和食文化に寄り添うお酒造り
357年の老舗酒造「菊正宗」
菊正宗は、創業万治二年(1659年)、約350年の歴史を持つ老舗酒造です。灘の酒は江戸時代から酒の有数の生産地として知られてきました。その中でも菊正宗を本家とする嘉納家は酒蔵の名家です(白鶴酒造は分家にあたるそう)。
そんな酒蔵の名家に生まれ、現在は、菊正宗の社長。嘉納さんが繰り返し語るのは“頭で日本酒を呑んで欲しい”ということ。
この言葉の意味するところとは?
菊正宗は、創業万治二年(1659年)、約350年の歴史を持つ老舗酒造です。灘の酒は江戸時代から酒の有数の生産地として知られてきました。その中でも菊正宗を本家とする嘉納家は酒蔵の名家です(白鶴酒造は分家にあたるそう)。
そんな酒蔵の名家に生まれ、現在は、菊正宗の社長。嘉納さんが繰り返し語るのは“頭で日本酒を呑んで欲しい”ということ。
この言葉の意味するところとは?
2015年冬、菊正宗から新しいお酒が発売されました。それが純米酒「香醸」です。
純米酒として呑んでみると、その吟醸酒を思わせるフルーティーな香りに驚くはず。
吟醸酒はリンゴのような爽やかな香りが特徴的ですが、その一方で、日本酒のコクのもとであるアミノ酸が多く含まれた部分を酒米から削り取ってしまうため、純米酒に比べてコクが少ないと言われてきました。逆に純米酒はコクがあっても、香りは吟醸酒に及びません。
このコクと香り、双方を兼ね備える事に成功したのが「香醸」です。
「もちろん香りを楽しまれる方もいらっしゃいますが、コクと旨みと香りが三拍子揃ってお酒の美味しさなんですね。それがこのお酒の魅力なのです」(嘉納さん)
三拍子がそろったおいしさの秘密は菊正宗が独自に開発した酵母「キクマサHA14酵母」です。現在特許申請中のこの酵母を使用することで、純米酒であってもまるで大吟醸のような香りを楽しむ事ができます。
香気成分であるカプロン酸エチルの含有値、この数値が高い程香りが良いとされています。各種大吟醸や純米酒の香気成分の数値比較はホームページにも載っています。
数値で美味しさを示す。ここでも「頭で日本酒を呑んでほしい」という思いが表れていますね。
数値や科学など、味気ない言葉を使ってしまいましたが、嘉納さんの「頭で日本酒を呑む」には別の意味もあります。
それは日本酒というのは文化や製法、種類など知識を語りながら呑むのが美味しいということです。そのために日本酒は難しくてよくわからないという人にもわかりやすく数値や比較で美味しさを示しているのです。
「お酒と知識を一緒に売らなくてはいけないんです」と嘉納さんは言います。そのために、お店に訪問するセールスマン用にオリジナル問答集も作っており、一時期は一般販売もしていて好評だったとか。
灘の酒と言えば、江戸時代から飲まれていたのが「樽酒」です。
灘から江戸へは船に積んで運ぶ間に、じっくりと吉野杉の香りが酒に移り、あの爽やかな木の香りのする樽酒が完成するそうです。灘から江戸へ下ってこないお酒は「くだらない」と言われ、「くだらない」という言葉の語源にもなったほど、灘の樽酒は江戸の酒文化の中心でした。その中で菊正宗は樽酒のトップシェアを取っており、樽酒といえば菊正宗と言っても過言ではありません。
吉野の杉は日本三大美林のひとつ。お酒に合わせて吉野杉を選んだのではなく、吉野杉に合うようなお酒を作ってきたと言う程、吉野杉は樽酒に無くてはならないものです。
しかし、時代の流れにより樽職人は激減、樽造りが途絶える危機にありました。その技を絶やさないよう菊正宗は社員として3名のベテラン樽職人を雇い入れ、樽酒にとって重要な樽が安定的に造られる環境を整備しました。
「樽酒は和食と一緒に呑むのがおいしいんです」(嘉納さん)
樽酒が和食に合うという事は江戸時代から知られていますが、嘉納さんが言うには、木の香りがポイントなのだそうです。
「木の食器で食べると美味しいように和食は発展してきました。琉球大学では、附属小学校で給食の食器を木製に変えたら、食べ残しが大幅に減り、ごはんのおかわりが30%も増えたという調査結果が出たそうです。日本の伝統的な食事は木の香りで食欲が出るようになっているんです」。
これが、木の香りを生かした菊正宗が食事に合う理由です。ユネスコ無形文化遺産として登録された和食を樽酒は影で支えてきたのかもしれません。
「頭でも日本酒を呑んで欲しい」。この言葉に菊正宗の樽酒を呑んでもらう工夫の1つが隠れています。菊正宗は樽酒が和食に合うことを感覚だけではなく、科学的に説明。例えば、なぜ樽酒がうなぎに合うと言われているのかを証明するため旨味成分を味覚認識装置で測定し、本醸造酒と比較して解説。サイトの「酒の肴レシピ」で紹介されている日本酒に合う料理のレシピにも生かされています。
科学的な根拠をもって美味しさを証明する文化は、明治時代にまだまだ高級品だった顕微鏡を海外から取り寄せてお酒の研究を始めた頃から受け継がれています。
美味しい食事と語らえる友人や家族、そして、菊正宗のお酒で今晩は一杯いかがですか。
全国のデパートに展開するお惣菜屋さん。
「ここのお惣菜はどこかでまとめて調理したものを持ってくるのではなく、デパート内で調理した出来立てを出しているんです。美味しいおかずは白いご飯を益々美味しくするので、ご飯を多く食べてしまいます。まつおかのお惣菜を買う時は家内にご飯を2倍炊いておいてもらうように言っておくんですよ」とのこと。
食事を益々美味しくするのはお酒と同じですね。
嘉納毅人さん
兵庫県神戸市出身。
灘の酒蔵の名門、嘉納家の待望の男児として生まれる。
甲南大学卒業後、サッポロビールに入社。
その後、菊正宗酒造株式会社に戻り、昭和60年に社長職に就任。
蔵元・菊正宗の11代目当主でもある。
お酒は食事をおいしくすると考えており、お刺身が食卓にのぼるときなどは必ずお酒をそえる。すぐに顔が赤くなってしまうので、少量のお酒を味わって呑むのだそう。
菊正宗酒造株式会社
万治2年(1659年)から創業350年以上の酒蔵の老舗。
http://www.kikumasamune.co.jp/