【連載】グルメ散歩・福井 ~老舗グルメ(小浜市)~
若狭国から京の都へ運ばれた
御食国の一品
福井県の名産物として選ばれることの多い❞ささ漬け❞。その老舗では、工場の大量生産ではなく、人の手や勘や長年の経験という唯一無二の技で、味を維持しさらに発展させていた。
おいしさを追求し発展した加工技術
かつて若狭の国と呼ばれた福井県南部の小浜市は、美しい海に面した風光明媚な場所。海の幸が豊富に獲れる環境で、地理的に京都に近いことから、古来より❝皇室や朝廷に捧げる食べ物を供給する御食国(みけつくに)❞といわれていました。
『津田孫兵衛』はおよそ320年前に鮮魚商を創業した老舗です。京までおいしく魚を運ぶための加工技術が長い歴史のなかで試行錯誤され、水産加工へと発展しました。
ささ漬けもその経緯でうまれた食べ物。おろした小鯛に塩をまぶし、酢やみりんにくぐらせ、昆布とともに樽に漬けたもの・・・簡単に表現すると、非常にシンプルな工程かもしれません。しかし、その加工技術は一朝一夕でできることではなく、熟成の温度から調味料の加減など細部にわたっており、この店ならではの歴史もあります。
シンプルな工程だからこそ、難しい
わずか10cm足らずの小さな鯛を3枚におろすのは、もちろん手作業です。加工の決め手となる塩は、生食に合うように4種の塩をブレンドしているそう。
「季節によって変わる人の味覚や小鯛の脂ののり具合を見極めて塩をふるのは、長年の感覚です。❝塩梅❞というように、その塩加減は非常に難しい。塩ひとふりで身のしまりが変わります」と18代目・津田信一(つだしんいち)さんが教えてくれました。また、酢は無農薬米から静置発酵させた酢と3種の純米米酢をブレンド。みりんは、100%もち米から長期熟成されたものに本みりんをブレンド。また徹底管理された0℃に近い温度帯で熟成させることで、旨みや甘味につながるアミノ酸や糖類を蓄えられ、まろやかさやなめらかさが増すそうです。そして、余分な水分を木樽が吸収してくれるという、容器にも意味が。
お土産で人気ですが、地元では❝めでたい❞ハレの品として、結婚式引き出物などに利用されているそう。「まずは、そのまま食べて、本来のおいしさを味わうことをおすすめしています」と津田さん。骨もなく、生魚ながら多少日持ちします。にぎり寿司に、しゃぶしゃぶに、お茶漬けに、といろいろな味を楽しめるのも、選ばれる理由かもしれません。
“おいしい”をお取り寄せ