条約で沸いていた函館にやってきて、ふきに砂糖をまぶしたものや昆布羊羹といった菓子を売り始めたのが始まりです。今でいうベンチャー企業のようなものですね。その一旗上げようというスピリッツは今も社風に残っています。「千秋庵」は秋田県の千秋公園からとったようで、故郷をしのんで命名したようです。
その後、三代目吉兵衛に請われて東京からきた松田咲太郎が四代目になります。犬養毅とも入魂(じっこん)だったという人物で、日本の和洋菓子の指南書を作った人でもあります。この人が東京から職人を連れてきて、「千秋庵」のお菓子は暖簾分けによって北海道中に広がり、札幌にある千秋庵製菓さんや、帯広にある六花亭さんも暖簾分けから独立された企業でいらっしゃいます。
松田咲太郎が昭和初期につくり始めた「元祖 山親爺」。
幕末に開港以来、西洋文化が伝わった函館らしく、バターと牛乳、白玉粉を使った和洋折衷の煎餅。
大正時代の末より松田咲太郎が作り始めた「どらやき」。
北海道道南地方の大納言を使い、三日間かけて丁寧に粒あんに仕上げている。
皮は手間のかかる宵ごねで生地を仕込み、一枚一枚で蒸し焼きにして作る。
―企業として大切にしていることは?
橋 160年の歴史の中で引き継がれているのは、やっぱりお菓子がおいしいものでないとダメ、ということ。突き詰めたおいしさがちゃんとあることが大事です。それから、おもてなし。商品を店頭に並べて、そこにお客様がわざわざ御来店していただき、ご購入いただく訳ですから、おもてなしをとても大切にしているし、その企業風土が従業員みんなにあるというのが根本的なところだと思います。
それと、160年続いているというのは、進化をおこたっていない、ということ。お客様の顔を見ながら、もっと甘くしようとかスッキリさせようとか、時代に合わせて工夫してきました。先ほど申し上げたベンチャースピリットがあるんですが、ここ数年はこの強味がかくれてしまっているので、これをどう開花させていくかがこれからの千秋庵総本家のポイントだと思っています。
和菓子屋さんもなかなか厳しくて、函館だけでも昨年4社がのれんをおろしました。跡取りがいない等事情はありますが、やっぱり新しいことにトライし、新陳代謝していかないといけません。特にこれからの若い方達に和菓子を食べていただく習慣をどう引き継いでいくか、それが課題だと思っています。
―今回ご紹介いただく、「函館散歩」について教えてください。
橋 まず、千秋庵のこだわりは、なんといっても「あんこ」なんですね。北海道・十勝の小豆を使っているのですが、実は特別な豆を使っています。音更産の雅という最高グレードの豆です。値段が普通の豆の1.2〜1.3倍くらいします。そしてこれを「こしあん」にしています。普通、いい豆は「つぶあん」にしますよね。それをあえて「こしあん」に。他の和菓子屋さんからは、「ずいぶんもったいないことしますね」なんて言われます。でも、断然においしいんです。この豆を2日間かけて丁寧に煮出して味付けをしています。あんこ好きの人が食べても他に負けないものを作ろう、というのがこだわりです。そして千秋庵総本家といえば「どらやき」なのですが、賞味期限がどうしても短いんです。それで賞味期限を長くして全国の方に食べてもらうにはどうすればいいだろうということで作ったのが、「函館散歩」です。
あんこは50種類ほどの中から、お菓子によって甘さ、粘り、香りの違うものを使い分けている。
―小豆のほか、小麦粉も北海道産のものですね?
橋 まずあんこが軸になっていて、そのあんこに合う口溶けの柔らかさだったり、匂いが邪魔しなかったり、最適なものを探して見つけたのが北海道産の小麦粉でした。なので、北海道産にすることが先に立っているわけではなく、おいしいものを探していたら道産だった、という順番です。
―どんな方におすすめですか?
橋 もちろん、お土産やギフトとしても最適です。賞味期限も長いですし、函館の有名観光地をモチーフにしていますから。ですが、実は地元の方も日常的に買っていかれる商品なんです。サイズも小さくて、ちょっとあんこを食べたいときにちょうどいいですし、年配の方はもちろん、男性やお子さんも「やっぱりこれだよね」という感じで選んでいかれます。北海道新幹線の開業に合わせて発売した商品ですが、もはや定番化しています。
函館を代表する散歩スポット「特別史跡五稜郭跡」「金森赤レンガ倉庫群」「函館ハリストス正教会」がカステラ饅頭の型になっている。
―今後の展望をお聞かせください。
橋 函館の中ではある程度ブランドが確立されていますが、これは逆に地元の皆さんの期待を裏切らないものづくりをしていかなければいけないということ。一方で、函館も人口が減少しています。新しいお客様にリーチしていかなければいけません。ですから、関東圏を中心にブランド周知する活動や海外を視野に入れて取り組んでいこうと考えています。
僕が常々思っているのは、海外のラグジュアリーブランドでも百年くらいしか経ってないのに、日本の和菓子屋さんは何百年も続いている。つまり、和菓子はジャパン・ラグジュアリーだという捉え方です。とはいえ、どらやきは5日間かけて作っても270円。かなり安いと思います。正しい価値をつけて、正しい評価をいただきながらブランディングをしていくことが大切だと思います。
そして、千秋庵総本家はやっぱり「どらやき」が推しです。今は工場で4、5日間かけて作って出して食べてもらうものがメインですが、アフター、ビフォア、アナザーという3つのどらやきのプロジェクトを考えています。ビフォアは、出来立てのどらやき。僕はこれを食べてあまりにもおいしかった。ちょっとあったかくて少し香ばしくて皮にかたさがあって。これが食べられたらいいですよね。それからアフターというのは、遠くの方達にも食べてもらえるものを作りたい。アナザーというのは、どうしてもお菓子ってフードロスが出るのですが、これをもう一度別のお菓子に変えようというプロジェクトです。進化系のどらやきにも今後注目していただきたいです。
どらやきはバリエも展開。こちらは国産バターと自家製餡をサンドした和洋折衷の「ばたどら」。
上から、プレーン、抹茶、モンブラン。
―日本の伝統の一つである和菓子をもっと大切にしたくなりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
「函館散歩」(5個入り)
価格:¥850(税込)※送料別途
店名:千秋庵総本家
電話:0138-23-5131(9:30~18:00 水曜日・年末年始除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL: https://sensyuan.official.ec/items/28591899
オンラインショップ: https://sensyuan.official.ec/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
橋淳央(株式会社千秋庵総本家 代表取締役社長)
1987年に慶応義塾大学を卒業後、株式会社伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社し婦人服商品担当を経て千葉県にある伊勢丹松戸店店長、MIHDS不動産事業統括部長、株式会社三越伊勢丹プロパティデザイン代表取締役社長、株式会社函館丸井今井代表取締役社長をへて、三越伊勢丹から現在の株式会社千秋庵総本家の代表取締役社長に2024年5月に転職し就任。函館在住。
<文/尾崎真佐子 MC/田中香花 画像協力/函館 千秋庵本家>