
祝いの席の乾杯に! 300年の歴史を紡ぐ老舗酒蔵こだわりの銘酒「奥の松 大吟醸雫酒 十八代伊兵衛」
2025/02/13
今回、アッキーこと坂口明子編集長が注目したのは、日本でも屈指の酒どころとして知られ、多くの酒蔵が立ち並ぶ福島県の銘酒「奥の松」です。造り手は、1716年(享保元年)創業という長い歴史をもつ老舗蔵元「奥の松酒造」。現当主である代表取締役の遊佐丈治氏が、間違いなくトップクラスの日本酒といって自信をもって勧めてくれた「奥の松 大吟醸雫酒 十八代伊兵衛」を試飲しつつ、酒造りのこだわりについてスタッフが伺いました。

奥の松酒造株式会社 代表取締役の遊佐丈治氏
―300年という長い歴史をおもちということで、老舗中の老舗ですね。
遊佐 まあ、酒屋で300年はよくありますから、当たり前といえば当たり前、大した老舗というわけでもないんです。しかも300年前に酒造りをしていたことが確かというだけで…。じつはもっと古くから商売はしていたのですが、はっきりしないから創業300年って言っているんですよ(笑)。

福島県二本松市にある、現在の奥の松酒造本社工場。併設の酒造ギャラリー(売店)には試飲コーナーも。
―古くから、というのは江戸時代から…ということで合っていますか?
遊佐 うちの祖先は古くは武家だったようで、主君は戦国大名の二本松畠山氏です。代々、福島県の二本松城下で遊佐家として奉公していたのですが、かの伊達政宗によって畠山氏が滅ぼされたのを機に、いつからか商家に転身したそうです。江戸時代初期(1604年~)には遊佐金之丞という人物が油屋を営み、油商として繁栄していたとのことですから、ひょっとすると江戸よりも前かもしれませんね。確実なのは、江戸中期の享保元年に酒造業も手掛け始め、味噌や醤油なども扱う一大醸造業を展開するようになった、という記録が残っているということなのです。
―かなりスケールの大きなヒストリーですね!
遊佐 江戸後期になると、当家は醸造業に専念することになりました。遊佐家の跡取りは、代々金之丞と伊兵衛の名を交互に繰り返し襲名するしきたりになっており、屋号を油屋と名乗って、「奥の松」などいくつかの清酒の銘柄を開発し、発展していったようです。明治維新の後、千石酒屋の規模にまで成長し、二本松の経済発展にも寄与。うまい吟醸酒の蔵元として名をなしていきます。そして1916年(大正5年)、奥州二本松の「奥」と「松」から命名された「奥の松」を、代表銘柄として商標登録いたしました。

さっそく「奥の松」を試飲。開栓すると、豊かな香りがふわぁっと広がる。口当たりがやわらかく、飲みやすい吟醸酒だ。
―数々の受賞歴をお持ちです。
遊佐 最初は1933年(昭和8年)の全国品評会優等賞、さらに2年後の全国名誉賞杯を皮切りに連続受賞を達成し、 "伊兵衛の吟醸蔵"として絶賛していただきました。また、全国新酒鑑評会において10年以上連続で金賞を、福島県鑑評会では最高位の県知事賞を受賞するなど、名実ともに福島県を代表する酒蔵としての地位を確立してきました。

2024年の東北清酒鑑評会・優等賞受賞時。
―「奥の松」の特長を教えてください。
遊佐 県中央部に位置する安達太良山(あだたらやま)の豊かな伏流水を仕込み水として使い、伝統的な杜氏の酒造りの技を生かした、飲みやすく味のある吟醸酒です。万人受けする飲みやすさと、飲み飽きしない酒。それでいて、香りや旨味は整っている…そんな日本酒本来のもつ良さを重視し、"伊兵衛の吟醸蔵"と讃えられた当時の流れをくむ職人技の伝承に、こだわり抜いています。
―製造の過程でのこだわりは?
遊佐 1974年(昭和49年)、より最適な自然環境と豊かな伏流水を求めて安達太良連峰のふもとに奥の松八千代蔵を新設し、酒造りの工程を二本松市内から移行しました。八千代蔵の地下には、安達太良山からの雪解け水の軟水が流れているので、天然水を醸造用水として毎時50トン汲むことが可能に。安達太良山に湧き出る清冽な水脈は、酒造りに必要なミネラル分をバランスよく含む、まさに理想的な名水。「奥の松」になくてはならない、きめ細かくなめらかな酒質の源としてこだわっています。

パッケージにも、安達太良山のふもとで高品質の水と空気に囲まれ伝統的な酒造りを続けている、との英文が。
―自社で精米もされているとか。
遊佐 とにかく細部にまで手抜かりなくやろう、ということをモットーとしています。原料となる酒造好適米の精米はもちろん、でき上がった酒の瓶詰め工程まですべて、他社任せにせず自社で管理し、端折らず、じっくり丁寧に造り上げています。日本酒業界では当時あまり例を見ないパストライザーという瓶詰め後の殺菌システムも、いち早く導入しました。高度な新しい技術と伝統的な酒造りの技を融合させることで、醸された原酒の持つ力強さと芳醇な香りや味わいがダイレクトにお客様にお届けできると考えています。信頼され選ばれる日本酒ブランド「奥の松」を目指すため、今後も徹底した品質管理のもと「伝統の技」と「最新技術」の融合を途切れさせることなく、最良の酒造りに挑戦し続けてまいります。

パストライザーで、一番おいしく仕上がった瞬間の風味や香りを逃さず届けられる。
―「奥の松 大吟醸雫酒 十八代伊兵衛」について、教えてください。
遊佐 これはもう、数ある「奥の松」のなかでもハイスペックな大吟醸、トップクラスのものになります。すっきりと膨らみのある味わいで、大吟醸造りの繊細さと芳醇な香りのバランスが絶妙です。雫酒というのは、でき上がった醪(もろみ)を少量ずつ酒袋に入れ、自然と滴る雫だけを集めて製品化したということ。余計な圧力をかけない分、繊細な香味を得られますが、量産できず貴重な酒となります。代々の当主の名に由来する、創業の志を極めた芸術品とも称され、日本酒好きにとってたまらない逸品だと思います。

堂々たる風格を醸す装丁からも伝わる高級感。
―こちらの受賞歴もすごいですね。
遊佐 14回連続、全国新酒鑑評会で金賞を受賞しており、2021年に黄綬褒章を受章した杜氏・殿川慶一が醸すことからも、自信をもってお勧めできる名品です。原料は採算を度外視しているようなところがあって、酒造好適米である山田錦の特上品を、兵庫県吉川町の特A地区から取り寄せて仕込んでいます。もちろん精米は自社の八千代蔵で、歩合40%まで磨いています。

酒米の王者ともいわれる山田錦を100%原料米とする、贅沢な逸品。
―スタイリッシュなボトルデザインも魅力的です。
遊佐 もちろん味だけでなく装丁にも手抜かりなく、です。まずは先ほどお話ししたパストライザーという火入れ殺菌時の内圧に耐えられる、デラックス王冠という特殊なキャップをキャップメーカーと共同開発しました。通常、発泡系の飲料に使われることの多い機械栓は、このお酒の品質を託すにふさわしい密閉性と、華やかなデザイン性を兼ね備えています。ボトルデザインのコンセプトは、"オンザテーブル"。ワインが嫉妬するような存在感を日本酒のテーブルでも表現したい、そんな思いを込めました。持ちやすさと注ぎやすさを両立させたボトルは、栓を開け放つとたちまちフルーティーな吟醸香がたちこめ、食卓を華やかに演出してくれるはずです。

ゴールドの金具部分を押し上げるようにして開ける機械栓も、おしゃれ。
―和紙を使ったラベルが目を引きます。
遊佐 ラベルには、みちのく紙として地元で古来から伝わる、上川崎の手漉き和紙を使っています。「奥の松」の書は、華道家の勅使河原宏氏の筆によるものです。いけばな草月流の3代目家元として知られ、優れた映画監督でもある勅使河原氏を敬愛する当家の専務が、縁あって依頼しました。一度目の依頼時は、「私は華と飛と龍しか書かない」と断られたのですが、3年後、別人が書いた「奥の松」を見て、ようやく筆を執ってくれたというエピソードが残っています。


素敵な木箱入りで、ここぞという時のギフトとしても喜ばれそう。
―どんなシーンで飲むのが合うお酒ですか?
遊佐 そこはやはり、これだけのポテンシャルをもつ華やかなお酒ですから、お祝いの席の乾杯にぴったりなのではないでしょうか。記念日や節目の行事など、楽しいシーンの最初の一杯でぜひ使ってください。

記念日を盛り上げてくれる、やや辛口の、冷やして飲むのがベストなお酒。常温でもおいしい。
―合うお料理はなんですか?
遊佐 これだけ鑑評会うけするということは、ちょっと派手めなお酒ともいえるんです。業界的な表現でいうと、シャインマスカットのようなフルーティな味わい深さといいますか…。誰が飲んでもわかりやすくおいしさを実感できるからこそ、本当はつまみなしで酒本来の味を楽しんでいただくのが一番いいと思っています。強いて言えば、豆腐とか、油揚げとか、素朴で控えめなつまみが、お酒の邪魔をしなくていいかもしれません。

さっぱりとした湯豆腐が、香り高い大吟醸酒と相性ぴったり。

カリカリに焼いたシンプルなお揚げも合う!
―特別な日っぽくはないかもしれませんね(笑)。
遊佐 今回、イチオシは最高峰の「十八代伊兵衛」なんですが、もう少し日常使いに適した「奥の松」でいうと、「あだたら吟醸」もおすすめです。水齢40年ともいわれる、同じ安達太良山の伏流水を使用していますが、こちらは"毎晩飲める吟醸酒"を目指したもの。ひとクラス上のおいしさをお手頃価格でも提供できる地酒蔵でありたい、との思いを込めて、地元が慣れ親しんだ「あだたら」を商品名にしました。インターナショナル・ワインチャレンジ(通称IWC)2018の日本酒部門において、チャンピオン・サケの称号を授与されております。

「あだたら吟醸」は、冷やまたは常温で飲むのに適した辛口の酒で、ぬる燗にしてもOK。
―「奥の松」は海外での評価も高いのですね。
遊佐 世界中の日本酒ブームもあり、アメリカを中心に海外への輸出は13か国ほどに及んでいます。今後も海外へ向けた展開はますます活発化していくと思いますが、当社としては"ごく普通に、手抜かりなく、おいしい酒を"提供し続けるのみ。ブームに左右されすぎることなく、海外のバイヤーや輸入オファー先との交流を通じて、しっかり取り組んでいきたいですね。
―では最後に、今後のビジョンや展望をお聞かせください。
遊佐 世界ではSAKEブームなどと言われていますけれど、国内の日本酒市場の落ち込みは、ますます厳しくなっています。まずはこれを打開する策を講じること。それから昨夏の米不足、これは酒造りにとってもかなりの打撃でした。今年も良質な山田錦が原料として確保できるかどうか。もちろん毎年少しずつ、原料が違えば味も違ってくるのですが、それも入ってきた原料を見極め、ゴールを決めて仕込むわけですから、入ってこないと大変です。
ということもあり、もっと先の未来を見据えて、福島県産の新しい品種のお米を使った酒の開発も進めています。じつは2年前くらいから「福之香」という酒造好適米の新銘柄を発売しているのですが、山田錦の血を引く品種を交配した福島の酒米で、15年もの歳月をかけて完成した製品です。県とも協力し、地域性を活かした新しい提案を試みることで、消費拡大へと繋げていきたいと考えています。
―華やかな吟醸香に包まれて気持ちが高揚するような、まさにハレの日のお酒でした。貴重なお時間をありがとうございました!

「奥の松 大吟醸雫酒 十八代伊兵衛」(720ml アルコール度17度 木箱入り)
価格:¥5,500(税込)
店名:奥の松酒造オンラインショップ
電話:0243-22-2153(9:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://okunomatsu.co.jp/ginjo/11108.php
オンラインショップ:https://okunomatsu.co.jp/product.php

「奥の松 あだたら吟醸」(720ml アルコール度15度)
価格:¥1,188(税込)
店名:奥の松酒造オンラインショップ
電話:0243-22-2153(9:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://okunomatsu.co.jp/ginjo/11205.php
オンラインショップ: https://okunomatsu.co.jp/product.php
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
遊佐丈治(奥の松酒造株式会社 代表取締役)
1963年4月28日、東京都生まれ福島県育ち。
大学在学中から奥の松酒造にて勤務しつつ、麹と原料処理の研究にいそしむ。卒業後は、東京国税局・滝野川醸造試験場の研究員として酒造りを学び、各地の蔵元で修行を積む。1996年12月21日、東日本酒造協業組合に入社。2006年8月21日、同理事長就任。同年8月31日、奥の松酒造に入社。2007年8月26日、奥の松酒造 代表取締役に就任、19代当主となる。自身の好みの酒は、香りはほどほどで、冷やでも燗でもおいしいすっきり辛口の本醸造と語る。
<文・撮影/亀田由美子 MC/田中香花 画像協力/奥の松酒造>